Widows


妻たちの落とし前  (2018年11月)

ABCの、現在では既に最終回を迎えてしまったが人気番組だった「スキャンダル (Scandal)」と、こちらはまだ現在も放送中の「殺人を無罪にする方法 (How to Get Away with Murder)」によって、黒人女優というと真っ先に思い浮かべるのは、「スキャンダル」主演のケリー・ワシントンと、「殺人を無罪にする方法」のヴィオラ・デイヴィスだ。黒人女優が主演のドラマが並ぶという前例のない偉業によって、ワシントンとデイヴィスは歴史に名を残すことになった。   

 

この2本はやはり黒人女性の人気プロデューサー、ションダ・ライムズが製作している。ついでに言うとライムズは同様にABCの人気番組「グレイズ・アナトミー (Grey’s Anatomy)」も製作しており、ABCの木曜夜は8時「グレイズ・アナトミー」、9時「スキャンダル」、10時「殺人を無罪にする方法」と、今春までライムズがプロデュースする番組が3本並んでいた。 

 

「スキャンダル」が最終回を迎えた後も、代わりに編成されたのはやはりライムズがプロデュースする「ステイション19 (Station 19)」であり、主人公の女性消防士を演じるのは、今度は黒人でこそないがラテン系のジェイナ・リー・オルティスであるなど、やはり非白人女性が主人公という点は継承している。 

 

「妻たちの落とし前」は、たぶんこれまでなら白人女性が主人公であったろうというストーリーだ。1980年代に英国で製作されたオリジナルのTVミニシリーズで主人公を務めていたのは、もちろん白人女優のアン・ミッチェルだ。それを今回、「それでも夜は明ける (12 Years a Slave)」の黒人監督スティーヴ・マックイーンが、黒人女優のヴィオラ・デイヴィスを主演にリメイクする。 

 

しかもこの作品、単に今回がリメイクということだけでなく、今回が実は2度めのリメイクだ。既に2002年に一度、ABCで舞台をアメリカに替えてミニシリーズ化されている。最初、そんなのまったく記憶になかったので、本当かと思って私の過去のメモを調べてみた。もしそうなら基本的にアメリカで放送されたすべての主要な番組を記録しているはずの私のメモに、ないはずがないと思ったからだ。そうしたら、本当にあった。2002年8月に、『「Widows」、80年代に英国でヒットしたドラマを再映像化。ブルック・シールズ、メルセデス・ルーエル主演。』と、ちゃんと書かれてあった。  

 

ただし、その内容は大幅にオリジナルに手を入れてあって、特に主人公たちが盗もうとしているのは金ではなく、名画だ。また、この番組が評判になった記憶もないので、大した成績を収めることができず、私の記憶からすっかり抜け落ちたものと思われる。さらにメモではまるで主演が一番先に書かれているシールズみたいな印象を受けるが、実は主人公はルーエルの方だ。3人の主要人物で書かれていないもう一人はロージー・ペレスで、実はそれなりに見どころのある人選だ。それなのに番組が成功しなかったようなのは、オリジナルが持っていたエッジィで尖んがった部分を、アメリカナイズして薄めてしまったせいだと思われる。海外作品のアメリカでのリメイクではよくあることだ。 

 

今年、NBCが編成した「グッド・ガールズ (Good Girls)」 も、実はかなり「Widows」に印象が近い。こちらも二進も三進も行かなくなった女性たちが悪行に足を突っ込みギャングから狙われるという内容で、主人公にクリスティーナ・ヘンドリクス、共演レッタとメイ・ホイットマンと、こちらもいかにもという人選だ。 

 

これらの作品、番組の登場が、近年のMeeTooムーヴメントや女性や黒人の地位向上になんらかの関係があるのか。わりとありそうに見える。私たちもこのまま虐げられたまま黙っているわけではないという意思表示のように思える。一方で実は個人的には、未亡人を意味するオリジナル・タイトルは、既に時代にそぐわないという気もする。


登場する女性と男性たちは、どうも一見すると夫と妻という関係ではなく、パートナーであり、婚姻関係を結んでいる者たち同士のようにはあまり見えない。特に主人公のヴェロニカとハリーは、子供もいないこともあり、夫婦という関係には見えない。単に一緒に住んでいるパートナーであって、お上の押しつけである法律上のシステムには縛られていないように見える。これは多かれ少なかれどのカップルもそうだ。Widow、未亡人という単語の持つ意味が、時代と共に変遷しているという感じがする。元々一緒に住んでいるだけで籍を入れてない者は、パートナーが死亡したからといって未亡人になるわけでもない。邦題が「未亡人」ではなく「妻」になっているところも、その辺を意識しているからか。

 

最終的には主人公のヴェロニカが、計画を仲間と一緒にではなく一人で遂行したら、さらに純粋度やクライマックスのカタルシスが高まったと思うが、しかし仲間がいることで、今度は「オーシャンズ (Ocean’s)」的なバディ・ムーヴィ、ガラ・ムーヴィみたいな華が出たのもまた確かなので、一概にどっちがいいとは言えない。基本的に強盗としては彼女らは素人なので、やはり仲間がいたことで話が綻ぶことなくまとまったとは言える。 

 

主演のデイヴィスは、近年は今回にせよ「殺人を無罪にする方法」にせよ、リーダー的性格の人物を演じることが多いが、一方で「フェンス (Fence)」や、そもそもの注目されるきっかけとなった「ダウト (Doubt)」のような、耐え忍ぶ女性をやらせてもうまいなど、芸幅が広い。仲間内では唯一の白人女性であるアリス を演じるエリザベス・デビッキは、知らないなと思っていたが、調べたら「コードネーム U.N.C.L.E. (The Man from U.N.C.L.E.)」での敵役の彼女だった。あの時は厚塗り化粧の印象が強過ぎて、気づかなかった。 

 

彼女らは大きな仕事をするにはどうしてもメンツが足りないと、ミシェル・ロドリゲス扮するリンダがシンシア・エリヴォをドライヴァーとしてスカウトするが、それがなんで逆じゃないんだというのがちょっと歯軋りもの。ここはやはり、「ワイルド・スピード (Fast and Furious)」レギュラーのロドリゲスにクルマを運転してもらいたかった。 

 

という主人公格以外にも、周りを固めるのがリーアム・ニーソン、コリン・ファレル、ロバート・デュヴォール、ダニエル・カルーヤ、キャリー・クーン等の豪華な面々だ。特に切れやすいギャングに扮するカルーヤが、「ゲット・アウト (Get Out)」とはかなり異なるキャラクターで印象に残る。オリジナルの「Widows」は、彼女らのその後を描く第2シーズンが製作されている。果たして今回もその後はあるか。 その時は未亡人というタイトルではなくなるような気がする。











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ハリー (リーアム・ニーソン) とヴェロニカ (ヴィオラ・デイヴィス) は幸せに暮らしているカップルだったが、実はハリーの仕事はプロの泥棒だった。ある時、ハリーの仕事が失敗し、銃撃戦となってハリーと仲間は共々死亡する。一方、ギャングのボス、ジャマル (ブライアン・タイリー・ヘンリー) は、ヴェロニカに、ハリーに奪われた金を返せと迫る。二進も三進も行かなくなったヴェロニカは、今では未亡人となった、ヴェロニカ同様金に困窮していたハリーの仲間の妻たち、リンダ (ミシェル・ロドリゲス)、アリス (エリザベス・デビッキ) に声をかけ、次にハリーが予定していた仕事を自分たちの手でやるしかないと持ちかける。それは地元の名士であるジャック・マリガン (コリン・ファレル) の家の金庫破りというものだった‥‥ 


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