放送局: コメディ・セントラル

プレミア放送日: 1/22/2003 (Wed) 22:30-23:00

第3シーズン・プレミア放送日: 7/9/2006 (Sun) 21:00-21:30

製作: パイロット・ボーイ・プロダクションズ、ア・マロブルー・プロダクション

製作総指揮: デイヴィッド・シャペル、ニール・ブレナン、ミシェル・アーマー

ホスト/出演: デイヴィッド・シャペル

第3シーズン・ホスト: チャーリー・マーフィ、ダネル・ロウリングス


内容: コメディアン、デイヴィッド・シャペル主演/ホストのスケッチ・コメディ・ショウ。


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黒人コメディアン、デイヴ・シャペルがホスト/主演のスケッチ・コメディ・ショウ「シャペルズ・ショウ」は、3年前から放送が始まっている。第1シーズンからそれなりに話題になっていたが、番組が大きく注目されたのは、翌年、第2シーズンが始まってDVDが発売され、ほぼ時を同じくしてコメディ・セントラルが5,000万ドルというほとんど天文学的な数字でシャペルとの再契約を結んだという発表があってからだ。


因みにこの金額は、世界的スーパースターのタイガー・ウッズがナイキと結んでいる契約の額とほぼ同じである。シャペルってそんなに大物だったのか。しかも世界をマーケットにしているナイキと、まだまだアメリカのケーブル・チャンネルの一チャンネルに過ぎないコメディ・セントラルでは、企業の規模が違う。ナイキが5,000万ドル出すのとコメディ・セントラルが5,000万ドル出すのとでは、意味が違うのだ。コメディ・セントラルなんて、「サウス・パーク」がなかったらいまだに知らない人間の方が多いに違いない。


私もそれまでは、そういう番組があって、黒人を中心にそれなりに人気があるということは知っていたが、特にそれ以上の興味を持つこともなかった。しかし、コメディ・セントラルのこの常軌を逸した契約は、目を惹くのに充分なニューズ・ヴァリュウがあった。ハリウッドの一線級のスターですら、これだけもらうのはめったにいない。コメディ・セントラルは当然シャペルにそれだけの価値があると思っているからそれだけ払ったのであって、そのシャペルが製作/主演している「シャペルズ・ショウ」に俄然興味が沸いてきた。


さらに番組の人気を裏付けるように、発売された第1シーズンのDVDは、これまでに300万枚以上という、アメリカのTV番組のDVDとして史上最高の売り上げを記録した。「フレンズ」よりも「Sex and the City」よりも「サウス・パーク」よりも「ER」よりも「CSI」よりも、「シャペルズ・ショウ」のDVDの方が売れているのだ。その上、そのシャペルがニューヨークのブルックリンで路上ライヴをする様をとらえた音楽ドキュメンタリー「デイヴ・シャペルズ・ブロック・パーティ」が、なぜだか「エターナル・サンシャイン」で知られるフランス人映画作家のミシェル・ゴンドリー監督によってとらえられ、これも評判になった。というわけで、私は当初、昨年5月末に予定されていた番組の第3シーズンが始まるのを心待ちにしていた。


話はここからややこしくなってくるのだが、昨春、その、順風満帆にキャリアを築いているように見えたシャペルが、いきなり行方不明になったという怪情報が電撃のように業界を走った。5,000万ドルという大金を得て、顔が売れ、短期間のうちに売れないコメディアンからセレブリティの仲間入りをしたシャペルは、精神の均衡を崩して、今、アフリカの精神病院に入院しているという嘘か真か知れない噂がまことしやかに業界中に広まった。結局、シャペルが気が触れたというのはがせネタだったようだが、少なくともアフリカに行ったというのは事実だったようだ。


いずれにしても、本来なら番組の第3シーズンを収録中でなければならないシャペルがスケジュールをぶっちぎってアフリカに飛んだことは確かで、当然、様々な憶測を呼んだ。それからこれまでに流れた情報を総合すると、要するに、いきなり俄かセレブリティになったシャペルの周りに、その金を目当てに禿げ鷹のように有象無象の人間が群がってきたらしく、シャペルはそれに本気で嫌気が差したらしい。シャペルは結局、5,000万ドルという契約金を蹴って番組から降りた。世の人間は唖然としたが、本人がどうしても嫌だというのを強制して番組を作らせても、面白いものなんか作れないだろう。特にそれがコメディとなればなおさらだ。


そのため、「シャペルズ・ショウ」の第3シーズンは、当初、昨春のシーズン・プレミア放送日まで発表になっていたが、結局そのままうやむやになった。放送するべき番組ができていないんではしょうがあるまい。とはいうものの、既に製作自体には入っていた第3シーズンは、なんとか4エピソードだけは収録済みだった。今回、コメディ・セントラルは、その4エピソードを、番組の「失われたエピソード」と題して放送したものだ。これらのエピソードは昨春にはできていたわけで、スタジオに客を入れての収録も夏頃には終わっていたらしい。なぜそれを今頃放送するかは疑問だが、いろいろとシャペルとの契約上の問題があったんだろう。


