アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。



6. ネットワークのワールド・ニューズの刷新と、朝のニューズ/トーク・ショウのホスト登板を巡るあれこれ


昨年、ダン・ラザーはブッシュ関連誤報道事件の引責でCBSの「イヴニング・ニューズ」を辞めさせられ、その後任として、NBCの朝のニューズ・ヴァラエティ・ショウ「トゥデイ」のメイン・ホストとして長らくアメリカの朝のTV界に君臨していたケイティ・コーリックが抜擢された。夕方のワールド・ニューズはネットワークの顔とも言える重要な番組であり、その一角にアメリカTV界史上初めて、一人だけの女性アンカーが据えられたことで、注目度は非常に高かった。


一方、肺ガンで死去したピーター・ジェニングスの「ワールド・ニューズ・トゥナイト」の跡を継いだボブ・ウッドラフとエリザベス・ヴァーガスは、ウッドラフが取材先の中東で負傷、ヴァーガスは産休と、ABCは結局ヴェテランのチャールズ・ギブソンを、やはり朝のヴァラエティ・ショウである「グッド・モーニング・アメリカ (GMA)」から担ぎ出してこざるを得なかった。現時点では3大ネットワークによるイヴニング・ニューズは、ブライアン・ウィリアムズがアンカーのNBCの「ナイトリー・ニューズ」が最も高い視聴率を獲得しており、次いでギブソンの「ワールド・ニューズ」、そしてコーリックの「イヴニング・ニューズ」が追うという、つまり番組としての位置づけは、アンカーが交代する以前の状況とまったく同じである。コーリックはもう少し善戦するかと思ったが、一時的な視聴率のスパイクこそあったが、特にこのような歴史のある番組の場合、視聴者は自分の視聴パターンをめったなことでは変えはしないことが明らかとなった。


いずれにしても、コーリックおよびギブソンが揃って朝のネットワークを代表する番組から夕方のワールド・ニューズに移っていったことで、「GMA」および「トゥデイ」は後任ホストを探さざるを得なくなった。その結果、「トゥデイ」がABCの「ザ・ヴュウ」からメレディス・ヴィエイラを引き抜き、その「ヴュウ」の方はヴィエイラの穴埋めにロージー・オドネルを抜擢した。元々アメリカTV界に確固たる基盤を築いていたヴィエイラが新ホストとなった「トゥデイ」は、コーリックがいなくなったマイナス要素をものともせず、相変わらず朝のネットワークで視聴率ナンバー・ワンの座をキープしている。


ところが一方の「ヴュウ」であるが、元々女性タレントを何人も揃えたかしましTVという印象が強かったこの番組、オドネル起用以前からスター・ジョーンズの進退問題で揉めていたのに、もっと口さがないオドネルを加えたことで、さらにうるさくなった。それだけでなく、彼女の過激な発言がとんだゴシップ・ネタを提供するに至っては、自分たちがマスコミの格好の話題となってしまった。(以下事項)



7. 「ザ・ヴュウ」のロージー・オドネルとドナルド・トランプの泥仕合


オドネルが最初に物議を醸したのは、ABCのモーニング・ヴァラエティ・ショウである「ライヴ・ウィズ・リージス・アンド・ケリー (Live with Regis and Kelly)」で、その時リージス・フィルビンの代わりにゲスト・ホストの役を受け持っていた「アメリカン・アイドル」出身のタレント/シンガー、クレイ・エイケンが、ちょっとしたオーヴァー・アクションでケリー・リパの口を塞ごうと手でリパの口を押さえる真似をしたところ、リパが過剰反応してしまったことをオドネルがすかさず攻撃したというものである。エイケンがゲイじゃないかというのは前々から噂されていたことで、エイケン自身はそのことを否定しているのだが、それでも実際に見かけの上ではかなりゲイくさいエイケンのゲイ疑惑説は根強いものがあった。それでオドネルが、ゲイ嫌いのリパがエイケンに触られたことで逆上したんだろうと揶揄ったのだ。因みに、オドネル自身はゲイとして既にカミング・アウト済みだ。


