カーポカリプス

放送局: スパイクTV

プレミア放送日: 2/26/2005 (Sat) 20:00-21:00

製作: フィルム・ガーデン、メス・メディア、スパイクTV

製作総指揮: スコット・メシック、ナンシー・ミラー、ミシェル・ヴァン・ケンペン


内容: 様々なカー・レースを主宰する。


ブーム!

放送局: スパイクTV

プレミア放送日: 2/26/2005 (Sat) 21:00-21:30

製作: オリジナル・プロダクションズ、スパイクTV

製作総指揮: トム・ビアース

出演: B&Bイフェクツ (チャーリー・ベラルディネリ、トム・ベリッシモ)


内容: あらゆる物を破壊してみる。


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スパイクTVは「MXC」こと「風雲! たけし城」、「ヘイ!」こと「トリビアの泉」を放送しているケーブル・チャンネルで、日本人にはわりと馴染みが深い。その他の人気番組は、プロレス中継か週末の車関係、それに「CSI」と「スタートレック」の再放送といった具合で、特に男性視聴者を念頭に置いているのがありありだ。それら以外に他にどんな番組があったかというと、TVガイドを見なければ思い出せない。


ただし、男性視聴者にアピールする番組の製作/放送を心がけているわりには、実はこのチャンネル、わりと女性も見ているそうで、結局、アメリカの夜にビール片手にカウチに寝っ転がってTVを見ているというのは、別に男の専売特許でもなんでもないのであった。それでも、女性が特に男性向けに作られている番組をよく見ているというのは、やはりアメリカだなという気は確かにする。


いずれにしても、スパイクTVの番組製作路線が男性視聴者をターゲットにしているというのは変わらないようで、昨年来編成されている新番組を見ても、「ヘイ!」以外では、深夜クラブの内情に迫る「ザ・クラブ」とか、アルティメット・ファイト予備軍が勝ち抜きでしのぎを削る「ジ・アルティメット・ファイター」、スポーツ界の内情に迫る「アントールド (Untold)」などなど、要するに女とスポーツ、それも格闘技かモーター・スポーツに限られる。


怖いのは、そういう単純に男性の生理のみに訴えかけるこのような番組は、実は中毒性が高いことで、あーあ、またこんな似たような番組を性懲りもなく、手を変え品を変えおんなじことばかり、なんて思いながら見てると、結局最後まで見てしまうなんてことがよくある。ふと気がつくと思いのほか時間が経っており、しまった、今日やるべきだった仕事にまったく手をつけてすらいないと、いきなり顔面蒼白になってしまったりする。結構罪作りなチャンネルなのだ。


そして今回登場した「カーポカリプス」と「ブーム!」も、まさしくそういった番組の延長線上にある番組に他ならない。「カーポカリプス (Carpocalypse)」は、「Car (車)」と「Apocalypse (壊滅)」の造語で、読んで字の如く、徹底的に相手の車を破壊しながら進めるレースであり、アメリカではこの種のレースは「デモリッション・ダービー (Demolition Derby)」と呼ばれることが多い。「カーポカリプス」の場合は別に車を壊すことだけが目的ではなく、やはり最終的には一番でゴールしなければならないのだが、そこはそれ、車同士ぶつかった方が迫力もあるし面白い。見る方から言えば、どちらかというとそちらの方こそ楽しみであったりする。


「カーポカリプス」では車にも特徴があって、普通のレーサー/スポーツ・カーを使うわけではない。因みに番組第1回に登場した車は、最初がミニヴァンで、その次がバスだ。共に普通に使用する限りでは、レース仕様ではまったくない車でレースしてしまおうというのがミソだ。しかもそれだけでなく、ミニヴァン・レースでは、車は後ろ向きで走る。延々とギアをリヴァースに入れたままコースを巡回するのだ。リヴァース・ギアに変速がついている車などないだろうから特にスピードが出るというわけでもないが、それでもやはり難しいのはもちろんだ。普段からバックの運転ばかり練習しているドライヴァーなどいるわけもなく、当然のことながら全開リヴァース走行でステアリングをちょっとでもよけいに切ると、車はいとも簡単にスピンする。だから面白い。


その次がバス・レースで、通常は速さの追求というところからは最も隔たったところにいるはずのバスを、しかもこちらはワイヤーで2台繋げて走らせる。ペアを組んで、前と後ろのバスでドライヴァーがそれぞれ運転している。さらに、こちらは単に巡回コースを走らせるだけではなく、それが8の字になっている。つまり、レース中のバスがコースの中央で交差するのだ。バスは2台繋がっているわけだから、単純に車長はえらく長い。それを見極めてスピードを落とすかアクセルを踏むかしないと、クラッシュする確率は非常に高い。これももちろん、わざとそういうふうにしているわけだ。


また、そのバスも、アメリカの学校で生徒の送り迎えに使用される、あの黄色のバスを改良したものがほとんどだ。そのバスが十何台も総出で肉弾戦を挑む様を見るのは、レースというよりも格闘技という印象の方が濃厚で、もちろん、それこそがデモリッション・ダービーが人気がある所以に他ならない。それにしてもアメリカ人って、本当に能天気な格闘技が好きだ。