とはいえ、既に番組を降りたシャペルは、これらのエピソードでは各コメディ・スケッチに出演はしていても、それを紹介するホスト役は担当していない。元々シャペル一人の番組であった「シャペルズ・ショウ」は、スタジオの観客を相手にシャペルが登場し、自分で前口上を述べて、自分が出演しているギャグ・スケッチを紹介するというのがオリジナルの構成だった。「ロスト・エピソーズ」ではそのホストの役割を、それまでにも番組に出演していたチャーリー・マーフィとダネル・ロウリングスが受け持っている。因みにマーフィはその名字からもわかるように、かのエディ・マーフィの実兄である。本当に顔がそっくりなので、ひと目見れば名を聞かなくてもエディの兄弟だと合点がいくだろう。


さて、ひとまずたった4エピソードだけにしても番組の放送が決まったことで、コメディ・セントラルは番組プロモーションも兼ねて、第1シーズン、第2シーズンのエピソードもがんがん再放送し始めた。当然私はこれを待ちかねて見たわけだが、いや、確かに、こいつは面白い。番組のDVDが飛ぶように売れたというのがよくわかる。


シャペルの笑いは黒人コメディアン特有の、人種差別を主題にしたものが多い。特に印象的だったのがそもそものシリーズ・プレミア・エピソードで、そのエピソードで既にシャペルの特色と真価が出尽くしている。いくつかある中で最も強烈だった最後のスケッチで、シャペルが扮するのは盲目のため自分が黒人と知らないまま白人家庭で養子として育てられ、KKKに入って黒人を弾劾する差別主義者という設定だ。育ての親が面倒くさがってシャペルにおまえは黒人だとは教えず、周りの者もそれに追随したため、シャペルは今でも自分は黒人だということを知らない。そこへPBS (公共放送) の記者がKKKの取材に来て驚愕するという話なのだが、この設定を思いついたことだけでも、シャペルがただ者ではないことがわかる。


喜劇でも悲劇でもどっちでも使えそうなこの設定をギャグとして用いているわけだが、実はこれだけ毒の効いたギャグを笑い飛ばすには、視聴者にもそれなりの心構えが要る。たぶん、大方の視聴者は笑うというよりも驚愕しただけという方が多いのではないかと思われる。最近、ちょっとおっぱいが見えた見えないというだけで放送局に罰金を課したりして顰蹙を買っている、アメリカのTV番組の放送基準を決めるFCC (連邦通信委員会) が、よくこんなやばいエピソードをほっておいたものだと思う。たぶんFCCの誰も見ていなかったに違いない。


他のあるエピソードでは、ニガー家という白人一家が登場する。今では公的にはあまり使われなくなったため、知らない者もいると思うので一応説明すると、ニガーというのは黒人の蔑称である。そのニガーという名字を持つ白人一家がいる。その白人のニガー家のそれぞれが、うちらニガー家は云々なんて言うたびにおかしいのだが、最も笑わせるのは、そこへ白い制服を着て真っ白な牛乳を配達して回るシャペル本人が現れて、ニガー家にニガー、ニガーと言って回ることで、これは結構笑える。


しかし私が最も堪能したのが、アメリカでは家族向け番組に出演して、クリーンな印象で知られる黒人タレントのウェイン・ブレイディとシャペルが一緒に夜の街をドライヴするというスケッチだ。ブレイディが運転しているのがレクサスのSUVという設定からして、既になんとなくおかしい。アメリカではレクサスはなぜだか黒人ギャングから好かれているからだ。昔「NYPDブルー」を見ている時に、黒人ギャングが抗争の場からレクサスに乗って逃げたという設定で、デニス・フランツ演じるアンディ・シポウィッツが、なんであいつらは全員レクサスに乗っているんだと憤慨するシーンがあったが、つまり、そういうイメージができ上がっている。もちろん白人も多くレクサスに乗っているが、黒人がレクサスに乗っているとほとんど短絡的にギャングを連想する。こういう画一的でまったく創造的でないものの考え方が差別の第一歩なんだろうと思うが、こういう印象を受ける一般人が多いのは間違いない。要するに、そのためにわざわざブレイディはレクサスに乗っているわけだ。


で、シャペルを隣りに乗せたまま、ブレイディは対抗ギャングの溜まり場に向かい、そこで不審に思うシャペルを尻目にいきなりマシンガンをぶっ放して相手らを皆殺しにしてしまう。ブレイディを知っていると、ここで既にかなりおかしい。その後、シャペルが何か買って食おうと思うが手持ちの金がない。それで近くにATMはないかとブレイディに訊くと、ブレイディは車を銀行じゃなく危なげな街角に停める。そうすると彼がヒモをしている売春婦がわらわらと集まってきて彼に稼ぎを手渡すのだ。その中で上がりが少ない子が一人いて、いかにもヒモらしくブレイディがその子を罵倒して殴ろうとするのをシャペルが必死に止めにかかるのだが、切れるブレイディと、普段は自分の方がよほど危ないシャペルの対比がこれまたおかしい。この金は使えないとシャペルがブレイディに金を返そうとすると、オレの金が使えないのかとまたブレイディが切れるのだ。


