放送局: UPN

プレミア放送日: 9/22/2004 (Wed) 21:00-22:00

製作: スチュー・シーゴール・プロダクションズ、シルヴァー・ピクチャーズTV、ワーナー・ブラザースTV

製作総指揮: ジョエル・シルヴァー、ロブ・トーマス

共同製作総指揮: ジェニファー・グワーツ、ダニエル・ストクディク

クリエイター: ロブ・トマス

監督: マーク・ピツナスキ

撮影: ヴィクター・ハマー

編集: ロバート・フレイジン、ジム・グロス

音楽: ジョシュ・クレイモン

美術: アルフレッド・ソール

出演: クリスティン・ベル (ヴェロニカ・マーズ)、エンリコ・コラントーニ (キース・マーズ)、パーシー・ダッグス (ウォレス・フェネル)、テディ・ダン (ダンカン・ケイン)、ジェイソン・ドーリング (ローガン・エコールズ)、フランシス・キャプラ (ウィーヴィル)


物語: 高校生のヴェロニカは、カリフォルニアの金持ちの子弟ばかりが通う学校の生徒だ。とはいえヴェロニカ自身は金持ちでもなんでもなく、たまたま父キースがその区域のシェリフをしていたに過ぎない。ヴェロニカのボーイ・フレンドのダンカンは、その中でも指折りの金持ちのケイン家の一人息子だったが、ある日、ダンカンの妹が何者かによって殺害されるという事件が起き、さらにキースがダンカンの父を誤認逮捕するに至って、ヴェロニカとダンカンの絆はぷっつりと切れてしまう。それ以来ヴェロニカは、学校で孤立しながらも、シェリフを辞め私立探偵として看板を上げたキースの仕事を手伝い始める‥‥


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今シーズンから始まったネットワーク新番組のことについて話をするつもりなら、まず何はともあれABCの起死回生の一発 (二発) となった、「デスパレイト・ハウスワイヴズ (Desperate Housewives)」と「ロスト (Lost)」について触れないわけにはいかない。この2本は、ABCのみならず、リアリティ・ショウにほとんど頼りきりになっていたネットワークが、よくできたドラマで視聴者を再びTVセットの前に座らせることができるということを改めて証明して見せた。やればできるじゃないか。


この2本に較べれば、視聴率という点ではその足元にも及ばず、だからこそここで誰かが言っておかないとすぐに忘れ去られそうだから慌てて言っておくのだが、あまり話題にはならないのだが、UPNの「ヴェロニカ・マーズ」もなかなか面白い。私だって上記2番組が今シーズンで最も面白く、癖になるということに異論を挟むつもりは毛頭ないが、大した成績は収めていない「ヴェロニカ・マーズ」は、ここでたとえ日本語であろうと、少なくともどこかで誰かが声を上げておかないと、昨年の「カレン・シスコ」同様、番組の質とは無関係にキャンセルされかねないので、ここであえてもう一度言っておく。「ヴェロニカ・マーズ」も悪くない。


「ヴェロニカ・マーズ」は、高校生の身でありながら、父の仕事の片棒を担いで私立探偵まがいの行動をしている女の子を描くドラマである。ヴェロニカの通う高校の生徒は、カリフォルニアでも特に裕福な家の子弟か、あるいはその家で働かせてもらっている労働階級の子弟かのどちらかだ。別に金持ちでもないヴェロニカがそういう学校に通っているわけは、たまたま父がその区域を受け持つシェリフという公務員であったがためである。


そんなヴェロニカのボーイ・フレンドのダンカンは、裕福な家の多いその地域でも、最も金を持っていると目される億万長者の息子だった。毎日が楽しかったヴェロニカの高校生活は、しかしある日、ダンカンのたった一人の妹が何者かによって殺され、しかもヴェロニカの父キースが、ダンカンの父を逮捕したことによって終わりを告げる。さらに悪いことにはそれは誤認逮捕で、後日真犯人が再逮捕されたことにより、ヴェロニカとダンカンとの関係はもはや修復が効かないくらいこじれてしまう。それだけでなく、別に親が金持ちでもないヴェロニカは、ダンカンというコネクションをなくした結果、一気に学校の中で友達がいなくなる負け組へと転落する。


ある日ヴェロニカが目覚めると、母はヴェロニカと父を捨てていなくなっており、父は仕事を辞めて私立探偵業を開業するが、家計は苦しい。もはや学校では誰もヴェロニカに話しかける者はなく、それでも意地を張ってパーティに出張るが、いつの間にやら強い酒を飲まされた挙げ句、正体不明に陥り、翌朝レイプされたことに気づくが、相手の顔すら覚えていないのだった。


