放送局: FOX

プレミア放送日: 3/12/2004 (Fri) 21:00-22:00

製作: リージェンシーTV、20世紀FOX TV

製作総指揮: ブライアン・フラー、トッド・ホランド、ティム・ミネア

製作: ポール・ラブウィン、マイケル・マスキオ

監督: トッド・ホランド

脚本: ブライアン・フラー

撮影: ヴィクター・ハマー

編集: アラン・ボームガーデン

美術: アリシア・キーワン

出演: キャロライン・ダヴァナス (ジェイ・タイラー)、ケイティ・フィネラン (シャロン・タイラー)、ダイアナ・スコーウィッド (カレン・タイラー)、ウィリアム・サドラー (ダリン・タイラー)、リー・ペイス (アアロン・タイラー)、タイロン・リートソ (エリック)、トレイシー・トマス (マハンドラ)


物語: ジェイは最近大学を卒業したものの、これといって特にやりたいことがあるわけでもなく、ナイアガラのお土産品店で働くことになる。一応親はそれなりに功成り名を遂げた名士であり、姉もその一端に連なっているのだが、そういうものに馴染めないジェイは、一人家族から離れ、トレーラー・ハウスに住んでいる。ある日、就業中のジェイに、一人の女が買った物について文句をつけてきた。嫌々ながら応対するジェイに、よりにもよって、その土産ものの、たてがみが半分とれてしまっているライオンが、その女に金を渡すんじゃないと話しかけてきたのだ。その後も、周りから見ると奇矯な振る舞いが目立つようになってきたジェイに対し、家族の者はセラピストに会うことを勧めるが、そこでも、よりにもよって置物のサルがジェイに話しかける始末だった。いったいジェイの周りの世界はどうなってしまったのか‥‥


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今、アメリカでは宗教が注目を浴びている。それが9/11に端を発するものなのか、イラク戦争に関係するものなのか、単に時代は末世と感じる者が多いからなのかはなんとも言えないが、宗教 - 端的に言ってキリスト教のことなのだが - に関心を示す者が飛躍的に増えた。


そのことを明確に示したのが、今春のメル・ギブソン監督の「パッション (The Passion of the Christ)」の、誰もが驚いた大ヒットだろう。公開前は、残酷すぎるやら、あまりにも見解が個人的すぎるなど、数多のキリスト教関係団体が否定的見解を述べたため、ほとんどのスタジオが尻込みして配給の目途が立たず、そのままお蔵入りになるのではないかという噂すら流れていた。


それがなんとか公開にこぎつけるや否や、連日劇場超満員で、興行成績で歴代10位以内に入る大ヒット作品となってしまった。公開前の上映反対運動など、騒ぎが大きすぎたためにそれがかえって人々の好奇心に火をつけたという嫌いはあるだろうが、それにしてもと誰もがびっくりするくらいの大入り満員である。


しかし、先にも述べたように、近年、宗教は表立って現れてこそ来ないが、通奏低音として人々の心の中を流れている、隠れたブームだった。そしてそれは、なにも「パッション」の登場を待つまでもなく、数年前から、ちゃんとTV番組として現れ始めていたのだ。


もちろん私は、かつてのCBSの人気番組「タッチド・バイ・アン・エンジェル (Touched by an Angel)」のことを言っているのではない。確かに高齢者は見ていたが、ああいう抹香臭い番組を見ていた若者はいないだろう。また、「バフィ」「エンジェル」のようなSFアクションのことを言いたいのでもない。そうではなく、昨年来、若者を相手とするTV番組でも、神様や天使や悪魔や甦った死者等が登場する、必ずしもSFではない、シリアスなドラマ番組が非常に増えていることを言いたいのだ。


その新しい流れの最初の番組は、もしかしたらHBOの「シックス・フィート・アンダー」かもしれない。番組の中で、事故で死亡した葬儀屋の主が時々実体のない姿となって現れるというシーンがある。あるいは、90年代末の、「ジーザス (Jesus)」や「ノアズ・アーク (Noah's Ark)」等の天地創造系のミニシリーズも、この流れに与って力があったかもしれない。


しかし、現在の死者霊魂が登場する番組の一つの小さなブームとしての発端は、たぶんショウタイムが昨夏から放送を始めている「デッド・ライク・ミー (Dead Like Me)」だろう。ロシアの衛星ミールから落ちてきた破片によって不幸にも死んでしまうという奇想天外な死を経験した主人公の女の子が、死後、「リーパー (Reaper)」として死者の魂を刈り集める仕事をする様を描く。


その後、秋にCBSが始めた「ジョーン・オブ・アーケイディア (Joan of Arcadia)」は、若い女の子の主人公の周りに、「神」が様々な形をとって現れるという状況を描くもので、「タッチド・バイ・アン・エンジェル」の後継番組として、既に中程度のヒット番組となっている。FOXの「トゥルー・コーリング (Tru Calling)」は、最もSFタッチの濃い、どちらかというとシリアスなドラマというよりはSFエンタテインメントで、病院で働くエリザ・ダシュク演じる主人公が、死者の声を聞くことによって、生前の無念を晴らすという設定だ。


