X-Men First Class


X-Men: ファースト・ジェネレーション  (2011年6月)

第二次大戦時ドイツ。ユダヤ系のエリックは強力なテレキネシスを持つ少年で、その力をナチのショウ (ケヴィン・ベーコン) に見込まれる。同時期、テレパシー能力を持つ少年チャールズは、アメリカで身体を自由に変身させることのできる少女レイヴンと出会う。二人は兄妹のように親しくなって成長する。時は変わって1960年代。チャールズ (ジェイムズ・マカヴォイ) はケンブリッジで勉強しながらミュータントたちが世界に貢献できる方法を模索していた。しかしエリック (マイケル・ファスベンダー) は母を殺したショウに復讐するためにナチの残党を処分して回っており、そのショウは、ロシアを懐柔してアメリカと戦争を起こさせ、世界を滅亡させた後、ミュータントの世界を構築する野望を持っていた。チャールズはCIAのマクタガート (ローズ・バーン) から彼の力を貸してくれるよう要請され、ショウを追っていたエリックと邂逅する。陰陽まったく正反対の二人だったがそれだけにわかり合える点も多く、友情を育んでいく二人だったが‥‥


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「X-メン」シリーズは、アメリカでは人気がある。非常に人気があるのだ。アメリカの変身・変装もののスーパーヒーローとしては、「スーパーマン (Superman)」「バットマン (Batman)」「スパイダーマン (Spider-Man)」の3強が別格として人気があるが、「X-メン」は複数ヒーローものとしては文句なしに最大の人気を誇る。


私はシリーズの最初の3作、「X-Men (X-メン)」「X-Men 2 (X2: X-Men United)」「X-Men ファイナル ディシジョン (X-Men: The Last Stand)」を見ているが、見ようとする度にチケットが売り切れで、毎回「X-メン」ってこんなに人気があるのかと驚かされた。私もいい加減学習すればいいのだが、やはり、いくらなんでも10館あるマルチプレックスの半分で上映しているのに、まさか今回も売り切れということはないだろうと高をくくり、やはり売り切れで出直さざるを得なくなるというのを飽きもせずに繰り返していた。


ただし「ファイナル・デシジョン」の幕切れは正直言って3流で、さすがにこれ以上続きを見る気になれなかった。せめて「1」と「2」を撮ったブライアン・シンガーが関わってさえいたら、あんな恥知らずな終わり方はさせなかったろうにとしか思えなかった。おかげで「ウルヴァリン: X-Men Zero (X-Men Origins: Wolverine)」もパスしていた。「X-メン」シリーズはもう終わりかと思っていた。


そこへ登場したのが、この「ファースト・ジェネレーション」だ。考えたらこんなに金のなる木をハリウッドがほっておくわけがなかった。しかも今回、演出からプロデュースに代わって作品にタッチしているのは、誰あろうシンガーだ。演出を担当しているのは「キック・アス (Kick-Ass)」のマシュウ・ヴォーンだが、現在、「バットマン」のクリストファー・ノーランと共にアメリカのスーパーヒーローものを代表するシンガーが関係することで、再び軌道修正した「X-メン」が見られるに違いない。そういうわけで、前回「ファイナル・デシジョン」を見た時に頭に来て、「X-メン」シリーズはもう見ないと宣言したことを撤回していそいそと劇場に足を運ぶ。


今回はオリジナル・タイトルが「ファースト・クラス」、邦題「ファースト・ジェネレーション」となっていることからもわかる通り、X-メンのそもそもの成り立ちを描く。彼らがX-メンとして現在ある理由、ゼイヴィアとマグニトの友情と確執の来歴等が描かれる。


話は第二次大戦時に、その力を見込まれてナチに連れてこられた少年エリック (後のマグニト) の描写から始まる。エリックの能力に気づいてその力を顕現させようとする、自身も超能力者のナチ将校セバスチャン・ショウに扮するのはケヴィン・ベーコンで、思わずベーコンがスクリーンに出てきたのを見た時には、あっと声を上げてしまった。


予告編でもベーコンが登場するシーンなんか一瞬たりともないし、なんせこちらは単純にゼイヴィアとマグニトの若い頃を描く作品というくらいの気持ちでしか見に来てないので、ベーコンが裏の主人公として重要な役で出演しているということなんかまるで知らなかったのだ。いや、びっくりした。


そのベーコン扮するショウに母親を殺されたエリックは、長じても復讐するためにショウを探し歩いていた。一方、性善説を支持するゼイヴィアは、自分の力を人類のために役立てることはできないかと考えていた。そこにCIAのエージェント、マクタガートが接触してくる。冷戦という時代を背景に米露戦争、そして究極的には人類の滅亡、そして来たるべき新世界を構築しようとするショウの野望に感づいたCIAが、ゼイヴィアの力に半信半疑ながらも接触してきたのだ。