ストレート/ゲイ問題は個人の嗜好に帰するものであるから、その嗜好の是非を云々することはできない。とはいえ、公的な人間、それもリベラルを標榜することで人気を得る立場にいるマスコミ関係者がゲイを嫌いだというのは、はっきり言ってまずい。かなりイメージ・ダウンになる。それでリパは慌てて、私がとっさに嫌がったのは、素手で他人の口に触れるという行為が衛生的にもよくないからだと弁論を試みたが、そう言っている当のリパ自身が、フィルビン相手の時の番組内でフィルビンの口を手で押さえたというシーンが公にされると、言い逃れができなくなった。彼女がゲイ嫌いであるのは100%明らかと言えよう。


リパにとって大きな助けになったのは、本当ならその後彼女にかなり非難が集まりそうなところ、オドネルや番組としての「ヴュウ」が次から次へと新たな騒ぎの種を撒き散らしたために、リパ問題がうやむやになってしまったことにある。例えば、前夜盟友のジョージ・クルーニーと痛飲してまだその酒が抜けないというほとんど酩酊状態のままゲスト出演したデニー・デヴィートが生放送だというのに放送禁止用語を連発してしまうわ、オドネルがチャイニーズ相手に中国語の差別発言してその筋から強硬な抗議を受けるわ (こちらはオドネルはその言葉が差別的用語とは知らなかったと弁明謝罪していたが)、あちこちで話題を提供した。


そして極めつけが、年末から現在も進行中のオドネル-ドナルド・トランプの中傷泥仕合である。トランプはワールド・ページェントを主催しているのだが、その昨年の優勝者の未成年飲酒等の不行状が明るみになると、玉座撤回云々が取り沙汰された。トランプはそこで自分の懐の深さを世間に知らしめようと、情状酌量で不問にした。腹の虫が治まらないのはそのページェントで2位以下になった女性たちで、素行やものの考え方まで審査の対象となるビューティ・ページェントで、失格になって当然の行いをした者が堂々と玉座を保持していたのでは、ほとんどページェントの意義はないに等しい。まあ、みな表立ってトランプに文句は言えないが、それでもこの裁定が不服だったのは明らかだ。


そこにしゃしゃりこんで他のページェント参加者の気持ちを代弁すると共に、ここぞとばかりにトランプ・バッシングに走ったのがオドネルだった。実際の話、1:9分けのトランプの髪型を真似してトランプを茶化すオドネルがかなりおかしく笑えたのは確かであるが、もちろんトランプ本人にとっては腹に据えかねたろう。元々言われたままでただでは引き下がらない性分である。オドネルが言ったことで、私が何度も破産しているというのは事実に反する、名誉毀損で訴えると息巻いた。もちろんトランプは何度も破産の申請をしているが、それは彼が所有する企業の話であり、彼個人が破産したことがあるわけではない。微妙ではあるがやはり大きな違いである。公共の電波上でそういう事実に反することで名誉を害されたと主張したら、裁判でトランプが勝つ可能性はかなり高いだろう。それで「ヴュウ」としては、その点、番組が間違っていたとして番組内で弁明せざるを得なかった。


さらにトランプは、番組プロデューサーのバーバラ・ウォルターズが、オドネルを扱いかねる難物として辞めさせようとしていると言ったと爆弾発言、これには今度はウォルターズが強力に否定した。私の意見では、海千山千のウォルターズのことである、裏でそれに近いことを言ってトランプをなだめにかかったというのは大いにありそうなことだと思う。ただし、それはトランプの言う字義通りではあるまい。トランプとオドネル、さらには興味津々のマスコミ相手に二枚舌、三枚舌外交で苦境を乗り切ろうとしたのではないか。そこでまさかトランプが大の大人にもあるまじき揚げ足どりで、内輪話の暴露でこようとは思ってもいなかったに違いない。


そのためウォルターズも怒った。番組内でトランプを、この救いようのない奴と罵倒し、この泥仕合はさらにこじれた。 現時点でこの話に決着は着いておらず、このままもっとこじれていくのかそれともなし崩し的に事態は収束していくのか、行き先はまったく見えない。いずれにしても、これだけの話題を提供したオドネルの「ヴュウ」、おかげでちゃんと視聴率は上向きになっているそうで、この点だけを見ると、ウォルターズのオドネル起用は見事に成功していると言える。まあ、本人もいつまたオドネルの爆弾発言が飛び出すか、気が気ではないとも思うが。



