なんてったって今年の全米は思い入れが違う。私が普段からプレイしているニューヨーク、ロング・アイランドのベスペイジ・ステイト・パークのブラック・コースがその舞台なのだ。ベスペイジは正真正銘のパブリックのゴルフ・コースであり、これまでパブリックのコースで全米が開かれたというのは例がない。ペブル・ビーチだって半分はパブリックには違いないが、一般のゴルファーがプレイするのに300ドルもかかり、パワー・カートに乗るのを義務づけられるリゾート・コースだ。しかしベスペイジのブラック・コースはプレイするのに36ドルしかかからない上に、パワー・カートの使用は認められていない。もちろんキャディなんかいないから、ここでプレイするゴルファーは皆、各自プル・カートを引っ張るか、バッグをかついでコースを回る。それがいかにも庶民の、本当にゴルフ好きのためのゴルフ・コースという印象を形作っている。


ベスペイジにはグリーン、ブラック、レッド、ブルー、イエローの5つのゴルフ・コースがある。その中でもブラック・コースは最も難しく、1番ホールのティ・エリアに「超難コース。上級ゴルファーのみ挑戦すること」という脅し書き? が掲げられている。最初これを見た時は結構びびったものだ。しかし、それでも人気は高く、ここでプレイしたいゴルファーは山のようにおり、滅多なことでは予約はとれない。それで駐車場で夜を明かして、なんとか空いてるところにもぐり込もうとするゴルファーも多い。私は自分の腕のレヴェルと、他のコースの方がプレイできるチャンスが高いということもあり、普通はブラック以外の他の4コースでプレイすることの方が多い。ブラックの次に人気のあるのが距離のあるレッドで、要するに、やはりゴルフってのは難しければ難しいほど人々の意欲をかき立てるのだ。


ブラックは全米オープンだからというわけではなく、普段からラフが深い。ブラックでプレイするゴルファー内でよく話されるジョークに、背が高くないゴルファーがラフに打ち込んだボールを探そうとラフに入っていったまま行方不明になった、というものがある。このジョーク、少なくとも3回は違う人間から聞いた。まあ、誇張ではあるが、しかし確かにこういうジョークがまかり通るほどラフは深い。私がブラックでプレイした時、ただラフにボールを打ち込んだだけで、いったい何個ボールをなくしたことか。フェアウェイから数ヤード逸れただけだというのに、ラフが深すぎてボールを探せないのだ。1ダースボールを持っていったのに、もしかしたらボールがなくなって途中でリタイアなんてことにならないか、本当に心配した。ロスト・ボールでペナルティがかさんだため、バック・ナインの半分ほどで既にスコアが100を超えたために、途中で数えるのを諦めたくらいだ。これはもちろん私だけではなく、ほとんどのゴルファーがそうであるので、プレイしている時間よりラフでボールを探している時間の方が多いということになりかねない。それでプレイに時間がかかるため、早朝にプレイしない限りブラックを1ラウンドするのに5時間半以内で終わることはまずあり得ない。


地元での開催というわけで、本当は現地で生で見るのが最も臨場感があっていいというのはわかっているが、既に半年以上も前にチケットは売り切れであり、私がチケットを手に入れる術はなかった。それでも、私が本当に見たいのはタイガー・ウッズただ一人であるので、チケットが手に入らなかったからといって、あまり残念には思っていない。他のほとんどのギャラリーもウッズを見たいと思っているのは確実であり、たとえ現地に行っても人々の頭越しにウッズの上半身だけをなんとか見れるのが関の山だ。私は混雑というのが本当に大っ嫌いで、自分の思うように見たいものが見れない、動きたいように動けないなら、行く意味があるか本当に考えてしまう。生の臨場感というのは確かにそそるが、しかし、まあ、今回はTV観戦で我慢しよう。


