Unstoppable


アンストッパブル  (2010年11月)

ペンシルヴァニアの貨物列車操車場で、不用意な行動ミスから地上に降りた機関士が運転席に戻らないまま、無人の貨物列車が線路の上を走り出してしまう。有害な化学物質を積んだ車両が連結されていたその列車は、運転する者もいないままスピードを上げる。その先には、人口が密集している都市部があり、そしてスピードを落とさないと絶対に曲がれない急カーヴがあった。一方、やがて退職を迎えるヴェテラン機関士のフランク (デンゼル・ワシントン) は、この日仕事を始めたばかりの新人機関士のウィル (クリス・パイン) と一緒に、勤務についていた。無人暴走列車との正面衝突をあわやで逃れたフランクとウィルは、無人で暴走する列車を止めるべく、猛追する‥‥


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「クリムゾン・タイド (Crimson Tide)」、「マイ・ボディガード (Man of Fire)」、「デジャ・ヴ (Deja Vu)」「サブウェイ1, 2, 3 (The Taking of Pelham 1, 2, 3)」、そしてこの「アンストッパブル (Unstoppable)」と、5作目のタッグとなるリドリー・スコット演出、デンゼル・ワシントン主演作品。特に最近は二人が組む頻度が高く、「マイ・ボディガード」から「アンストッパブル」までこの6年で4作一緒に仕事をしている。特にスコットにとってワシントンは必要な俳優であるようだ。


とはいってもここまで、二人の仕事が特によかったかというと、私の印象では最もよかったのはかなり昔の「クリムゾン・タイド」で、最近のは特に印象に残っているわけではない。特に前回は、クラシック・アクションの「サブウェイ・パニック(The Taking of Pelham 1, 2, 3)」のリメイクを外してしまったという印象の方が強かった。リメイクなのにというかリメイクだからというか、オリジナルの味を消してアクション一辺倒に走った結果、結局オリジナルには届かなかったという印象を与えてしまったのはいかんともし難い。


列車ものというのは100年以上も前のジョルジュ・メリエスの「列車の到着」以来、映画ファンに興奮をもたらしてきた、アクションを代表するとも言えるジャンルだ。走る列車をエキサイティングに撮れるかどうかというのは、ほとんど映画作家の踏み絵というか、資質をもろに露呈する。列車を撮って失敗するというのは、アクションを専門とする映画作家のキャリアとしてはほとんど致命的と言える。私がもしプロデューサーなら、列車を撮れない映画監督には仕事を頼まないだろう。


その列車を撮って失敗してしまったスコットが、しかも同じ役者を起用して再び列車を撮る。たぶん前回失敗してしまったことがよほど自分でも腹に据えかねたというか、こんなはずではなかったという思いがあったのだろう。あるいは遅ればせながら、「サブウェイ 1, 2, 3」を撮りながらやっと列車の撮り方に目覚めたというか、どう撮るかについてアイディアが膨らんだ、そんなところじゃないかと思う。


そして前回の反省からか、今回は徹底して列車を走らせる。スターを格好よく見せるために列車を走らせるのではなく、列車をエキサイティングに見せるためにスターが貢献する。「サブウェイ 1, 2, 3」での経験はちゃんと生きていたようだ。問題の暴走する列車は、映画が始まって比較的すぐに走り出す。やろうと思えば思い切り前振りを長くすることも可能だったろう。「タイタニック (Titanic)」ではタイタニックが氷山に衝突するまで1時間かかったのだ。しかしここではすぐに事件が起き、本題になった結果、90分で事件は集結する。この潔さも「サブウェイ 1, 2, 3」では見られなかったものだ。快調快調。


実際、「アンストッパブル」は最初から最後まで暴走する列車に焦点を絞った結果、かなりエキサイトメントが持続する作品になっている。最近、最初から最後までこういう風に手に汗握らせ続けるという作品はなかった。「サブウェイ 1, 2, 3」ではワシントンだけでなくジョン・トラヴォルタ共演という2大スターの顔合わせだったため、最後には二人の対決という見せ場を持ってこないわけにも行かず、結局それがとってつけたような感じになって、作品を破綻させこそすれ締めきれなかった。


それが今回は、クリス・パインという上り調子の若手こそいるが、本当の大物スターはワシントン一人。パインがワシントンの胸を借りるという構図で最後まで引っ張っていけ、気兼ねする必要もない。結果として二人とも充分の見せ場がある。


一方、完全な捨てエピソードであり、思わせぶりに描いておきながらいつの間にか用なしになった子供たちの乗る車両や、それまではミスり続けていたくせに、最後、ちょっとタイミングよく現れ過ぎたピックアップ・トラックの運ちゃん等、まだ作品を引き締められるポイントはままあったと思うし、スコットの演出が本当に隙がなかったかというと、それも100%確信を持ってうんとは言えない。特にコマ落としをしたがる癖は直して欲しい。あれはミュージック・ヴィデオでもない限り、逆にチープにしか見えない。


とはいえ最近、ここまでアドレナリン分泌しまくりという作品はなかったことも確かだ。やはり列車、特に暴走する列車は絵になる。鉄の塊がすっ飛んでいくのだ。マンガの「イニシャルD」で、登場人物の一人が、ブレーキの利かなくなった車は重さ1トンの鉄の塊だと叫んでいたシーンがあったが、十何両も連結した列車は、重さ100トンの鉄の塊の上に、有害化学物質つきだ。速さと重さ、それが撮れるなら作品が面白くならないわけがない。








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