8. あと二つのスキャンダル、「グレイズ・アナトミー」のアイゼア・ワシントンとT. R. ナイト、およびマイケル・リチャーズの人種差別発言


さてオドネルとトランプとの泥仕合に並行して、人々の耳目を集めたスキャンダルがあと二つある。その一つが、「グレイズ・アナトミー」のアイゼア・ワシントンによるT. R. ナイトのバッシングだ。ナイトはゲイで、それでワシントンから結構きつい言われ方をしていたようで、ある時ワシントンとそのナイトをかばったパトリック・デンプシーとの間で実際に小競り合いにすらなり、番組撮影に支障が出た。それでこのままではよくないと、ナイトがカミング・アウトして自分の所在を明らかにして火種を抑えようとしたところが、逆に火に油を注ぐ結果となった。


結局のところストレートの人間がゲイをどう思うかどうかなんて、本人以外には誰もわからない。どう思うかも本人の自由なら、どう振る舞うかも本人次第だ。上でタレントのような公共の人間は多少なりともリベラルを装うから、普通はゲイに対してもオープンであると書いたが、もちろん表面上はだいたい皆そうだが、リパと同じように、心の奥底ではゲイが好きじゃない、というか、積極的に嫌いな人間も多い。結局のところ、この国を底辺で支えているのはそういった保守的な人たちなのだ。


特にワシントンの場合は、ほとんど誰の目から見てもいじめとして映っていたようで、だからそれをかばったデンプシーといざこざが起きるし、実際に彼を「オカマ野郎 (Fagot)」と呼んだ呼ばないと世論の注目の的になっていた。これでは一方的にナイトをいじめているようにしか見えないワシントンの分はかなり悪く、結局彼も公的には表向き自分の横暴な振る舞いが起こした大小の波紋を収めるため、謝罪せざるを得なかった。そこで終わっていたら、事態もこれ以上はこじれなかっただろう。


しかし年明けのゴールデン・グローブ賞で、TV番組として最高の栄誉である最優秀番組賞を獲得した「グレイズ・アナトミー」出演者の一人として、授賞式が終わった後の舞台裏での出演者挨拶の時に、またもやワシントンは、自分にマイクが向けられているわけでもないのにわざわざ壇上中央まで出張って、その時しゃべっていたチャンドラ・ウィルソンからマイクを奪いとると、「オレはオカマ野郎なんて言ってないよ」と、その問題となっている用語をまたまた口にしてしまったのであった。その瞬間、受賞の喜びで大騒ぎの番組関係者の面々が一斉に凍りつき、壇上が静まりかえった。演出されたまた別のドラマを見ているようであった。それにしてもこの男、懲りない。


さすがにここまで問題を大きくしてしまうと、ABCも黙っているわけにはいかなくなって遺憾の意を表明するし、頭にきたナイトの盟友のキャサリン・ハイグルももうこれ以上は傍観していられないと思ったようで、表に出てきて、ワシントンは口を慎むべきと自分の意見をいたるところで口にするようになった。ゲイ&レズビアン団体のGLAADも当然抗議するし、こうなってくるとワシントンの進退問題にまで発展している。


一方で第三者的視点から見ると、このスキャンダルは番組としては悪い方には転ばないという見方もある。「ヴュウ」のオドネルの言いたい放題が視聴者集めに貢献していることを考えると、その見方も頷ける。ここをうまく乗り切るのがプロデューサーや、俳優たちの腕の見せどころでもある。番組の中でも外でも面白いドラマを提供していると言えるのだ。また、これはUSAトゥデイが言っていたのだが、このスキャンダルが20年前に起こっていたら、番組を辞めざるを得なくなるのは、当のナイトの方だったのは間違いない、少なくともこの20年で事態はいい方向に進んでいる、との論評を載せていた。それは言えている。私としては、現在、手が震えるというブラック・ジャックみたいな外科医としては致命的な奇病に悩まされているワシントンが、大ポカやって自滅するという最後に大きなドラマを提供して番組降板なんてシナリオを考えていたりしたのだが、さて、これから番組関係者がどう事態に対処していくか、お手並み拝見である。


