アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。



1. シリアル・ドラマの勃興と衰退


昨シーズン、アメリカTV界は「ロスト」の流れを汲む超常現象が絡むSF/ホラー・テイストを持つ番組が大挙して編成され、そのほとんどが自滅とは言えないまでもほどほどの成績しか上げることができず、結局ほとんどが1シーズン限りで姿を消した。今シーズンの傾向としては、いまだにその「ロスト」、さらには「24」の轍を踏んだ、1シーズンをかけて一つの謎を追うというタイプのシリアル・ドラマが、かなりの数編成されたことにある。そして今シーズンのそういったドラマの問題点は、実はそれらの番組の多くが、質的にはかなりできがよく、批評家受けもよかったということにこそあった。


この手のシリアル・ドラマは、1シーズンをかけて話が連続するから、途中で一話でも見逃すとすぐ話についていけなくなる。ところが、当然のことながら視聴者が自由にできる時間には限りがある。現在ではTVという媒体が必ずしも最大の娯楽というわけではなく、他にも数多くの娯楽や時間潰しの手段が巷に溢れている。その上、視聴者には既に「ロスト」や「24」や「プリズン・ブレイク」というシリアル・ドラマがある現在、その手の、毎回必ず見なければならない新しいドラマを自分の視聴パターンの中に組み込むことは、現代の視聴者にとってはかなりの抵抗があるのだ。


そういうわけで、質や評がよかった番組が多かったのにもかかわらず、今シーズン編成されたこの手の番組は大半が視聴者を獲得できず、キャンセルか棚上げ、あるいは継続してもジリ貧という羽目に陥った。ABCの「ザ・ナイン (The Nine)」、「デイ・ブレイク (Day Break)」、「シックス・ディグリーズ (Six Degrees)」、CBSの「ジェリコ (Jericho)」、NBCの「フライデイ・ナイト・ライツ (Friday Night Lights)」、「キッドナップト (Kidnapped)」、FOXの「ヴァニッシュト (Vanished)」、CWの「ランナウェイ (Runaway)」等、今シーズン、その手の番組には枚挙に暇がない。この流れは、結婚式の一日の出来事をとらえるシリアル・コメディ「ザ・ビッグ・デイ (The Big Day)」(ABC) というとんだ継子まで生み出した。


シリアル・ドラマの最大の欠点というか特徴は、もし番組が途中でキャンセルされた場合、だいたいにおいて番組のプレミアで提示されていた謎が解かれないまま終わってしまうということにある。例えば「ナイン」の場合だと、銀行強盗の現場に居合わせた9人の登場人物が、いったいその時に何を見、何をしたのかという謎で引っ張るわけだが、当初製作された12話だけでは当然その解決は与えられていない。そしてこのほど、そのままキャンセルが発表になった。これじゃ最初から全エピソード見ていた視聴者が可哀想だ。


現在、途中キャンセルになった番組は、放送されなかった残りのエピソードが各ネットワークのホーム・ページで無料ストリーミング提供されるというのが慣例になりつつある。とはいえ尻切れに終わったシリアル・ドラマの場合は、それでも話の決着は着かない。「ナイン」の登場人物たちが銀行内で目撃したことはいったいなんだったのか、全話見ているわけではない私ですら気になるのだから、毎週リアル・タイムで視聴していたファンにとっては腹立たしいことこの上ないだろう。シリアル・ドラマを成功させることは難しい。




2. シットコム冬の時代の継続


ここ数シーズン、30分シットコム/コメディの地盤沈下は進んでいる。昨シーズンはNBCの「マイ・ネイム・イズ・アール (My Name Is Earl)」、CBSの「ザ・ニュー・アドヴェンチャーズ・オブ・オールド・クリスティン (The New Adventures of Old Christine)」等の、一応は成功していると言える番組があったことはあったが、それでも誰の目から見てもヒットしているといえる番組は、2003-04年シーズンのCBSの「トゥ・アンド・ア・ハーフ・メン (Two and a Half Men)」以来出現していない。


そして今シーズンも、これまでの経過を見るに状況は悲観的だ。なんせ各ネットワークが今はコメディは当たらないと、投入するコメディ/シットコムの数自体が少ない上、実際に目ぼしい番組がない。新コメディ番組で最も成績のいいCBSのシットコム「ザ・クラス (The Class)」の平均視聴者数が800万人台ということを聞くと、いったいそれのどこがヒット番組なんだと思ってしまう。先ほど放送された新シーズンのFOXの「アメリカン・アイドル」の第6シーズンのプレミア・エピソードの視聴者数3,700万人と較べると、800万人という数字は屁のようなもんだ。