ここでまたまた、あっと声を上げてしまった。CIAエージェントのモイラ・マクタガートに扮しているのは、ローズ・バーンではないか。これまたバーンが出るシーンなんか予告編では使われていないので知らなかった。バーンは今年既に、「インシジャス (Insidious)」「ブライズメイズ (Bridesmaids)」と、今年ナンバー・ワンのホラー、ナンバー・ワンのコメディとして評価の高い作品に続けて出ている。さらに今回、今んとこ今年ナンバー・ワンのアクションSFとの評価も高い「ファースト・ジェネレーション」だ。


今年前半は、「ブラック・スワン (Black Swan)」、「抱きたいカンケイ (No Strings Attached)」、「ユア・ハイネス (Your Highness)」、「マイティ・ソー (Thor)」、小品も含めればさらにまだ出演作があるナタリー・ポートマンの活躍ぶりが目立ったが、水面下で地道に仕事しているバーンも侮れない。さらに7月からはディレクTVで「ダメージス (Damages)」の新シーズンも始まる。彼女の持ち味は実はちょっと根暗加減に見える地味そうなところにあるのだが、それを逆手にとって今年中盤、最も活躍している女優になった。


話を元に戻して「ファースト・ジェネレーション」だが、ゼイヴィアはショウの企みを阻止しようとしてエリックに出会う。エリックは楽天的に見えるゼイヴィアの主張に懐疑的だが、それでも群を抜く力を持つ二人には共通するものがあり、二人は親交を深めていく。一方、ショウの計画も進行しており、米露は一瞬触発の状態になる‥‥


主演のゼイヴィアを演じるジェイムズ・マカヴォイとエリックを演じるマイケル・ファスベンダーは、二人とも好演。特に、既に若手では実績のあるマカヴォイに較べ、エリックを演じたファスベンダーは印象を残す。「300」では他の大勢の戦士の中で揉まれほとんど記憶に残らなかったが、「イングロリアス・バスターズ (Inglourious Basterds)」で頭角を現し、今回ファスベンダーここにありを印象づけた。ショウを演じたベーコンももちろん楽しませる。


サブ・キャラでは、まず勝手知ったるミスティークを今回はジェニファー・ロウレンスが演じている。昨年話題になった「ウィンターズ・ボーン (Winter’s Bone)」によって抜擢されたのは間違いあるまい。ビーストに扮するニコラス・ホルトは、「シングルマン (A Single Man)」に出ていた。ショウの片腕フロストを演じるのは「マッド・メン (Mad Men)」のジャヌアリー・ジョーンズ。実は昨シーズンの「サタデイ・ナイト・ライヴ (Saturday Night Live)」でゲスト・ホストを担当した時には、コメディの方の才能はまるでないことを暴露してしまっていた。アザゼルのジェイソン・フレミングは、「ハンナ (Hanna)」ではめずらしく普通の人を演じていた。


「ファースト・ジェネレーション」の印象は、上手、ということに尽きる。どこかでシンガーが作品について発言しているのをちらと読んだのだが、とにかくふんだんにバック・ストーリーのある「X-メン」のこととて、ストーリーの構築にはまったく困らなかったそうだ。むしろストーリーをすっきりさせるために泣く泣く切ったエピソードが多いそうで、そうやってでき上がった「ファースト・ジェネレーション」は、うるさい外野も納得させる隙のない作品になった。


今回のストーリーの根幹はどうやってゼイヴィアとマグニトが出会い、どうやって敵として袂を分かつことになったかということにあるのはもちろんだ。陽の主人公ゼイヴィアと陰の主人公マグニトだが、このことは必ずしも二人を正邪として二分類しない。ゼイヴィアにはゼイヴィアの、マグニトにはマグニトの考え方があり、虐げられてきた弱者として自分たちの住む世界を構築しようとするマグニトに対し、正悪の二元論は通用しない。


こういうマグニトに対する共感もちゃんと用意しながら、ミスティークのようなお馴染みキャラクターも出し、しかも彼女が現在までほとんど歳をとってないように見える理由もちゃんとある。ゼイヴィアが車椅子に乗っている理由まで説明されるのはほんとに感心した。ヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンがちらと顔を出すファン・サーヴィスまである。要するに、隅々まで神経の行き届いた娯楽作が「ファースト・ジェネレーション」なのだ。こいつは楽しむしかあるまい。


ところで劇場だが、今回は3年前に引っ越したおかげでこれまでとは違う劇場になったことが功を奏したか、最初に足を運んだ時にチケットは無事売り切れでなく見れた。とはいえ最近では珍しく、両側の席に人が座っていた。全体で9割くらいは入っていたのではないか。最近、両側に人が座っているという状態で映画を見るという経験がほとんどないので、久しぶりに劇場が人でいっぱいという臨場感と共に作品を見た。しかし、人がいない状態で椅子にふんぞり返ってスクリーンに没頭するというのが、やっぱり好みかな。








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