その辺までで既に結構爆笑なのだが、その後も、オレの勧めるマリファナが吸えないのかと脅され、結局一服したらくらくらと来てほとんど気を失ったシャペルが目覚めると、車が路肩に停められ、ブレイディが白人警官から尋問されている。最初は調子よく相手に合わせているブレイディだったが、隙を見て警官の背後に回り、首の骨を折って逃げるという言語道断の展開になる。もう、この辺では私はほとんど笑いながら涙を流していた。TVを見てあんなに笑ったのは本当に久しぶりだ。ブレイディのことを知らなくてもかなり笑えるのは確かだが、アメリカにおけるブレイディのパブリック・イメージを知っていると、さらに笑える。結構いろんなシットコムやレターマンやレノの深夜トークとかを見ても笑わされはするが、あそこまで腹を抱えて笑うことはめったにない。「サタデイ・ナイト・ライヴ」なんかお呼びじゃないという感じだ。


さて、その「シャペルズ・ショウ」のたった4エピソードしかない第3シーズンである。番組は毎回、冒頭で楽器をかき鳴らす二人の黒人がいて、その前をシャペルが通りかかってちょっと鼻歌を歌うというオープニングで始まるのだが、第3シーズンの最初のエピソードでは、いつも通り二人の男が楽器を鳴らしているのだが、シャペルが来ない。彼は番組を降りたからだ。それで二人は、来ないねえ、来ないなあとぼそぼそと話し合う、なんか「ゴドーを待ちながら」でも見ているみたいなオープニングになっていた。それにしても毎回共通の番組オープニングで、わざわざ撮り直す必要もないとも思えるものをまた新しく作ったのか。当然その後の、本来ならシャペル自身が登場して各コメディ・スケッチを紹介するというところでも、シャペルは現れない。そのためチャーリー・マーフィとダネル・ロウリングスがその役を受け持っている。シャペルが登場するのは、既に撮影済みのギャグ・スケッチの中だけだ。


第3シーズン最初のそのスケッチは、俄か億万長者となった、そのシャペル自身をパロるスケッチから始まる。シャペルが床屋で髪を刈っている最中 (実際には彼は坊主であり、剃っていると言う方が正しい)、TVで、シャペルが膨大な契約金を手中にして大金持ちになったというインタヴュウのシーンが流れる。床屋も他の客も凍りつき、とっとと退散しようとするシャペルが床屋に、で、散髪料いくら? と訊くと、料金表に8ドルという表示が出ているのに、いきなり床屋が1万1千ドルと答えるシーンはかなりおかしい。シャペルが異議を唱えようとすると、床屋はベルトに挟んでいる拳銃を見せて威嚇するのだ。その後、カー・ウォッシュで車を洗車して勘定を払おうとすると、今度は車一台の洗車に870ドルと言われてしまう。やはりコメディアンは自分で自分をネタに使えるくらいじゃないとダメだね。


とはいうものの、では、第3シーズンもそれ以前並みに面白くて笑えるかというと、実は胸を張ってうんとは言えないのが苦しいところだ。繰り返すが、シャペルのギャグは黒人特有の、人種をネタにした差別ギャグが多い。普段は虐げられている階級に属しているという認識があるからこそ、その差をギャグにして笑い飛ばすことができる。それなのにそういう差別ギャグを飛ばすシャペルが大金持ちになると、その認識がどうしてもギャグの凄み、面白さを薄めてしまうのだ。第3シーズン冒頭のスケッチの、それをまた逆手にとってギャグにしようとした点はなかなかうまいと言えるが、しかし、それでもそれ以前の、自分以外の金持ち白人を罵倒したり、同じ黒人を揶揄したりしたギャグの切れ味と較べると、いささか落ちると言わざるを得ない。


たぶんそのことを最もよくわかっているのがシャペル本人だろう。現実の本人が今では金を持っているということが広く事実として知れわたっている時、こういうシャペルのギャグの切れ味は、錆びついたとまでは言わなくとも、大いに鈍ってしまわざるを得ないのだ。シャペルが番組から降りたがったのは、たぶんにほとんど本能的に、自分の番組が今後ほとんど機能しなくなることを察知したからだと思われる。その去り際がスキャンダル的になったのは、いたしかたないことだったのかもしれない。とはいえ、我々にはシャペルが残した第1シーズンと第2シーズンのDVDという宝の山が残されている。ということで、私も史上最高の売り上げを記録しているシャペルのDVDの記録の更新に一役買おうと思う。   





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シャペルズ・ショウ: ザ・ロスト・エピソーズ   ★★1/2

 
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