かつて絶対的人気を誇ったNBCの木曜夜のシットコムが並ぶ「マスト・シーTV (Must See TV)」の時代からそれほど経っているわけではないのに、そのNBCがいわゆるステュディオ撮影の伝統的シットコムに見切りをつけ、現在、木曜夜に並ぶのは、「30ロック (30 Rock)」をはじめとする、シングル・カメラ撮影の、ドラマ的展開を見せるコメディばかりだ。しかもそのうちの一本はオリジナル番組ではなく、英BBCの人気コメディをアメリカ風に撮り直した「ジ・オフィス (The Office)」で、どんなにうまくリメイクしていようと、BBCアメリカにチャンネルを合わせればオリジナルが見れる番組のリメイクなんて、私はまったく見る気がしない。それなのにNBCは懲りずに「ティーチャーズ (Teachers)」もリメイクしたばかりではなく、今後も英国ヒット番組のリメイク路線を諦める気はないようで、私には解せんとしか言いようがない。果たしてオリジナルのアメリカ産ヒット・コメディ/シットコムを近々のうちに見ることはできるのだろうか。




3. 向かうところ敵なしの「アメリカン・アイドル」、およびその他のリアリティ・ショウ


もちろんFOXの「アメリカン・アイドル (American Idol)」は、アメリカで最も高い視聴率を獲得するリアリティ・ショウだ。私だって毎回見ている。とはいえ、これが恒例のアカデミー授賞式中継に勝るとも劣らない視聴率を稼ぐとなるとへーっと思うし、さらには4年に一回のスポーツの祭典である冬季五輪を裏番組に回し、いとも簡単にそれを蹴散らして遥かに上回る視聴率を獲得してしまうとなると、そこまで人気があったのかと驚かざるを得ない。スポーツが好きというよりも、自分たちが強いスポーツが好きなアメリカ人は、フィギュア・スケートのミシェル・クヮンが出場辞退し、アルペン・スキーのボディ・ミラーが不調で、アイス・ホッケーで金がとれそうもない冬季五輪になぞまるで興味がなかったのだ。


おかげで「アイドル」の第5シーズンは視聴率記録を塗り替える怒涛の快進撃で留まるところを知らなかった。もちろん他のネットワークがただ手をこまねいて見物していたわけではなく、当然のことながら右に倣えとばかりに同工異曲のタレント発掘系のリアリティ・ショウを投入し、そしてもちろん全滅した。ABCの「マスター・オブ・チャンピオンズ (Master of Champions)」、「ザ・ワン: メイキング・ア・ミュージック・スター (The One: Making a Music Star)」NBCの「アメリカズ・ガット・タレント (America's Got Talent)」、CBSの「ロック・スター: スーパーノヴァ (Rock Star: Supernova)」、FOXの「セレブリティ・デュエッツ (Celebrity Duets)」等々だ。「セレブリティ・デュエッツ」なんて「アイドル」を放送しているFOXの番組であり、「アメリカズ・ガット・タレント」に至っては「アイドル」ジャッジの一人であるサイモン・コーウェルがプロデュースしているのにもかかわらず、それでも「アイドル」の二番煎じに過ぎないリアリティ・ショウには、人は興味を示さなかった。


この手のタレント発掘系の勝ち抜きリアリティ・ショウはやはり本家本元の「アイドル」には到底及ばないと知ったネットワークは、今度は、昨冬ヒットしたゲーム・ショウであるNBCの「ディール・オア・ノー・ディール (Deal or No Deal)」の物真似に走った。同じくNBCがゲーム・ショウ・フランチャイズの確立を目指した「1 vs. 100」、「アイデンティティ (Identity)」、ABCの「ショウ・ミー・ザ・マニー (Show Me the Money)」、FOXの「ザ・リッチ・リスト (The Rich List)」等で、これらも結局「ディール」ほどの成功を収めるまでには行かなかった。


さらに第3の波として、時代を反映してか、超能力者、いわゆるサイキックの活動の模様を追ったサイキック系とでも言うべき新ジャンルが登場した。Weの「ジョン・エドワード・クロス・カントリー (John Edward Cross Country)」、Sci-Fiの「サイキック・アット・ラージ (Psychic at Large)」、コートTVの「ホーンティング・エヴィデンス (Haunting Evidence)」、バイオグラフィの「サイキック・インヴェスティゲイターズ (Psychic Investigators)」等で、サイキックが難事件を解決できるんだったら警察は要らないんだよと思ってしまうのは私だけか。


さすがにこういった番組をマジで作るのは恥という気持ちが働くのか、この種の番組にはネットワークは手を出さず、サイキックものはだいたいケーブル・チャンネルの、そのまたマイナーなチャンネルが放送している。そういう傍流もあったが、いずれにしても「アイドル」の一人勝ちだけが目立った2006年であった。既に一応考えられるだけのリアリティ・ショウは一通りは放送を終えたと思われる現在、当分は「アイドル」の天下は続くものと思われる。




4. インターネット時代のネットワークの対応


誰でもが画像映像音声をアップして不特定多数の人間に提供できるインターネットという媒体は、デジタル時代にあっては放送業者に少なからぬ恐怖を与えている。個人サイトで放送中の番組のデュープをばら撒かれたら、放送局としてはおまんまの食い上げだからだ。だからユーチューブの一挙手一投足に目を光らせるし、ちょっとでもなにか気に入らないことがあると、脅しをかけたり訴えたりする。一方で、ネットワークのホーム・ページは新しい存在価値を見出し始めている。つまり、キャンセルされた番組が最後の一花を咲かせるための燃え尽きる場所の提供だ。