さらに今夏放送予定のFOXの「スティル・ライフ (Still Life)」では、主人公は既に死んでしまっており、その死んだ主人公の視点から現在の家族の姿をとらえるという、アリス・シボールドのベスト・セラー「ザ・ラヴリー・ボーンズ (The Lovely Bones)」の根幹のアイディアを脚色しているそうだ。


こういう番組がひきもきらずに現れてくるというのは、やはり人々の心が、なにかの拠り所を求めているからではないかという気は大いにする。激動の時代において、神はなにかの基準をもたらすものとして、あるいは心の支えとして必要とされているのではないか。また、これらの番組の主人公が、全員若い女性であるというのも興味深い。ジャンヌ・ダルクの時代から、神と対話できる一般人は、若い女性と相場が決まっている。そして今、「ワンダーフォールズ」だ。


「ワンダーフォールズ」では、主人公ジェイの身の回りの物たちが、突如生命を吹き込まれたかのように、喋り、動き出す。しかしそれらはジェイにしか見えず、他の者たちには、置き物と話すジェイが、なにかしら奇妙な振る舞いをしているだけのようにしか見えない。その、欠けたライオンやサルの置き物は、ジェイにああしろこうしろと指図する。無視もできず、結局ジェイはそのアドヴァイス、というかほとんど命令に従って行動を起こすのだが、最初、途方もなく不可解かつ意味不明に見えたそれらの指図が、連鎖に連鎖を起こし、最後には収まるべきところに収まってしまうのを、ジェイは呆れたように見守るしかないのだった‥‥


とまあ、話はそういう内容で、まず、主人公の周りに、神、霊魂、あるいはそれらしきものが現れる。その姿は主人公にしか見えず、主人公に対してなんらかのアドヴァイスを与える。そのアドヴァイスは、最初不可解なものに見えるのだが、それがめぐりめぐって結局話は大団円に向かう、という話の骨格だけを見ると、「ワンダーフォールズ」は、「ジョーン・オブ・アーケイディア」にそっくりだ。


しかしもちろん、視聴者の平均年齢が最も高いCBSが放送する「ジョーン」は、どうしても説教臭い匂いが抜けず、一方、若者に人気のあるFOXが放送する「ワンダーフォールズ」の場合は、かなり垢抜けた印象が強い。大雑把に言えば構造的にはほとんど同じ番組がここまで肌触りが異なってくるのを見るのは、面白いくらいだ。誰が見ているかを考える作り手の意識が、はね返って番組そのものの手触りとなって前面に現れてくるのだ。


私はどうしても説教臭い番組にはほとんど生理的に反発するので、「ジョーン」は最初の数回見ただけで見なくなったが、「ワンダーフォールズ」はかなり面白く感じた。まず、主人公のジェイを演じるキャロライン・ダヴァナスの、くるくるとめまぐるしく変わる表情だけでも見飽きない。さらに、そのジェイにほとんど無理難題にしか見えない話を吹っかけ、ジェイを結果的に変人に見せてしまう神? の人を食った横暴ぶりもかなり面白い。客におつりを渡すなと囁く (命令する) 神の指図が、何をどう、めぐりめぐって落ち着くべきところに落ち着くか、宅配員と姉のブラインド・デートのセッティングがどういうめぐり合わせになるかという展開は、説教臭さなど微塵もなく、単純に面白い話として楽しめる。


「ワンダーフォールズ」に出演する俳優は、ダヴァナスをはじめとして、ほとんどがカナダの俳優だ。番組の舞台がナイアガラのみやげ品店という、川向こうはカナダという場所が選ばれているのは、そのせいもあるのかもしれない。あるいは、最初にそういう舞台設定となったために、カナダ人俳優を起用しやすかったということもあるかもしれない。ふと思いついたが、昨年、ナイアガラを舞台にして大ヒットした「ブルース・オールマイティ」は、主演のジム・キャリーが神様になってしまうという内容のコメディだった。やっぱり神がらみだ。


とまあ、私が、これはかなりいけると思って見始めた「ワンダーフォールズ」なのであるが、実はこの番組、前回書いた「ゲーム・オーヴァー」と同じく、実は数回放送されただけで、視聴率不振を理由に既にキャンセルされている。最近とみにこの傾向が強く、私が面白いと思っても、キャンセルされる番組が跡を絶たない。そのくせ「O.C.」みたいに、私から見ると愚にもつかないとしか思えない番組が生き残っていたりする。「O.C.」なんかより、「ワンダーフォールズ」を復活させてくれ。






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Wonderfalls

ワンダーフォールズ   ★★★

 
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