とまあ、番組はそういうヴェロニカの活躍というか行動を描くのだが、これがなかなか青春ドラマとしてよくできている。プレミア・エピソードでは、ヴェロニカが、そういう排他的な学校に転校してきていじめられる運の悪いオタク系黒人のウォレスをかばったところから、ラテン系不良のウィーヴィルと対立することになってしまうのだが、ヴェロニカの画策によって、なぜだかウォレスどころかウィーヴィルとも捻った信頼関係を築くまでになるまでを描く。


一方ヴェロニカは、今では元ダンカンの取り巻き一味とは、冷えた、というか、結構敵対関係にある。特にダンカンの親友であるローガンとはそうで、たまたまヴェロニカがローガンに対して行ったおいたがちょっと行き過ぎてしまったために、ローガンは仲間と共にヴェロニカの前に現れ、ヴェロニカの車をぼこぼこにする。ところがその時助っ人にウィーヴィルが現れ、逆にローガンを殴り倒すのだが、不良としては筋金入りのウィーヴィルに対し、ローガンは勝てないまでも、絶対に頭は下げない。つまり、自分がどの階級に属していようが、皆それぞれに思っていることはあるのであり、それぞれに筋を通そうともがいたり、自分なりに突っ張ったりするのだが、その辺の描き方が、実際にああ、オレもこういう時代ってあったなあという感じで、ちょっと胸キュンものなのだ。TV番組を見てこういう印象を持ったのは、たぶん、「アンジェラ 15歳の日々」以来だろう。


一方で、たとえ車社会とはいえども、まったく上流階級には属していないという設定のヴェロニカが自分の車を持っているというのが、いかにもアメリカの番組という感じがする。実際にアメリカでは免許のとれる年齢になると、大都市を除いては、かなりの若者が自分の車を持つようになる。車社会だから、見場にこだわらなければ誰だって結構ツテを辿れば1,000ドルくらいで車を買えたりするし、それくらいの値段なら、はっきり言って日本の高校生だって買えない値段じゃないだろう。ガソリンだって値段は日本の半分以下だ。それに、国土の広いアメリカでは、車は、贅沢品ではない、実際にそれがなくては始まらない生活の必需品だったりするのだ。「8マイル」で、極貧に喘いでいた主人公一家の母を演じていたキム・ベイシンガーが、それでも息子のエミネムに車を与えていたというシーンを思い出す。車なんかよりは、たぶんヴェロニカが持っているカメラの方がよほど値段が高いに違いない。


ちょっと脱線したが、要するに、そういう登場人物たちの描き方がなかなかよいのだ。主人公のヴェロニカは、強がりだが本当は寂しがり屋で、負けず嫌いだが甘えん坊というキャラクターで、いまだにかつてのボーイ・フレンドのダンカンのことを想っている。元々嫌いになって別れたわけでもないから当然だ。できれば元のような関係に戻れればいいと思っているが、それは不可能であることも知っている。そんなこんな鬱屈や諦めや意地を抱えてででき上がったキャラクターは、いかにもアメリカの女流ハード・ボイルド作家の描く女性私立探偵のティーンエイジャー版といった感じの雰囲気を醸し出すことになった。要するに、やせ我慢をして片意地張って生きているのだ。そういう感じが無理なく出ているのがいい。


演じるのはクリスティン・ベルで、もうちょっと歳とれば、キンジー・ミルホーンとかケイ・スカーペッタ等の、アメリカを代表する女性ハード・ボイルドの主人公が無理なくはまりそうだ。ちょっと難を言えば、もうちょっと肉を落としてくれればさらにいいと思う。キャスティングの点ではもう一つ、父のキースを演じるエンリコ・コラントーニは、私の目にはミスキャストに見える。もっとも、これは私がシットコムの「ジャスト・シュート・ミー」の印象を引きずっているせいかもしれない。


「ヴェロニカ・マーズ」は、今秋の新シーズンが始まる前から、質の方はかなりよいできとして結構多くの媒体から誉められていたが、今のところ、さりとて大した成績は上げていない。「ロスト」や「デスパレイト・ハウスワイヴズ」みたいな金をかけた派手な番組と並べると、確かに地味な印象を与えるし、さらに、青春ものとしてよくできているこの番組が、若者番組を取り揃えるWBではなく、「アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル」以外は黒人向け番組とSF番組とプロレス中継でしか知られていないUPNで放送されているという点も、マイナス材料として働いたと思われる。実際の話、普段UPNを見ている視聴者が「ヴェロニカ・マーズ」を見ようという気になるかというと、かなり疑問だ。これがWBで放送されていたら、それだけでもかなり若者視聴者を獲得できていたんじゃないかと思えるのに。うーん、番組編成って本当に難しい。





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Veronica Mars

ヴェロニカ・マーズ   ★★★

 
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