Vertical Limit
バーティカル・リミット (2000年12月)
Vertical Limit
バーティカル・リミット (2000年12月)
クリス・オドネル、ロビン・タニー主演、雪山で遭難した妹を決死の覚悟で救助に向かう、兄を中心とする救助隊の苦闘を描くアクション巨篇。劇場で予告編を見た時はそれだけで手に汗握るアクション・スリラーに見えたんだが、いざ本編を見ると一番面白いシーンをすべて予告編に使っていたのだと知ってがっかり。本編より予告編の方が面白いというのはよくあることではあるが、これはその最たるものだった。
まず、アクションを活かすためのドラマ部分が弱い。色々ドラマティックにしようとして工夫してはいるんだが、すべて中途半端か紋切り型、あるいはキャラクターの描き込みが単純過ぎて、感情移入もままならない。クリス・オドネル演じる主人公のピーターと、ロビン・タニー演じる妹アニーの確執も今一つであれば、ビル・パクストン演じる悪役のエリオットも存在感に乏しく、伝説的クライマーという役割のスコット・グレンに至っては、ほとんど笑ってしまいそうだ。
彼らは皆下手な役者というわけではないから、これはもう脚本と演出の責任だろう。アクションさえよければ、と思っていたのかも知れないが、そのアクションもところどころ興奮させるだけで、あまり冴えない。見せ場だけを詰め込んだ予告編は、こりゃもう口コミで人が呼べる作品でないから、最初に観客を騙せるだけ騙して興行収入を稼いでおこうとしたスタジオの悪知恵としか思えない。予告編になかったもので本編でよかったのは、冒頭のロック・クライミングのシーンくらいのものだった。
ま、主要なキャラクターが主人公の二人以外にも大勢いるから、皆を全部書き込んでなんかいられなかったことはよくわかる。でも、だからといって変に誇張するのはやめてもらいたい。この映画で少なくとも役柄として魅力的だったのは、救助活動に参加した看護婦のモニーク(イザベラ・スコルプコ)とシリル(スティーヴ・ルマーカンド)、マルコム(ベン・メンデルスゾーン)のベンチ兄弟、山の上でもアッラーへのお祈りを欠かさないカリーム(アレクサンダー・シディング)くらいのものだった。特にモニークを演じたスコルプコは儲けものの役で、彼女が一番得している。しかしそれ以外では、この映画に出て汚点になりこそすれ、キャリアの上で役に立ったというものはいないだろう。特に悪くない役者なのに、ほとんど常軌を逸して笑いものにすらなりかねないグレンは可哀相だ。
それに、雪山を描いた作品なのに、まるで登場人物が寒そうに見えないのはどういうわけなんだ。遭難して動けなくなっているのに、はあはあ言ってはいても、全然寒そうじゃない。せめて口から白い息くらい吐いてくれ。「タイタニック」で、白い息を吐きながら海の中に沈んでいったディカプリオを見習って欲しい。あの映画の白い息は、全編CGで後から付け足したものである。「バーティカル・リミット」だってここまで金をかけてるんだから、最後にそれくらいの注意を払ってもいいではないか。
監督のマーティン・キャンベルは「ゴールデン・アイ」も「マスク・オブ・ゾロ」も別に悪くなかったのに、ここに来てついに馬脚を現したという感じである。確かに両作品ともアクションを別にすればあとはそれほど大したことはなかったから、予想できたことと言えるかも知れない。スコルプコは「ゴールデン・アイ」にも出演しており、彼女だけはキャンベル絡みでもキャリアを築くことに成功する滅多にない例になりそうだ。
ところで、私がこの映画を見た時、なぜだか劇場がえらく寒く、これは雪山の臨場感を観客に与えようとした配給のソニーと劇場側が共同で画策した陰謀かと思った。もし本当に映画が面白かったらそれでも全然よかったんだけどね。映画を見終わってから、かじかんだ指先をさすりさすり、つまらなかったと愚痴りながら出てくる観客のことも考えて欲しい。