放送局: FOX

プレミア放送日: 3/2/2008 (Sun) 21:30-22:00 (実際にはNFL中継延長のため22:00-22:30)

製作: ワトソン・ポンド・プロダクションズ、コナンドラム、20世紀FOX TV

製作総指揮: ピーター・ファレリー、ボビー・ファレリー、ブラッドリー・トーマス、ブラッド・ジョンソン

監督: ピーター・ファレリー、ボビー・ファレリー

脚本: マイク・バニア、クリス・パパス、ケヴィン・バーネット

美術: アリアン・ヴェター

出演: クレイグ・ビャーコ (ジャック・「ゲイター」・ゲイトリー)、ラシダ・ジョーンズ (ケイト)、ショーン・マジュンダー (フレディ・サガル)、ジョニー・スニード (トミー)、ジョニー・ノックスヴィル (チャック)


物語: ボストンに住むゲイターは何の因果か30も過ぎてから離婚してシングルになってしまう。彼の親友のビール・ブリュウアリー経営のトミーは既に3度離婚の経験があり、一方の医者のフレディは今度はまったく女性に縁がない。そしてトミーとゲイターの離婚の世話を焼いた仲間うちの紅一点の弁護士のケイトも、ついにシングルのまま30代に突入する。4人の30代シングル男女は、それぞれの思惑を胸に秘めながら、今日も新しい相手探しに余念がないのだった‥‥


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ここ数年のアメリカのネットワークTVのコメディ日照りは目も当てられないくらいで、数年前にNBCの「フレンズ」、「フレイジャー」、「ウィル&グレイス」、そしてCBSの「Hey! レイモンド (Everybody Loves Raymond)」という人気シットコムが相次いで最終回を迎えてからというものの、これといった人気シットコム/コメディは出現していない。現在最も視聴率を稼ぐシットコムがCBSの「トゥ・アンド・ア・ハーフ・メン」ということを聞くと、思わず嘘でしょうと言いたくなる。


特にステュディオに客を入れて公開しながら収録する、観客の笑い声 (ラフ・トラック) が入る従来型のシットコムの場合、その凋落振りは著しく、現在、依然としてこのジャンルに力を入れているのは、視聴者の平均年齢の高いCBSくらいだ。あとは旧態依然の黒人向けシットコムのあるCWにいくつかその残滓が残っているのと、ABCとFOXにいくつか散見されるくらいで、かつてこのジャンルに君臨していたNBCが、現在では一本もシットコムを編成していない。


それでどうなったかというと、30分コメディ枠は現在でもあることはあるが、ラフ・トラック入りマルチ・カメラ使用によるステュディオ撮影のシットコムではなく、シングル・カメラ撮影の、一発ギャグかまし型ではなくドラマ然とした、ストーリー重視のコメディが現在の主流だ。とにかくシットコムは若い視聴者層にとって古いと思われているようで、まったく人気がない。私も昔はいい加減うざったく、笑いを強制されているようなラフ・トラックがあまり好きではなかったのだが、なければないで寂しいような気もするのは視聴者の傲慢というものか。


今回FOXが投入した新コメディの「アンヒッチト」も、ラフ・トラックなしの、いわゆるシットコムではなくコメディだ。この番組が、たとえ数が少なくなったとはいえいまだに製作され続けてはいる30分コメディの中で特に私の興味を惹いたのは、これが「メリーに首ったけ (There’s Something about Mary)」や「ふたりの男とひとりの女 (Me, Myself & Irene)」等のお下劣系コメディで知られる、ファレリー兄弟が製作総指揮を務める番組だったからだ。


元々FOXとお下劣系コメディは切っても切れない関係がある。そもそものFOX黎明期の90年代初期にその屋台骨を支えていたのは、「コップス (Cops)」、「アメリカズ・モスト・ウォンテッド (America’s Most Wanted)」というリアリティ・ショウ、超常ドラマの「ジ・X-ファイルズ」とプライムタイム・ソープの「90210」という2本のドラマ、アニメーションの「ザ・シンプソンズ」、そしてお下劣シットコムとして、PTAの眉をひそめさせながらも長らく人気を誇った「メアリード・ウィズ・チルドレン (Married with Children)」等の番組群だった。


特に「メアリード‥‥」は、古参ネットワークのABC、CBS、NBCがでは到底放送しようとは考えないだろうと思えるセックス・ジョーク満載で、良識ある民間人から常に目の敵にされていたという印象がある。これが例えば似たような番組をネットワークが製作するとなると、NBCでは「フレイジャー」のような、むしろ想像力に訴えかけるようなテイストになり、あるいはCBSの「Hey! レイモンド」のような、家族で見て笑える健全な? セックス・ジョークを振りまく番組となる。その点、「メアリード‥‥」のいかにも下半身ネタという下卑た笑いは、良識人の眉をひそめさせるのに充分であった。