番組ではレースの主宰者の指示のもと、それぞれのドライヴァーが、ツテやコネを頼りに車を手に入れたり、手を入れたりする。バス・レースでは、さすがにバスを調達するのは簡単ではないようで、最初からバスは準備されていたが、ミニヴァン・レースでは、車の取得から改造まで全部個人個人で行っていた。たまたま廃車同然のミニヴァンをガレージに持っていたり、教会のツテを頼って安くで手に入れたりという具合で、ミニヴァンであるという最小限のルールさえ守れば、後はどうでもいいようだった。実際、最初から壊すことを目的として走らせるようなレースで、車に金をかけようという者はいない。一応元ミニヴァンだったということは確認できるが、ほとんど車体の後ろ半分がないようなものまであった。


今後「カーポカリプス」に使用される車は、キャンピング・カー (RV)、タクシー、さらには後ろにボートを牽引してというようなレースが予定されている。レースだけでなく、単純にわざと車を横転させて、その派手さやひっくり返った数を競ったり、積み重ねた廃車にもろとも突っ込んでいくという、命がけというより単なるバカとしか思えないスタント・ショウのようなものまであったりする。自分から率先して車を横転させて、血まみれになってヘリコプタによって病院に運ばれた奴もいた。ここまで命がけでレースを行っても、優勝したドライヴァーに出る賞金はせいぜい数千ドルで、そんなの、せいぜい調達した車の部品代くらいにしかならないだろう。それでも見ている限りでは、皆喜んで出場している。さすがイーヴル・クニーヴル (こういったバイクのスタントで知られる有名人) を生んだ国だ。


一方、その「カーポカリプス」と抱き合わせで始まった「ブーム!」は、ハリウッド映画の特撮、それも爆破シーンの特撮専門の奴らが、視聴者の要請にお答えしてなんでもかんでも壊したり爆破したりするという、ただそれだけをとらえた番組だ。番組第1回では、妻を親友に寝取られたという男の依頼により、RVを破壊する。軍人のその男が長い務めを終えて休暇で家に帰ると、妻は親友と一緒に、結婚祝いとして父から譲られたRVに乗って家を出て行ってしまった後だった。それ以来その男はRVが憎くて憎くてたまらなくなったという。


感じるもののあったトムとチャーリーを筆頭とするチームは、3種類のやり方でRVを破壊する方針を立てる。まず最初に、手っ取り早くRVを崖の上から谷底に突き落とす。何人かでRVを谷底めがけて押し出したはよかったが、そこは映画なんかと違う。誰もステアリングを固定しておくなんてことに頭が回らなかったため、途中からRVは勝手に左側にステアリングが切れ始め、崖下に落ちるのではなく、ただゆっくりと左斜め方向の坂下に滑り落ちていき、最後には横転してちょっと砂埃を立てるだけという、まったく劇的でもなんでもない拍子抜けのシーンを演出してしまった。とはいえ、呆然と、あ、方向が違う、と呟いたまま、ただそれを見ているだけしか術のなかった彼らを見るのは、それはそれで思わぬギャグになっていて、笑ってしまう。


次のRVは、戦車によって押し潰される。さすがアメリカ、その気になれば本物の戦車を気軽に調達できるというところがすごい。RVは、チーム唯一の女性が操縦する戦車のキャタピラの前に、あえなく運転席の部分を残しただけでほぼ全壊、なんとか無傷で生き残ったトイレの便器が哀れを誘う。この戦車はただ姿形が戦車というだけでなく、実際に実戦に耐える本物を借り受けてきている。そのため、これだけではつまらんということで、いきなり別の車に向けて車載砲を撃ってみようということになった。弾は車のボンネットを引き裂き、直径10cmくらいの穴を開けて軽々と貫通、うーむ、遊びで戦車に乗り込んで実弾発射してしまうとは。こういう奴らを怒らせたらとても怖そうだ。


さて、3番目のトリは、RVの横っ面にもう一台のRVがリモート操縦で突っ込んでいき、衝突の瞬間、大爆発炎上を演出するというものだ。要するに彼らはその道のプロであるのだからして、その辺はお手の物だ。いくらなんでもただ車と車が衝突したくらいでこんな火柱は立たないだろうと思えるのを、そこは強引に派手な大爆発に持っていく。まったく無茶苦茶も無茶苦茶、でたらめもでたらめなんだが、ついわくわくしてしまうのは、誰にでも破壊願望があるからか。「ブーム!」は第2回以降も、TVやらドラム・セットやらを徹底的に破壊している。特にTVセットというのはわからんではない。時々私もTVに向かって、失った時間を返せと毒づきたくなる時がある。


「カーポカリプス」も「ブーム!」も、結局その面白さの本質は、MTVの「ジャックアス」と同じである。別に取り立ててそういうことをする必要なんかまるでないものを、金と時間と情熱を徹底的に浪費して、ただ、やりたいからやる。子供の遊びと同じであり、だからこそ面白い。ほとんど無償の行為なのだ。そしてそういう番組が怠惰な土曜の夜なんかに放送されてたりすると、ついつい見てしまうのだ。これはなんらかの逃避であると自分で自己分析をしてみても辞められない。カウチの前に座り、くだらねえとか思いながらもついついスパイクTVにチャンネルを合わせ、ビール片手に頭の中を真っ白にしながら、今日もまたTVの前で夜は更けていくのだった。





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Carpocalypse   

カーポカリプス   ★★1/2

Boom!   

ブーム!   ★★1/2

カーポカリプス

ブーム!

 
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