もう一つ、これも結構大きなスキャンダルとなったのが、かつてのナンバー・ワン・シットコム「サインフェルド」のレギュラーだったマイケル・リチャーズが、LAの劇場でスタンダップの漫談をやっている最中、派手に野次られたのに腹を立て、その野次った黒人相手に「ニガー、ニガー」とほとんど絶叫して顰蹙を買ったというものである。たぶんそれだけだと、LAのマイナーなミニコミ誌にでも載って小さな話題を提供してそれで終わりくらいの話しにしかならないと思うが、その相手が携帯のヴィデオ機能を利用して切れるリチャーズを撮影、それをユーチューブで公にしたもんだから、全米の人間がその様を見ることになった。こうなってしまってはれっきとした全米規模のスキャンダルである。


リチャーズは当然槍玉に挙げられ、あらゆるところで頭を下げて回る結果になった。たまたま「サインフェルド」のDVDが発売される期日とほとんど重なっていたこともあり、ちょうどCBSの「レイト・ショウ」にゲスト出演していた「サインフェルド」主人公のジェリー・サインフェルドと番組ホストのデイヴィッド・レターマンは、リチャーズにヴィデオ電話をかけて釈明の機会を提供した。リチャーズは私は差別主義者じゃないと弁明していたが、いくら野次られたからとはいえ、あの切れ方はまずかった。


携帯を使って決定的瞬間を撮り、それをユーチューブで全米どころか全世界に同時提供するということが個人で簡単にできるようになった現在、セレブリティがスキャンダルに見舞われる確率は以前とは比較にならないくらい高まっていると言えよう。セレブリティ受難の時代だが、そういった受難を身から出たさびと見るか可哀想と見るかは人による。いつぞや、サインフェルドがやはりなんらかの舞台で野次られていたが、それをうまくギャグで切り返して逆に満場の喝采を浴びていたのを見たことがある。リチャーズには悪いが、やはりあれくらいやれてこそ本当のプロという気はしないでもない。



9. ディズニー・チャンネルTV映画の快進撃


これはたぶん小さい子供がいる家庭の主婦なら激しく同意してもらえると思うが、今年のディズニー番組、端的に言うとたまさか放送されるディズニーTV映画の子供たちに対する圧倒的な人気ぶりは、目を見張らせられるというよりも、正直言って唖然とさせられた。特に年初に放送された「ハイ・スクール・ミュージカル」と、夏放送された「チータ・ガールズ2」は、トゥイーン層に限るならほとんど無敵、その人気はあの「アメリカン・アイドル」を凌駕すらしていたと言える。「ミュージカル」がディズニーのチャンネル記録を塗り替えたと思ったとたん、今度は「チータ」がさらにこの記録を更新する。両番組共TVミュージカルなのだが、とにかくめちゃくちゃ人気があった。


特にケーブル番組の場合、番組は垂れ流して終わりということはなく、何度も再放送されるのが普通である。「ミュージカル」も「チータ」も、それこそもういい加減うんざりするくらい何度となく再放送されているのだが、驚くべきことには、その再放送分がまた、プレミア放送分とまでは行かなくてもかなり高い視聴率を獲得するのだ。シリーズ番組の、かなり昔に見て既に忘れているエピソードの再放送ではない。先月放送された、場合によっては先週見たばかりのTV映画が再放送され、それをまた子供たちは喜んで見たわけで、何度も何度も同じ番組を一緒に見せられた親たちが切れそうになったという話をいたるところで聞いた。


まだ幼い子供が同じTV番組を何度も繰り返し飽きずに見るのはよく知られているが、要するに、ロウ・ティーンだって似たようなもんなんだろう。とはいえ、それに毎回毎回つき合わされる親はかなわない。小学生の子に自分に部屋に引きこもらせてTVばかり見せるというのは、ちゃんとした親ならやらないだろうし、子供に見せるTV番組は、親も見れるものを一緒に見ることにしている家が多いはずだ。その点ディズニー印の番組は、教育的見地から見ると子供にも安心して見せることができ、その点では非常に助かるのだが、しかし、かといって同じ番組ばかりを何度も何度も一緒に見せられたのでは、今度は親が悲鳴を上げてしまう。そういう悲喜劇が、今年アメリカの子供のいる家庭のいたるところで起こった。