しかしアメリカのごく一般的な中流家庭においては、そういう下ネタこそが最も卑近で受けるジョークとして浸透している。結局、下ネタが最も受けやすいというのは洋の東西を問わないのだ。ファレリー兄弟の製作する、そういう下ネタ満載のコメディ群の数々の世界中におけるヒットは、そのことを如実に証明している。そのファレリー兄弟が製作するコメディを、ネットワークではFOXが放送するのはいかにも当然だ。これがもしケーブル・チャンネルで企画されていたら、コメディ・セントラルとか、あるいはペイTVのHBOやショウタイムという線もあったろうが、ネットワークではFOX以外、ファレリー兄弟製作のコメディを放送しようと考えるところはまずないだろう。


その新番組「アンヒッチト」は、ボストンに住む30代の決まった恋人のいない3人の男と一人の女性が主要登場人物だ。離婚したからとか元々恋人に恵まれなかったとか理由は異なれども、20代とは異なり、30代ともなると新しい恋人を探すのは難しい。だいたい主だった者は既に予約済みか売れた後だし、あるいはシングルでも恋愛や結婚に興味がない仕事が忙しいキャリア組で、恋愛にかまけている暇なしと相場が決まっている。後に残っているのは誰も手をつけない残りものか、バツ一、バツ二、あるいは登場人物の一人トミーのように、それこそバツ3というつわものだったりする。番組はそういう状況下で4人が新しい恋人探しに四苦八苦する様をとらえる。


番組第1回ではいきなり主人公のゲイターがある女性といい仲になり、彼女のアパートにお邪魔するが、その女性はボルネオ出身で部屋をまるで熱帯のように飾りつけ、ペットはチンパンジーだ。雰囲気を盛り上げるためにヴィデオ見る? と訊いて再生したのはチンパンジーが交合しているヴィデオで、それを見て自分もうきーと悲鳴のような声を上げて気分を盛り上げる。まあいいかと彼女に調子を合わせて挑みかかるゲイターと彼女のくんずほぐれつを見て劣情を催したペットのチンパンジーは、いきなりゲイターのケツめがけて襲いかかるという、いかにもファレリー兄弟らしいオープニングだ。これまでがマクラで、まだ番組のオープニングのタイトル・クレジットにすら到達していない。これを見てかなり憂鬱になるに違いないPTAの面々の顔がまざまざと思い浮かぶ。むろんファレリー兄弟らしい番組を期待する一般視聴者にとっては、期待を裏切らない出だしといってもいいだろう。


しかしこれぞいかにもファレリー兄弟という真価が現れるのは、番組第2回だ。この回でゲイターが知り合うのは、美人だが背中にほとんどピーナツくらいの大きさのイボのようなものがあるという女性で、その特大のイボがいきなり背中から垂れ下がるようにくっついている。正直言って気味悪く、むろんだからこそその女性も美形のわりにはそれまで恋人がいなかったのだろう。いずれにしてもこれは誰だって気になる。むろんゲイターだってそうだが、だからといって、では、あんたの背中からぶら下がっている大きなイボのようなものはなんですかと正面切って訊けるわけがない。それでゲイターはなんとかそれをとり除けないものかと色々と画策するという展開だ。この、生理的にうげーっと思わせるテイストが、いかにもファレリー兄弟だと思わせる。こんなので話作るか、普通。


主人公のゲイターに扮するのがクレイグ・ビャーコ (「シンデレラ・マン」)、紅一点のケイトに扮するのがラシダ・ジョーンズ (「ボストン・パブリック」) で、その他、トミーにジョニー・スニード (「ザ・ハートブレイク・キッド」)、フレディにショーン・マジュンダー (「レディース・マン」) という布陣。ビャーコは、私はほとんど初めて見る顔だと思っていたのだが、「シンデレラ・マン」で、主演のラッセル・クロウとバウトした白人ボクサーを演じていたそうだ。とは言われても、実はほとんど顔を覚えていない。


しかし彼は現在コメディアンとしてブレイク中で、公開中の「スーパーヒーロー・ムーヴィ (Superhero Movie)」にウルヴァリン役で出ている他、自身のオンライン・シリーズ「ベイジング・ウィズ・ビャーコ (Bathing with Bierco)」では、なぜだかジョン・マルコヴィッチと二人で裸になって一緒に浴槽に入り、おしゃべりしながらビャーコがマルコヴィッチの禿げ頭を洗ってやっているというヴィデオが話題となって、いきなり注目を浴びている。ファレリー兄弟だけでなく、あんたもいったいぜんたいなんなんだ、それは。








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Unhitched


アンヒッチト   ★★1/2

 
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