What Lies Beneath

ホワット・ライズ・ビニース  (2000年7月)

先週映画を見てなくて、今週公開2週目になるこの「ホワット・ライズ・ビニース」を見に行ったら、先々週の二の舞いを踏んでしまった。要するに、今週から始まったエディ・マーフィ主演の「ナッティ・プロフェッサー2」見たさに集まった群衆が映画館を取り囲んでおり、その影響を被って「ホワット・ライズ・ビニース」の時間に間に合わなくなってしまったのである。おかげでまた翌日車に乗って別の映画館に行く羽目になってしまった。最近毎週毎週入れ代わり立ち代わりそれなりの注目作が公開されるために、アメリカの映画界は活況を呈している。まずはご同慶の至りです。


さて、「ホワット・ライズ・ビニース」である。ハリソン・フォードが演じるのは遺伝子研究の専門家ノーマン・スペンサー。自分の研究の助成金を得るために、今が研究の正念場である。ミシェル・ファイファー演じる妻のクレアは前途を嘱望されたチェリストだったが、前夫を事故で失い、ノーマンとの結婚を機に家庭に入り、娘のケイトリンの成長だけを楽しみにしていた。そのケイトリンも大学入学を機に家を離れ、クレアは誰もいない広い家に日中ただ一人過ごすようになる。しばらくしてクレアは自分以外誰もいないはずの家の中に誰かがいる気配を感じるようになる。その何物かの気配は日増しに強くなっていくだけでなく、クレアに危害を加えようとする悪意を持っていた‥‥


前半は結構雰囲気で怖がらせてくれて、観客の予想を裏切る伏線もちゃんと張っており、まずはなかなか楽しませてくれる。監督のロバート・ゼメキスも2大スターを得て、気合を入れて演出したようだ。しかし、ホラーというのはネタが割れた後はどうしても尻すぼみになってしまう。これはたとえ大スターが出演していようとも例外はない。今回も色々やってくれているんだが、やはり後半は今一つという感は拭えない。前半はわりとよかったんだけどねえ。全体として見ると、昨年の「シックス・センス」の方ができがよかったし、「ファイナル・デスティネーション」の方が面白かった。少なくとも「ファイナル・デスティネーション」は意外性という点では最後まで飽きさせなかった。「ホワット・ライズ・ビニース」の方が、丁寧に作ってあるとは思うんだが。


ところでこの映画、巷では結構ヒッチコックの映画と比較して評されている。ゼメキス自身もヒッチコックを意識していたということだ。しかし私は本当?どこが?と思ってしまった。確かに隣りに新しく引っ越してきたカップルを双眼鏡で覗くファイファーというのは「裏窓」だろうし、ファイファーが身につけていた失踪した女性のネックレスは「めまい」ということになっているんだが、なんだかちょっと嘘臭いぞ。クライマックスのバス・ルームのシーンは「サイコ」と言われているんだが、話の進行上、排水溝から水が流れていくショットはあっても、いくらなんでもそりゃあこじつけだよ。この映画はヒッチコック的サスペンスとは明らかに種類が違う。


それと非常に気になったのが、物語の都合で出てきたり長い間いなくなったりする飼い犬のクーパー。結構演技がうまく、怖気づいて後ずさっていくところなんて人間顔負けの演技なのだが、そういうなかなかの出番の後はいきなり姿が見えなくなり、どこに行ったかわからなくなる。クーパーが常時家の中にいるとファイファーを気配で怖がらせることができなくなるから、必要とする時以外はどっか外に行っていて欲しいというのはわかるし、それはそれでいいのだが、だったら時々いきなり思い出したようにまた出すのはやめてくれと思う。クーパーがしばらくぶりに出てくると、あれ、ファイファーが危険に陥っていた時、あんたは飼い主も守らなくていったいどこへ行っていたんだと思ってしまうのだ。


もう一つ気になった点を挙げる。この映画に出てくる女性は、ファイファーの友人を除き、皆献身的というか、ほとんど破滅的に愛する男の人を求めるのであるが、特に、将来を嘱望されているのに、フォードと出会っただけでチェロを辞めてしまったファイファーというのは納得しづらい。とりわけ実生活でも夫がいても自分のキャリアもしっかり考えているファイファーが、こういう自立していない女性(彼女は娘の自立が耐えきれず、昔の写真を見て泣いたりするのだ)を演じるのは、私にははっきり言って興醒めであった。最近の女性はこんなファイファーを見て腹立てないでいいだろうか。


完全に脇に徹しており、ほとんど正面から顔を映してすらもらえず、映画の最初の10分から後は完全に忘れ去られる娘のケイトリンに扮しているのが、キャサリン・タウン。あれ、彼女「M.Y.O.B.」の主人公ライリーじゃないのと思っていたが、いかんせんほとんど顔をまともに映してもらえないのではっきりしない。やっぱり彼女だったかとわかったのは、映画が終わってクレジットを見てからであった。TVでは主演を張っても映画ではまだまだのようだ。でも彼女はこれから表舞台に出てくるだろう。ファイファーの精神分析医に扮するのは、ジョー・モートン。彼は「ノイズ」でも研究者をやっていたし、理知的に見える黒人役者ということでなにかと重宝されているようだ。私は結構彼が気に入ってるが、それは彼が私が贔屓にしているジョン・セイルズの作品(「ブラザ-・フロム・アナザー・プラネット」)で芽が出たということとも関係している。主演は無理かも知れないが、重要なバイ・プレイヤーということでハリウッドでも確固たる地位を築いているように思う。


スティーヴン・スピルバーグらが主宰するドリームワークスは、多分スピルバーグの趣味なんだろう、アニメーションやホラーを定期的に製作している。しかし昨年製作した2本のホラー、アネット・ベニング主演の「イン・ドリームス (In Dreams)」と、ヤン・デボンが監督した「ホーンティング (The Haunting)」は、興行成績はともかく、批評家からは酷評された。「ホワット・ライズ・ビニース」は少なくとも批評家から真面目に取り上げられ、しかも興行的にも成功する最初のホラー作品になると思われる。先週の週末だけで4,000万ドル以上の興行成績を上げていたし、「X-メン」に続いてこの映画も1億ドル以上を稼ぎ出すのは間違いないな。


さて、来週はケヴィン・ベーコン主演のSF「インビジブル」と、クリント・イーストウッド、トミー・リー・ジョーンズ他主演の爺さん宇宙ドラマ「スペースカウボーイ」、それに、私がもしかしたら今夏の台風の目になるのではと睨んでいる「コヨーテ・アグリー」の3本が一挙に同時公開になる。気を引き締めて早めに劇場に駆けつけ、まずは「インビジブル」から見るとするか。






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