実際の話、「ミュージカル」も「チータ」も、なんでここまで人気を獲得したかというのは、謎というしかない。ディズニー自身だって本当の理由なんかわかっちゃいないだろう。なぜかはわからないが、このブームに乗っかってしまえと矢継ぎ早に同様の番組を製作したというのが本当のところなんじゃないかと思う。実際、一緒に歌って踊れるミュージカルであり、そういった部分が見てて楽しくはある。まあまあ出演者もそれなりに見てくれは悪くなく、「ミュージカル」は「ロミオとジュリエット」的展開で、「チータ」は外国 (スペイン) ロケの異国情緒満喫のサクセス・ストーリーと、特に女の子受けするのは確かだろう。両番組からの音楽CDは共にチャートを独走、特にハイ・ティーン以上の子供のいない人間にとっては、聞いたこともないCDがいきなり売れまくっているので不思議に思った者も多いに違いない。まあ私としては、どちらかというと実際にコンサート・ツアーも行っている、シンガーとしてはプロ級の「チータ」の方を番組としてもCDとしても薦める。



10. 繰り返し起用される俳優の謎


通常、ある俳優が出ていた番組が最終回を迎えると、その俳優が一人で客を呼べる人気者でもない限り、だいたいはプロデューサーはイメージが定着してしまったそういう俳優の連続した起用は避ける傾向がある。つまり、あるレギュラー番組への出演が終わった俳優は、次の番組が決まるまで多少は間が開くのが普通だ。ところが今シーズンに限って、その数か月前まで別の番組に出ていた俳優が、ネットワークの新番組に出ているという光景をいたるところで目にした。


まずその最初にして最大の驚きだったのが、FOXの「プリズン・ブレイク」の新シーズンから新レギュラーとして登場したウィリアム・フィクトナーである。フィクトナーは2005-06年のABCの超常SF番組「インヴェイジョン (Invasion)」に準主演として出演していたが、番組は1シーズン限りで打ち切りになった。フィクトナーが演じていたのはエイリアンに身体を乗っ取られたとあるフロリダの田舎町のシェリフで、どちらかというと癖のあるフィクトナーがかなりはまっており、特に人気があったわけではないが私は結構よく見ていた。


結局番組は1シーズン限りで終わったため今年5月で最終回を迎えたわけだが、その後8月に新シーズンが始まった「プリズン・ブレイク」に、そのフィクトナーがいきなり新レギュラーとして出ているのを見た時にはかなり驚いた。しかもフィクトナーの役はこちらでもFBIだか刑事だかの「インヴェイジョン」同様の人を取り締まる側の役で、「インヴェイジョン」の印象を引きずっている人間から見ると、新シーズンの「プリズン・ブレイク」では、エイリアンのフィクトナーが刑務所を脱走したスコフィールド兄弟を追っているように見える。「プリズン・ブレイク」はSFだったのか。TVで売れっ子になると、こういう弊害も起きる。


その他、短命に終わったNBCの「インコンシーヴァブル (Inconceivable)」のミン・ナがFOXの「ヴァニッシュト (Vanished)」に出て、こちらもやはりすぐにキャンセルされる。ごたごたが起きてキャンセルされたABCの「コマンダー・イン・チーフ」に出ていたレスリー・ホープは、今度は活躍の場所をCWの「ランナウェイ (Runaway)」に移すが、やはりキャンセルされた。そして「ザ・ホワイトハウス (The West Wing)」のブラッドリー・ホイットフォードは、そのまま今度はNBCの「ステュディオ60・オン・ザ・サンセット・ストリップ」で、やはり口八丁手八丁の口先仕事に精を出している。


