Wonder Woman


ワンダーウーマン  (2017年6月)

「ワンダーウーマン」に関しては、知らないことやカン違いしていたことが多々あったというのが正直なところだ。アメリカではTVで何度も映像化されている「ワンダーウーマン」をほとんど見たことがなく、まともに見たのは昨年の「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生 (Batman v Superman: Dawn of Justice)」が初めてだった。 

 

その時に初めて、ワンダーウーマンが過去も現在も同じ姿形をしている不死のヒーローであることを知った。つまり、女性版ウルヴァリンがワンダーウーマンかと思った。 

 

その後、彼女が女性戦士の集団アマゾネスの王妃だったことを知ったわけだが、これまたギリシア神話のアマゾネスのことを知らなかった私は、長い間アマゾネスとは南米アマゾンの秘境に人知れず王国を作った女性戦士集団のことだとばかり思っていた。そこでは人は秘術を尽くして不死の身体を手に入れることができる。「彷徨える河 (Embrace of the Serpent)」を見ていたら、そういう発想も自然に浮かんでくる。 

 

こんな前知識で正しく作品を鑑賞できるわけがない。いざ「ワンダーウーマン」を見始めて初めて私は自分のカン違いに気づいた。不死は不死でもウルヴァリンみたいな実験の結果による人工的なものではなく、神話的なものだった。 

 

一方、不死とはいっても成長はする。子供時代もあった。これはウルヴァリン同様、完全な不死ということではなく、どうやら成長、というか老化が非常に緩慢であるということのようだ。映画はダイアナの子供時代から始まり、成長して大人になるのが、第一次大戦の頃だ。それから時が経ち、100年後の現在もほとんど変わっていない。 

 

現在のダイアナことワンダーウーマンは、DCコミックスのスーパーヒーロー集団ジャスティス・リーグの一員であり、「バットマン vs スーパーマン」にも出ていた。タイトルが「バットマン vs スーパーマン」ということからもわかるように、ワンダーウーマンは客演以上のものではなかったが、その中でワンダーウーマンの素性を調べたバットマンことブルース・ウエインは、第一次大戦に参戦していたワンダーウーマンの写真を探し出す。 

 

今回の「ワンダーウーマン」は彼女がその写真を撮った第一次大戦時の話がメインだが、映画のオープニングは、ウエインの会社のヴァンがパリのルーヴル美術館に停車し、今はルーヴルで働いているダイアナにその写真が届けられるという前振りで始まり、それを見たダイアナが当時を回顧して、彼女がどうやってワンダーウーマンとして知られるスーパーヒーローに成長したかを綴るものとなっている。いずれにしてもちゃんと1年以上前からその写真を用意して「ワンダーウーマン」に繋げる準備をしていたんだなと、ちょっと感心する。というか、「バットマン vs スーパーマン」を見た時に、いかにも他にも多くの写真があるだろうという中で、この写真だけがやたらと強調して使われているなと少し違和感を覚え、だから覚えていたのだが、要するに「ワンダーウーマン」に至る伏線だったわけだ。 

 

「ワンダーウーマン」は、演出が「モンスター (Monster)」以来のパティ・ジェンキンス、主人公が女性ヒーローということで、女性のためのスーパーヒーローものという見方も多い。同時期公開のトム・クルーズ主演の「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女 (The Mummy)」の3倍の興行成績を獲得しているのを見ると、少なくとも映画自体はアメリカでは圧倒的なヒットで、老若男女にアピールしている。 

 

一方、それが持続的な女性自立のムーヴメントと関係あるのかというと、多少首を傾げざるを得ない。元々アマゾネスは女性だけの戦士集団で、戦士の子孫を残そうとすると、どこからか男を調達してきて種を植え付けないといけない。懐胎したら、男は殺されるか奴隷にされる。これでは今度は女性側からの男性に対する虐待だ。男女対等を声高に歌っておきながら、それはまずい。 

 

というわけで、映画では女性だけが住む島という存在の歪つさは残したままで、どうやってそういう仕組みが維持されているかに関しては、触れられない。言及してしまうとどうしてもその歪んだ構図に触れないわけにはいかないからだ。因みにオリジナルのDCコミックスではどう扱われているかと思って調べてみたら、ダイアナはヒッポリタが土から作って命を吹き込んだということになっていた。神話の世界だからな。それもありか。しかしそのままではワンダーウーマンをジャスティス・リーグの一員とするにはちょっと無理があるため、出自に関してはぼかしたものと思われる。一方、宇宙人のスーパーマンだっているんだから、土から生まれたならそれはそれでいいんじゃないかとも思うが、それではまずいのだろうか。 

 

ワンダーウーマンは、私の印象ではDCコミックス版キャプテン・アメリカだ。マーヴェル・コミックスのスーパーヒーローの一人であるキャプテン・アメリカは、第二次大戦の時に現れ、時を超えて現代に復活する。ワンダーウーマンは第一次大戦時に活躍し、現代でもまた活躍する。名前からアメリカとつくキャプテン・アメリカがナショナリズム顕揚的ヒーローなのは言わずもがなだが、ワンダーウーマンのコスチュームは、今回の映画ではそれほどでもないが、コミックスではまるで星条旗をまとっているようにしか見えない。あれでは彼女がギリシア神話と関係あることを、一見しただけでは気づく者はいまい。その点、今回はアメリカのスーパーヒーローから世界的視点にうまく脱皮したように見える。しかしダイアナは、パリに住んでいるくせに、「バットマン vs スーパーマン」ではわざわざスーパーマンとバットマンのいがみ合いに茶々入れるためにメトロポリス/ゴッサム・シティに出張って来てたのか。ルーヴルの仕事だって忙しいだろうに。 










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20世紀初頭、アマゾネスと呼ばれる女性戦士たちだけが住む孤島セメスキラで、ダイアナは生まれる。ダイアナは一流の戦士になるべくアンティオペ (ロビン・ライト) の厳しい指導の元で日々研鑽を積むが、彼女が強くなればなるほど、彼女らを目の仇にしているギリシアの神アレスに見つかる可能性も大きく、母のヒッポリタ女王 (コニー・ニールセン) はそのことが気がかりだった。ある時、ドイツ軍にスパイとして潜入していたスティーヴ・トレヴァー (クリス・パイン) が敵機に追われ、結界を突き破ってセメスキラ近くで撃墜される。ダイアナ (ガル・ガドット) はドイツ軍が毒ガスを開発しているというスティーヴの話を聞いて、その後ろにアレスが控えていることを確信、人間界の悪を正すことで世界を平和に導けるものと考える。スティーヴの後を追ってドイツ軍が島に入り込んでしまった今、ヒッポリタはダイアナが外の世界に旅立とうとしているのを止める手立てはなかった。ダイアナはスティーヴと共にイギリスに渡り、人間の文明に触れると共に、新しい仲間を得、ドイツ軍の謀略を阻止するために行動を開始する‥‥ 


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