Youth


グランドフィナーレ (ユース)  (2016年1月)

年も明けることだしここは華やかな気分で「スター・ウォーズ/フォースの覚醒 (Star Wars: The Force Awakens)」と思っていたのだが、なんでも「アバター (Avatar)」の持つ興行記録を塗り替える勢いだそうで、まだまだ人足が落ちない。もちっと待とうかなと思っていたところ、特に「スター・ウォーズ」に思い入れがあるわけでもないうちの女房が別のにしようよというので、それではと、まったく毛色の違う「ユース」を見ることにした。


どうやらマイケル・ケインが老音楽家に扮する、音楽が主要モチーフになっている作品っぽく、特に歌好きのうちの女房にアピールした。ところがこの映画、なんとも言えない持ち味の、一癖も二癖もある作品に仕上がっている。


ケイン扮するバリンジャーは、現役から引退して老境を迎えつつある音楽家だ。今は余暇を兼ねてかスイスの保養施設のようなところに降り、そこにイギリスから女王の使いがやってくる。誕生日を記念するコンサートを開くのだが、是非それにバリンジャーが作曲した曲をバリンジャー自身に指揮してもらいたいというのだ。


名誉あることであり、普通なら誰でも一も二もなく引き受けそうなオファーだが、バリンジャーは首を縦に振らない。意外な展開に女王の使いも困惑を隠しきれない。映画はその後、バリンジャーが施設内で様々な人々と対話したり、目にしたり、体験することを綴っていく。


バリンジャーには腐れ縁の長年の友人ミック (ハーヴィ・カイテル) がおり、映画作家の彼も、時を同じくして施設に来ていた。ミックは彼のミューズであるブレンダ  (ジェイン・フォンダ)  を起用してもう一度花を咲かせたいと熱望しており、施設には脚本を手伝う彼のクルーも同行していた。しかし、実は彼の創作の才能は既にピークを大きく過ぎていた。


バリンジャーの娘兼秘書役のレナ (レイチェル・ワイズ) は、父の自伝を書く仕事も手伝っているが、遅々として進まない。そこへレナの夫がいきなり施設に姿を見せ、レナに離婚を迫る。新しい女ができたというのだ。その女パロマ・フェイスは、誰あろうシンガーのパロマ・フェイス本人で、作品中でフェイスの新しいミュージック・ヴィデオが流れたりする。いきなり知っている顔が本人自身として登場し、しかも他人の夫を寝取る頭の悪そうな女として描かれると、結構解釈に戸惑う。作品冒頭や途中に登場するバンドのレトロセッツも本人たちということだが、こちらの方はバンド自体知らなかった。


ミックの他にも若手映像作家としてジミー  (ポール・ダノ)  もおり、時折バリンジャーと会話したり質問したりしているのだが、ある時何を思ったかいきなりヒットラーに扮してダイニングに現れたりする。フォンダ扮する往年の名女優ブレンダは、グロリア・スワンソンかジョーン・クロウフォードかいう役どころで、出番は少ないながら印象を残す。印象を残すといえば、やたらと思わせぶりな撮られ方をするケインのマッサージをする女の子は、あれはいったいなんだったのだろう。


引退したサッカー選手はぶよぶよになっており、歩くのすら人の手を借りないと困難だが、テニス・ボールをサッカー・ボール代わりに高々とリフティングし続ける。彼自身は誰も彼のことを知らないと思っているが、ある時、施設にいる人は全員彼が左利きであることを知っていると告げられる。要するに、もしやと思っていたが、彼はマラドーナだ。後でIMDBをチェックしたら、ちゃんと役名がマラドーナになっていた。偽名とか似たような名前にしようという考えはさらさらなかったようだ。きっと本人は怒ると思う。それにしてもヨーロッパの映画だな。これがアメリカなら、たとえマラドーナでも知らない者の方が多い。


そんなこんなでこの映画、結構わけがわからんと思いながらも楽しんだことは事実で、私たちは夫婦はかなりヘンだけど面白かったなということで意見は一致していた。その後帰りがけに表に出てトイレに行っている女房を待っていたところ、出入り口付近で映画を見て出てきた人を捕まえて、手当たり次第にどうだった、面白かった? と訊いているおばさんがいた。それに対しておっさんがまったくよくなかったと答えていた。


要するに、なんか話が見えにくい作品なのは確かであり、それでどうしよう、興味がないこともないという近所に住むおばさんが情報収集に来たところ、あまり映画と合わなかったおっさんが憮然として答えた、という構図のようだ。連れの女性も映像は綺麗だったけど‥‥と、奥歯にものが挟まったような物言いをしていた。


その後、女房がくすくすしながらトイレから出てきて、女性トイレでも映画のことが話題になっており、ほとんどの者がなにこの映画、わけがわからん的な発言をしていたらしい。それでそばにいた女房にあなたもそう思うでしょ、と振ったら、いや、私は面白かったと女房が発言したので、固まってしまったらしい。確かに、見る人を選びそうな作品ではある。












< previous                                      HOME

フレッド・バリンジャー (マイケル・ケイン) は一線を退いた作曲家で、娘で秘書役のレナ (レイチェル・ワイズ) 共々、スイスの施設に保養に来ていた。一緒に施設を訪れて新作の案を練っている映画監督のミック (ハーヴィ・カイテル) は長年の腐れ縁で、かつては同じ女性を巡って争ったこともある。施設には他にも、今はデブデブになった元サッカー選手や決して口を利かない夫婦、若手映画監督のジミー (ポール・ダノ) ら、一癖も二癖もある輩が揃っていた。そこへレナの夫がやってきて別れ話を切り出す。英国からは女王の使いがやってきて、誕生日記念のコンサートの指揮を振ってもらいたいというのだが‥‥


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system