放送局: HGTV

プレミア放送日: 7/23/2006 (Sun) 21:00-22:00

製作: トゥルー・エンタテインメント

製作総指揮: スティーヴン・ウェインストーク、サリー・アン・サルサノ

ジャッジ: シンシア・ロウリー、マーサ・マッカリー、ヴァーン・イップ

ホスト: クライヴ・ピアース


内容: 勝ち抜きのリニューアル・デザイン・リアリティ・ショウ。


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HGTV (Home & Garden Television) は読んで字の如く、家のリニューアルや収納アイディア、ガーデニング等、家や庭関係の番組を揃えるチャンネルである。姉妹チャンネルには日曜大工が趣味の者のためのDIY (Do It Yourself) チャンネル、食関係のフード・ネットワーク、ライフスタイル一般のファイン・リヴィング等があり、どれも生活に関係したテーマを扱っている。


これらのチャンネルに共通しているのが、そのチャンネルで放送している番組のいくつかというよりも、チャンネルそのものを見ることが多いということが挙げられる。つまり、放送されている個々の番組を知っているわけではないが、その手の収納なりガーデニングなりリニューアルなりのアイディアが得られるということで、なんとなくこのチャンネルに合わせるという見方をされることが多い。


フード・ネットワークの諸番組等は、それでもまだ特定の番組ホスト目当ての視聴者も多いが、HGTVの場合は、そういう特定の目的のない、ながら視聴で視聴者がチャンネルを合わせるチャンネルの筆頭と言える。マーサ・スチュワートほどではないが人気のあるインテリア・デザイナー兼番組ホストもいないではないが、視聴者心理としては、ほとんどインテリア雑誌をぱらぱらめくっているのと変わらない。


そのHGTVが今回試みたのが、自前のカリスマ番組ホスト兼インテリア・デザイナーを養成しようという、勝ち抜きリアリティ・ショウ「HGTVデザイン・スター」の製作だ。公募により選出された10人の参加者に課題を与え、毎週勝ち抜きで一人ずつ落としていき、最後に残った優勝者にHGTVで自分がホストの家屋リニューアル番組を持たせてあげようという企画だ。なんのことはない、昨年、フード・ネットワークが企画した「ザ・ネクスト・フード・ネットワーク・スター」のHGTV版であるわけだ。やはり姉妹チャンネル、やることが似ている。


とはいえ、私は料理するのは結構好きだし、食関係の番組は確かに見ていて飽きないこともあって、「ネクスト・フード・ネットワーク・スター」はほとんど毎回見ていたが、一方で、特にインテリアとか収納とかに興味があるわけではない。要するに片付けとか掃除の類いは嫌いなのだ。部屋は多少汚れているくらいが落ち着くと思っている。そのため、その手の番組は、見れば見たでそれなりに面白く、見てしまうのは事実であるが、かといって、やはりわざわざ「デザイン・スター」を毎回見ようとまでは考えていなかった。


ところが、私の女房が、こちらはこの手の番組が大好きなのだった。とはいっても彼女が掃除好きというわけでもないのだが、その分、この手の番組を見るのが好きという理由も確かに成り立つ。それでこういう番組があるけど、といって見せてやると、食い入るように見ている。面白いようだ。それで最後の数回だけを見ていたら、参加者が最後の二人に絞られて最後の勝負を決めるエピソードの収録が公開になっていて、その模様をニューヨークのブライアント・パークで収録するという。


こうなってくると、私も気になってしまう。家屋リニューアルの勝ち抜きリアリティという番組を、いったいどういう風にして公開収録するというのか。しかもブライアント・パークは、ZaiyaやBook-Off等の日本人ご用達の店が軒を連ねる41丁目の、パブリック・ライブラリを挟んで反対側にあり、しかもちょうどその時我々は、その週末にその辺まで買い出しに足を伸ばそうと予定していたところであった。そこから徒歩数分の場所で「デザイン・スター」の最終回が収録されている。ということで、さすがにこれはちょっと覗いてみようということになった。


その日は小雨模様で、濡れるのも嫌なので、最初、車に乗ったまま6番街を北上、40丁目のブライアント・パークの角で右折して、車を停める場所を探しながら横目でちらちらとブライアント・パークの方を窺っていた。しかし、それらしきものがまったく見えない。それで、これは期日をカン違いして、本当は来週なんじゃないかと思った。それでも、このまま帰るのも癪なので一応パークの内部を覗いてみるだけはするかと思って、処々の買い物等の用事を終えて、ブライアント・パークに足を運んだ。


ブライアント・パークでは、毎年恒例となったファッション・ウィークに中央の芝の広場を全部使って仮設テントを建て、そこでファッション・ショウを開く。ブラヴォーの「プロジェクト・ランウェイ (Project Runway)」で参加者のファイナリストがショウを開くのもここの仮設テントだ。世界中のファッション関係者の目が集まり、パーク沿いのストリートには関係者のトレイラーが軒をなし、独特の活気で沸く。つまり、私が考えていたのもそれだ。


ところが、「デザイン・スター」は最初私が考えたように、パーク内部の芝生の上にセットを建てて番組を収録しているのではなく、その片隅の、6番街側の出入り口のすぐそばに、なにやらそれらしきものがちんまりと建っているではないか。あまりしょぼいので見過ごすところだった。それなのにその出入り口の上には、大きく「HGTV Design Star」と書かれたアーケードのようなものがかかっている。実はそれがあったからこそ、あ、あそこで何かやっていると気づいたのだが、しかし、もっと派手派手しくやっているものだとばかり思った。