さらに今夏終わったABCの「エイリアス」のレギュラーだったヴィクター・ガーバーが、SD-6で働いていたのもつい最近のことだったと思わせたのも束の間、秋には死地から甦ってFOXの「ジャスティス」で今度は弁護士として采配を振るう。その「エイリアス」からはロン・リフキンもABCの「ブラザース&シスターズ」でカリスタ・フロックハートやサリー・フィールドと共演。極めつけはそのフィールドで、9月24日から始まった「ブラザース&シスターズ」に準主演級で出ているだけでなく、その直後、アビーの母親として準レギュラーで出演しているNBCの「ER」の、新シーズンに入った9月28日のエピソードにも出ていた。いくら「ER」の方はレギュラーというわけじゃないといえども、同じシーズン内で違うネットワークのシリーズ・ドラマにかけもちで出ていてもいいのか、それともフィールド・クラスになるとこのくらいの掟破りは許されてしまうものなのかと思ってしまう。


とまあ、今シーズンの見覚えのある俳優の再登場の頻度は、近年で一番だろう。そりゃあ俳優とはまず第一に職業であり、まず食っていかなくてはならない以上、よほど気に入らない役でもない限り、自分が暇だったらオファーがあれば受けるだろう。とは思うが、ハリウッドに掃いて捨てるほどいる俳優がまだ山のように失業中で仕事を探している時、これらの何度も連続して起用される俳優は、実力もそうなら運もいいと言わざるを得ない。それなのに、その大半はやはりキャンセルされる運命にあるのだ。果たして運がいいのか悪いのか、よくわからない。



番外. O. J. シンプソン「もし私がやったとしたら、私ならこうやったね」


今年もアメリカTV界では各種のスキャンダルが勃発したわけだが、11月にFOXが放送予定だった「イフ・アイ・ディド・イット、ヒアズ・ハウ・イット・ハップンド (If I Did It, Here's How It Happened)」ほど世論を騒がせ、物議を醸した番組はなかった。なんとなればこの番組、かつてのNFLフットボールの花形スターであり、数年前に妻のニコールの殺害疑惑で世間を騒がせた後、証拠不充分で無罪となったO. J. シンプソンが、私はやってないが、もしやったとしたらこうしていただろうという自分の意見を述べるという、信じられないほど悪趣味、愚劣、醜悪な、恥知らずを極めた番組なのだ。


さすがに多少のスキャンダルになら慣れっこになっているアメリカのマスコミも、これには開いた口が塞がらなかった。この事件、証拠がなかったから陪審員も無罪にせざるを得なかったが、しかし、一般市民の心証から言うと、彼は殺人犯である。だって、他に可能性のある者なんかいないのだ。もし彼が有名人でなかったり、黒人でなかったり、世論の目がここまで注目なんかしていなかったら、ほぼ間違いなく状況証拠で有罪になったろう。無罪判決は、彼が無罪と陪審員が信じたからというよりも、完全な証拠なく有罪にした場合の世論の反発、暴動を怖れたからという感触が濃厚だった。今でもほとんどの者は、彼がやったに違いないと確信している。


その、一般市民の目から見たら殺人犯に違いない男が、私はやってないけれども、もしやっていたとしたらどういうふうにしたのかを微に入り細を穿って「予想」するという、言語道断な破廉恥極まりない番組「イフ・アイ・ディド‥‥」が放送を前にマスコミからの集中砲火を浴びたのは、当然といえば当然のことだった。それにしてもFOXって、本当に恥知らずにもほどがある。こんなんだから成り上がり者とバカにされるんだ。


とはいえ、いかに成り上がり者でもそれなりのプライドは持っていたようで、FOXを傘下に持つニューズ・コープのトップであるルパート・マードックは、さすがにこれは問題ありすぎる、いかんと判断、鶴の一声で番組放送は取り止めになった。いくらなんでも悪趣味に過ぎたから、この判断は当然と言えよう。むしろ一応は企画が通って放送の予定が立ったことだけでも驚嘆に値する。しかしここまで騒ぎを大きくしたんだから、どうせなら放送してしまって世界中から非難の矢面に立ち、FCCから罰金および放送免許一時取り上げくらいのペナルティを食らい、自分たちがどのくらいあくどいことをやっているかわからせるのもまた一興と、私は思ったりもしたが。






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2006年アメリカTV界10大ニュース。その2

 
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