ネットワーク番組というものは、人気がなければすぐキャンセルされる。たとえば2006-07年シーズンで、3話放送されただけで最も早くキャンセルされたCBSの「スミス (Smith)」の場合、当然のことではあるが一応は最初は期待されているわけで、通常なら9話から13話程度は既に作られているか製作中であったりする。これまでは、その余ったエピソードはDVD化するか、ケーブルの姉妹チャンネルあたりで人知れずこっそりと残りのエピソードを放送するしかなかった。それだって、人気がないからキャンセルされたわけだから、DVD化したって売れないし、他のチャンネルで放送したって人気が出るわけではないことは、最初からわかりきっていた。


こういう場合に未放送分のエピソードの燃え尽き先として、ホーム・ページでのストリーミングやダウンロード用として提供されることほど相応しい場所はない。現在では各ネットワーク共このシステムを取り入れており、提供する方法こそ各ネットワークで異なるが、根幹となるアイディアは既に定着している。あるいは、あるエピソードを見そびれた視聴者のために、放送後にホーム・ページで再提供することも定着しつつある。ネットワーク側にとっても視聴者にとってもメリットがあり、その上ある程度の需要が見込まれるということで、スポンサーもちゃんとついている。意外にも、放送とインターネットは共栄共存が可能なようだ。




5. WBとUPNの合弁によるCWの創設、およびマイ・ネットワークTVの発祥


アメリカの第5のネットワークと第6のネットワークであるWB (Warner Brothers) とUPN (United Paramount Network) は、サーヴィス開始時期も1995年と同じなら、若者目当てのターゲット視聴者層もほぼ同じという小ネットワークであった。もちろんUPNは黒人しか出演しないシットコムやWWEのプロレス中継、「スター・トレック: ヴォイジャー」、「バッフィ」等のSFドラマ等によって黒人と若い男性層に強く、WBはお涙頂戴系や美形俳優出演の家族/青春ドラマ (「ドーソンズ・クリーク」、「フェリシティの青春」) によって女性層に強いなどさらに細分化できもしたが、結局、小者同士で若い視聴者層という同じパイの取り合いをしているという印象が濃厚だった。


そのため、いつまで経っても両ネットワークの視聴者は増えず、最終的に両者が合弁という話になったのはほとんど必然と言えよう。ほとんど時期的には遅きに失した感すらあった。UPNからは「WWEスマックダウン」、「アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル」、および黒人シットコム、WBからは「ヤング・スーパーマン」、「スーパーナチュラル」等の人気番組だけを集めた新生CW (CBS Warner (CBSはUPNの親会社)) は、この9月から放送を開始している。


一方、WBとUPNが合弁したために、その地域では仕事にあぶれる放送局が出てきた。同一マーケットに同じ設備を持つ二つのTV局は要らないから、それも当然だ。そこに現れたのがFOXで、FOXはあぶれた方のTV局を再統合して、またさらに新しいネットワークを構築した。それがマイ・ネットワークTVだ。マイ・ネットワークTVは、アメリカ版テレノヴェラというアイディアを御旗に「デザイヤ」と「ファッション・ハウス」を編成、日替わりで新エピソードを放送するという日中の奥様方相手のソープまがいの番組で女性視聴者にアピールするという方針で挑んだが、現時点ではその方策はほとんど裏目に出ている。


CWの方も、WBとUPNからのいいとこどりのはずだったわりには成績はそれほど芳しいわけではなく、なぜ成績が伸びないのか首をひねる者も多い。もっとも、マイ・ネットワークTVはともかく、CWの方はじりじりと着実に視聴者をつかみ始めてはいる。どう見てもこちらの方に面白そうな番組が多いから、それも当然だろう。マイ・ネットワークTVのテレノヴェラ路線は現在2サイクル目に入っているが、その後は未定、というか、たぶん諦めてその後はリアリティ・ショウで固めてくるのではと噂されている。いずれにしても、両ネットワークとも正念場は次シーズン以降となろう。


余談だがWBは、明日からCWとして生まれ変わる最終日となった9月17日の日曜に、5時間をかけて、過去のWBの人気番組のプレミア・エピソードを再放送するというファン・サーヴィスの編成をした。上記「ヤング・スーパーマン」や「フェリシティの青春」等の第1回をまた放送したわけで、ついでにそれらの登場人物を再起用して、一度限りの、番組、というかネットワークCMを製作した。


その中では、成長して大人大人したドーソンことジェイムズ・ヴァン・ダー・ピークと、パーシー役のジョシュア・ジャクソンが山道をドライヴしながら噛み合わない会話をするというのがなかなかよかった。ジャクソンは「ドーソン」では女たらし的な役柄だったのだが、しかし当時は若過ぎてその設定に説得力があったとは言い難かった。しかし今のジャクソンならそれも頷ける。ヴァン・ダー・ビークも今の方が男前で、二人ともいい面構えになった。どちらかというと「ドーソン」からは、ケイティ・ホームズやミシェル・ウィリアムズといった女優の方が出世しているが、彼らだって悪くない。







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2006年アメリカTV界10大ニュース。その1

 
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