要はそのアーケードの後ろに、最後まで残った参加者のデイヴィッドとアリスが内部をデザインする12畳ばかりの大きさのガラス張りの小屋があるという、ただそれだけである。考えたら、せいぜいそんなもんか。これ以上大きかったりしたらデザイナーだって手に余るだろうし、第一、一週間という制限時間内でできることはこんなもんだろう。最終回の課題は、そのガラス張り小屋を好きなように飾りつけるというもので、ベッド・ルームにしてもよければキッチンにしてもよければ書斎にしてもよい。バス・ルームにして奇を衒って受けを狙うというのもありだろう。


いずれにしても、我々が行った時はそのガラス小屋はまだがらんどうの状態で、ほとんど何も手をつけられていなかった。小雨模様なので見物客もまばらで、これじゃほとんど見る意味がない。それでがっかりして帰ってきたわけだが、考えると、そのがらんどうのガラス小屋の中で、床に図面を敷いて座り込んでなんか考え込んでいる奴らが両方にいた。今思うに、あれはデイヴィッドとアリスだったに違いない。しまった、せめて彼らの生顔だけでも拝んでくるんだった、と思った時は後の祭りである。結局わざわざ何をしに行ったのやら。


とはいえ、そこがTVという媒体の面白いところなのだが、実際にその場所を実地に見、どこに何があるかということを知っていて、この目で見たものがTV画面に映ると、それだけで楽しく見れちゃうのだった。あんなしょぼくさく見えたものが、TV画面を通すとそれなりに一応は格好がついてちゃんと見れるのは不思議だ。要するに、そういう見れるところしか映していないからなのだが、そういう裏の部分も知っているもんね、という一種の優越感のような気分もある。


さて、その最後の課題、期せずしてデイヴィッドとアリスは共にガラス小屋をベッド・ルームに仕立て上げた。ガラス張りの対面でお互いがどういう仕事をしているか丸見えだから競合意識を燃やしたというよりも、やはりベッド・ルームが最もデザインし慣れている基本ということだろう。そのデザインであるが、デイヴィッドのデザインは、かなり直線を利用した抽象絵画的なフォルムが特長だ。色使いもアース・カラーを基調として、洗練されているという印象が強い。これまでに見たエピソードでも、私がいいと思ったのはこのデイヴィッドと、最後の3人にまでは残ったが、最後に落とされたティムの二人だ。


一方のアリスは、自分の名と同じ「不思議の国のアリス」に因んだ、子供/女の子向けのベッド・ルームをデザインする。これはガラス張りの小屋が、一見して「鏡の国のアリス」を想起させたからに違いない。私ですらパークでガラス張りの小屋を見た瞬間に、この本の原題「Through the Looking Glass」を連想したくらいだ。同じ名前を持ち、幼い時から原作に親しんできたに違いないアリスが、そう思わなかったわけがない。


そして勝負としては、その連想に縛られたアリスのデザインが、いつもの精彩を欠いてしまったということが言えるかもしれない。この本のタイトルを活かすには、できるだけガラスを意識し、壁にはあまり手をつけたくない。「Through the Looking Glass」なのだ。壁によけいなものがあったらその効果を欠いてしまう。それで結局、アリスは一見してよけいな飾りがなく、特に何の変哲もない子供部屋を作り上げたのだが、正直言って、これまでにアリスがしてきたデザインの方がよかったと思う。


素人の私が見ても明らかにデイヴィッドの勝ちだと思ったのだが、実際、番組最終回の視聴者投票の結果は、デイヴィッドに軍配が上がった。獲得票数の発表はなかったが、大差がついたろうと思う。デイヴィッドは来年、自分のリニューアル番組を任されることになり、早ければ春先から放送される見通しだ。デイヴィッドは外見もよく、見映えもするから、彼の番組はかなりいい線行くかもしれない。


余談だが、デイヴィッドはかなり性格もよさそうで、しかも脱ぎたがりだ。つまり身体を鍛えており、自信があるんだろう。実際いい身体している。番組では特に言及されていたわけではないが、たぶん、彼はゲイだ。いつかの番組エピソードでは、クローゼットにいたデイヴィッドを誰かが引きずり出して、デイヴィッドがクローゼットから出てきたあ、と囃していた。むろん、クローゼットから出てくる、Coming out of closetとは、ゲイの人間が自分がゲイだと正直に名乗り出ることを意味するスラングだ。その時、デイヴィッドの顔が一瞬かなり引き攣ったところを見ると、彼がゲイである確率は80%以上と見た。


ついでにもう一つ蛇足を付け加えると、ジャッジの一人であるアジア系のヴァーン・イップは、一時期TLCのドル箱番組であったリニューアル・リアリティの「トレーディング・スペイスズ」でデザインを担当していた。同じく「スペイスズ」で人気のあったイケメン・カーペンターのタイ・ペニントンが、今ではネットワークのABCの人気家屋リニューアル番組「エキストリーム・メイクオーヴァー: ホーム・エディション」でチーフ・カーペンターとなって全米の人気を博していることを思えば、弱小ケーブル・チャンネルの一つでしかないHGTVの一番組のジャッジに過ぎないイップは、多少キャリアで差をつけられたという感じがする。やはりTV番組では、外見もキャリアを築く重要な要素の一つなのだった。






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HGTV Design Star


HGTVデザイン・スター   ★★1/2

 
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