19世紀末、お尋ね者の化け物退治で知られたヴァン・ヘルシング (ヒュー・ジャックマン) は、バチカンの要請により、トランシルヴァニアの山奥にドラキュラ退治に遠征する。そこで確かには自分の出自を知らないヴァン・ヘルシングの、知られざる過去も明らかになるはずだった。トランシルヴァニアに着くや否や、ヴァン・ヘルシングはドラキュラ伯爵 (リチャード・ロクスバーグ) の花嫁たちに襲われている村から、アナ (ケイト・ベッキンセイル) を助け出す。ドラキュラ伯爵は、アナを最新の花嫁にしようとしていたのだ‥‥


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この映画、私は通常通り、TVと劇場でかかる予告編以外の知識はまるでなく見に行った。一応アクション大作っぽく、ヒュー・ジャックマンとケイト・ベッキンセイルという旬の俳優を起用しており、それなりに金のかかったイメージはなかなか期待させてくれる。しかし、ハリウッド大作ではこれまた当然なんだが、公開直前のこれでもかこれでもかという大量のスポット・コマーシャルの投入には辟易して、既にもう、公開前から半分くらいは見てしまったような気分になってしまった。


それで、本当は、今週はユワン・マグレガーとティルダ・スウィントン主演の「ヤング・アダム」を見て、来週「ヴァン・ヘルシング」に行こうと思ってたんだが、既にこの分だと、来週末にはもう「ヴァン・ヘルシング」にうんざりしているのは間違いないという状況になってしまった。それで急遽予定を変更して今週は「ヴァン・ヘルシング」を見に行くことにした。また、今週「ヴァン・ヘルシング」を見ておけば、来週「ヤング・アダム」、再来週「トロイ」と、うまく大作と小品のバランスがとれる。そろそろ夏の大作シーズンにさしかかっており、アクション巨篇が続々と公開され始めているのだが、しかし、やはり、毎週毎週そういう作品ばっかりを見る気になぞ到底なれない。


「ヴァン・ヘルシング」は、ユニバーサルのモンスター映画を最新のCG技術によって再製作したらどうなるかを妄想するファンの夢想を実現してしまった映画である。なんてったって冒頭からオリジナルの「フランケンシュタイン」をそのまま白黒で撮り直したフランケンシュタインが登場する。そしてドラキュラ、ヴァンパイア、狼男の大盤振る舞いで、さらにそれらと対決する正義の味方、そしてラヴ・インテレストまで登場と、とにかく息つく暇もない。


しかも上映が始まってしばらくすると、ヘンなわざとらしいギャグが挟まる。おかしい、これってシリアスなヒーローのモンスター退治ものじゃなかったのか。これじゃ「ハムナプトラ」になってしまうぞと思っていたら、上映後のクレジット・ロールで、実際に「ヴァン・ヘルシング」が「ハムナプトラ」のスティーヴン・ソマーズ作品であったことを知った。なんだ、最初からこの路線を狙っていたのか。「ヴァン・ヘルシング」は通常のハリウッド作品とは異なり、上映後にまとめてクレジットが出るので、映画が終わるまで製作陣が誰かについてはまったくわからなかったのだ。


しかし、「ヴァン・ヘルシング」は、まあ、主演のヒュー・ジャックマンはミュージカルもできるわけだし、それなりにコメディもやれそうだが、それでも「ハムナプトラ」のブレンダン・フレイザーと較べると二枚目過ぎる。それに、特にヒロインに扮するケイト・ベッキンセイルが、レイチェル・ワイズのコケティッシュさと較べると、あまりにも正統的な美人過ぎる。ベッキンセイルは、「アンダーワールド」でのブラック・コスチュームが様になっていたからその辺を買われたのだろうが、ベッキンセイルではほとんど笑いがとれないために、全体として「ヴァン・ヘルシング」の印象は、忘れた頃に笑いが挟まる、くらいのものでしかなく、「ハムナプトラ」ほどの笑いと冒険のミックスを期待すると肩透かしを食う。しかもベッキンセイル、なんか老けたぞ。ちょっとあまりにも、ドラキュラの花嫁同様の厚化粧過ぎやしないか。


今回、ちょっと笑いがおろそかになっている展開は、あまりにも詰めすぎの内容にも因ろう。主人公はモンスター退治に忙しく、いちいち笑いをとっている暇がない。そのため今回は、笑いはヴァン・ヘルシングの従者であるカール (デイヴィッド・ウェンハム) が一人で請け負っているのだが、さすがにこれは荷が重いだろう。カールはヴァン・ヘルシングのために武器を開発しており、存在としては「007」のQを意識している。また、敵のドラキュラ伯爵側では、家来のイゴール (ケヴィン・オコーナー) がコミック・リリーフの役を受け持たせられているのだが、こちらに至ってはほとんど機能していない。


しかしそういうことよりも、「ヴァン・ヘルシング」で最大のウィーク・ポイントは、「ハムナプトラ」シリーズを事実上支えていた骸骨軍団のような、縁の下の力持ち的な悪役がいないことにある。存在自体が怖さとおかしさをミックスしていた骸骨軍団は、笑いもとれ、アクションもこなせる頼りがいのある存在だったが、ここでの悪役であるドラキュラ伯爵は、もっぱらシリアス一辺倒だ。もちろん悪の首領がシリアスであるのはいっこうに構わないのだが、コメディ・タッチを狙っているのに笑いを担当する者がいないのは少々つらい。


そしてまた、実はこちらの方が問題としては大きいと思えるが、冒険アクションとして見た場合でも、「ヴァン・ヘルシング」はイマイチである。CGに頼りすぎるし、しかもそれが、どこかで見たような気がするようなのが多い。冒頭のジキル&ハイドは、明らかに「ハルク」「リーグ・オブ・レジェンド」の焼き直しに過ぎないし、しかも、作品としては散々に貶された「リーグ・オブ・レジェンド」のハイドの方がよかったような気がする。


ヴァン・ヘルシングが山道を馬車に乗って走っている途中で狼男に襲われるシーンなんかも、ここまでCGが進化しているのに、なぜだか本当のエキサイトメントが欠けている。それなりにスピード感はあるのだが、ヴァン・ヘルシングが客車から馬の間に落とされるシーンでは、なんだかコマ落としみたいになってしまい、なんか、リズムに乗れない。昔から馬上でのアクションというものは定番で、そこをうまく撮れるか撮れないかはアクション演出家としての試金石みたいなものなのに、ソマーズは残念ながらそこで失敗している。「ハムナプトラ」はまぐれ当たりだったのか。


結局今回は、ソマーズはギャグも挟み込む冒険活劇というよりは、どちらかというと主人公のヒーローとしての魅力を中心としたアクションとして注力したように見える。実際、ヒュー・ジャックマン演じるヴァン・ヘルシングは、かなりヒーローとして絵になっている。また、かっきりとハッピー・エンドで幕を閉じた「ハムナプトラ」よりも、かすかにアンハッピー・エンド的な余韻を残して終わった構成からもその姿勢は窺える。しかし、それならば中途半端なギャグは控え、その路線で押し進めていけばよかったんじゃないかというのが正直な感想だ。「ヴァン・ヘルシング」が作り方として最も参考になったのは、自身の「ハムナプトラ」ではなく、実は、それこそ「007」シリーズの方だったんじゃないかという気がする。






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Van Helsing   ヴァン・ヘルシング  (2004年5月)

 
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