さて、前置きが長くなったがそのベスペイジ・ブラックでの全米である。しかもTVで見ると、私がプレイした時よりもフェアウェイの幅が狭くなっている。いずれにしても、TVに映るゴルファーがプレイするホールを知っているというだけで、のめり込み具合が違う。例えば全米の歴史でもっとも長い499ヤードの12番パー4なんか、私はフロント・ティからティ・オフしているから450ヤードくらいでプレイしているのだが、それでもドライヴァー、3ウッドでもグリーンに届かなかったことを思い出す。それをウッズがそれよりも50ヤードも長い距離をドライヴァー、6アイアンでグリーンに乗せるのを見ると、ウッズのすごさが実感できる。あそこで左の林越えを狙うのか。4番パー5の第2打は、目の前に巨大なバンカーが壁を作っているという印象の中を打つのだが、TVで見ると、また違う趣がある。5番パー4、7番パー5 (全米ではパー4だ) は、ティから200ヤード先までバンカーが達しており、最初は見ただけで圧倒されて手が縮こまったものだ。しかし、10番パー4で、プロでもがティ・ショットをフェアウェイに届かせきれないのを見ると、ああ、よかった、私だけではないんだとほっとする。いや、今回の全米は本当に勉強になる。


しかし今週のニューヨークは天候に恵まれず、木、金と摂氏10-15度くらいとこの時期にしては異様に寒い上に、雨に祟られる。しとしとといった感じの雨なので順延にはならず、プレイは強行されたのだが、おかげでラフはよけいに重くなり、ただでさえ難しいコースがさらに難しくなった。その中でアンダー・パーでプレイを続けるウッズが初日から順当に首位に立ち、2日目、3日目と徐々に集団に差をつける。3日目終了時点で5アンダー、1アンダーで2位のセルジオ・ガルシアに4打差をつけた時点で、ほぼ優勝を確信した。3日目終了時点でウッズが首位か首位タイにいる場合、優勝確率は90%を超えるのだ。


しかし最終日、1番パー4、2番パー4と連続してボギーとなってスコアを二つ落とした時は、はっきり言ってこれはやばいかもと思ってしまった。その後立て直したが、一時は追い上げるフィル・ミッケルソンと2打差まで縮まった。しかしミッケルソンはその後いつものようにボギー、バーディを繰り返すゴルフでスコアを伸ばすことができず、結局最終的にはこの日イーヴン・パー70の通算イーヴンでホール・アウトした。ウッズは最後の最後でまた少しもたついたが、貯金が利いて、この日2オーヴァー72ながらも通算3アンダーで一昨年のペブル・ビーチに続き、2回目の全米を制した。2位がミッケルソン、3位が通算2オーヴァーのジェフ・マガート、4位に3オーヴァーのガルシアが入った。また、5オーヴァーで5位タイに、本当なら参加資格を持っていなかったが、特別推薦により出場したニック・ファルドが入った。


しかし、それにしてもニューヨークのギャラリーの応援の加熱ぶりは、TVで見ていてもすごかった。PGAツアーでは例年、フェニックス・オープンが開かれるアリゾナのTPCスコッツデイルの16番パー3の絶叫ホールが超うるさいので有名だが、今回は特に3日目、追うミッケルソンが17番パー3でバーディを奪った時点でのギャラリーの沸き方は、まるでベイスボールかバスケットボールの応援を見ているようだった。ミッケルソンの方が驚いて笑っていたが、バーディかボギーかの彼のアグレッシヴなプレイ・スタイルは、ニューヨークのゴルフ・ファンと相性がいいのは確かだろう。しかし、短気なニューヨーカーにとって、ワッグルに永遠とも思えるような時間のかかるガルシアが嫌われるのはほとんど当然で、結構ヤジを浴びていた上に、ワッグル・ボーイという有り難くないあだ名を頂戴していた。


ところで最終日、ウッズが11番パー4をホール・アウトした時点で雷雨のためプレイは中断されたのだが、そこから車で30分のところに住んでいる私のところでは、いきなり雨雲が広がりだしたりはしたが、それでも雨は一滴も降らなかった。しかしベスペイジでは結構な豪雨で、感覚的にはものすごく近いのに、この違いに驚いた。ま、そういうこともあるか。







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102回全米オープン

2002年6月13-16日   ★★★1/2

ニューヨーク州ファーミングデイル、ベスペイジ・ステート・パーク、ブラック・コース

 
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