「アンダー・ザ・ドーム」は、スティーヴン・キング原作のホラーの映像化だ。キングのホラーは、ホラーというジャンルの特質上、特に理由も科学的な裏付けもな く人々が恐怖に晒されるという展開が多い。そこをキング特有の徹底した書き込みによって恐怖感と説得力を増す。むろん「アンダー・ザ・ドーム」も同様に展 開する。
ある日ある時、忽然と現れた (というのはあくまでも便法で、それが目に見えるわけではない) 不可視のドームが、ある町を完全に外界から遮断する。その時内部にいた者はドームの中から外に出ることはかなわなくなり、そして外界からもドームの中に入ってくることはできなかった‥‥
常識で考えて、この設定は常軌を逸している。というコメントが常識とは無縁の場所で展開するホラーとは相入れないことを考えても、やはりこの場合、常識ではそれはないだろうと言うしかない。とにかく奇想天外な舞台設定なのだ。これに較べれば、死人が生き返るゾンビ・ホラーなんて可愛いもんだ。
とある場所で他の場所と連絡がとれず、隔離された状況で次々と人が殺されていくというのは、ホラーや本格ミステリではお馴染みのお膳立てだ。台風や津波竜巻 ハリケーンで町が孤立するというのもある。しかし、町全体が目に見えないドームに覆われてしまうなんて奇抜な設定を、よく考えるよなと思う。いや、思いつくくらいならそういう設定を思いつく者はいるかもしれないが、それに血肉をつけて説得力のある物語にしているのは、さすがにキングならではと思う。番組第 一回の最後では、町は、登場人物はこれからどうなるのかと、次がとても気になるのだ。
登場人物で主人公格のバービーは、プレミア・エピソードの冒頭で死んだ人物を埋めている。その男ピーターは、町のジャーナリスト、ジュリア (レイチェル・ルファーヴル) の夫で医者なのだが、後ろ暗いことをしていて追われる身だったことが後で知れる。どうやらバービーは、元軍人というキャリアを利用して、取り立て屋のような仕事をしているらしい。
町を事実上仕切っている町長? のビッグ・ジム (ディーン・ノリス) は、一見頼り甲斐のある人間のように見えるが、かなり裏表のある男で、どうやら敵も多いらしいことがだんだんわかってくる。牧師のコギンズ (ネッド・ベラミー) 共々、町のある秘密を共有している。
ビッグ・ジムの息子ジュニア (アレクサンダー・コッチ) は、幼馴染みのアンジー (ブリット・ロバートソン) に首ったけだが、アンジーの方ではまったくそう思っていない。思い余ったジュニアは、アンジーを自宅裏の壕の中に鎖に繋いで監禁する。そこからはどんなに大声を上げようとも、声は外に届かなかった。
アンジーの弟ジョー (コリン・フォード) は、たまたま町を通過中の旅行者で、ドームに囚われて身動きのとれなくなったノリー (マッケンジー・リンツ)、アリス (サマンサ・マシス)、キャロリン (アイシャ・ハインズ) の一行に出会う。同じ年頃のジョーとノリーはすぐに親しくなり行動を共にする。しかも二人が揃ってドームに近づくと、それがドームになんらかの影響を与えることを発見する。
その他、ピーターの失踪劇に一役買っていると思われる町のラジオ放送局のDJフィル (ニコラス・ストロング)、彼の同僚のドディ (ジョリーン・パーディ)、他にも大なり小なり様々な役を振られた有象無象の者共が入り乱れて、閉じられた社会でそれぞれが腹に一物を抱えながら、思惑を、行動を交錯させる。
基本的に「アンダー・ザ・ドーム」の場合、何人ものライターが知恵を絞り合う一般的なTVドラマではなく、おおよその登場人物や舞台設定はキングが一人で考えているはずで、こういうものをひねり出してくる発想や物語を紡ぐ力というのは、さすがと脱帽する。たぶん、一つの町が孤立状態になる、なんて設定は、それだけを見ればホラーやSFでこれまでにも星の数ほど描かれているに違いないが、それが町全体がドームに覆われてしまうというあまりにも突飛な設定、そしてその設定を無理なく受け入れさせてしまう描写力が、「アンダー・ザ・ドーム」を他の凡百の作品とは異なったものにしている。
キングは特に、こういう閉ざされた社会の中での人間関係の変化にとても興味を持っていると言っていたのをどこかで読んだ記憶があるが、実際、話はドームの出 現によって町の人々の力関係が変化していくのをまざまざと描き出す。ドームが、それまで隠されていた人々の欲望や本質を浮かび上がらせるのだ。
出演陣は多かれ少なかれ皆どこかで見ている者たちばかりだが、個人的に特に印象に残ったのが、ノリス、ルファーヴル、ロバートソン、そして話の中盤から絡んでくるオリーを演じるレオン・リッピーの4人。ノリスは現在出演中のAMCの「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」の最終シーズンがついに始まる。そこではブライアン・クランストン演じるウォルトにいいように騙されるDEAエージェントだったのに、ここでは口八丁手八丁の曲者だ。
ルファーヴルは昨年、ABCの僻地医療ドラマ「オフ・ザ・マップ (Off the Map)」に出ていた記憶も新しく、先頃公開された「ホワイト・ハウス・ダウン (White House Down)」でも主人公の別居中の妻を演じていたのを見たばかり。ロバートソンは一昨年のシーズンにCWの「ライフ・アンエクスペクティド (Life Unexpected)」で生みの親を探すロウ・ティーンを演じていたと思ったら、昨シーズンはCWの「ザ・シークレット・サークル (The Secret Circle)」で魔女の一族の末裔になり、今回はシリーズのそもそもの発端が彼女のベッド・シーンから始まるなど、あっという間に成長した。
そしてならず者オリーを演じているのは、TNTの「セイヴィング・グレイス (Saving Grace)」で、天使アールを演じていたリッピーだ。天使と悪党とはいえ、両方共やさぐれてはいるのだが。なんつーか、この番組に出ている男性は、主人公格のマイク・ヴォーゲル演じるバービーを含め、みんな裏表のある食えないやつばかりだ。唯一まともっぽいのは、コリン・フォード演じるアンジーの弟ジョーくらいだが、それもいつまで持つやら。
ところで「アンダー・ザ・ドーム」は、一回こっきりのミニシリーズだとばかり思っていたら、CBSはこのほど番組の第2シー ズンの製作を発表した。今回の放送の終わりにはドーム出現の謎が解明され、すべてが一件落着するもんだとばかり思っていたが、そうでもないのか。それとも、ドームの中で人々は生き続けるのか、あるいは別の場所に新しいドームができ、新しいメンツで新章が始まるのか。個人的には、この設定でシーズン2というのはさすがに難しんじゃないかという気がしないでもない。それともキングのことだ、さらにまた新しい意外な捻りを加えて、視聴者を再度あっと言わせてくれるか。