タイガー・ウッズ圧倒的有利との予想で始まった第101回全米オープンであるが、そのウッズの調子があまりよくなく、初日のフロント9を終わった時点でなんと3オーヴァー。特に9番パー4は完璧なドライヴを打ちながら第2打を木の枝に当ててバンカー入りさせてしまい、そこからのアップ&ダウンに失敗してのダブル・ボギーという、およそウッズらしからぬ内容。その時点で雷雨で翌日順延になったのは、彼のためにはよかっただろう。


しかし翌日のバック9でも調子は戻らず、さらにスコアを落として、結局第1ラウンドは4オーヴァー74。どうしたウッズ。午後の第2ラウンドもアンダー・パーでは回れず、今度は1オーヴァー71。結局通算5オーヴァーで、なんとか足切りぎりぎりで滑り込み決勝ラウンド進出。冷や冷やさせてくれる。


ここまででトーナメントを面白くしているのは、やはり誰あろうフィル・ミッケルソン。彼はグリーン周りからの30ヤードのチップ・イン・バーディを見せたかと思えばボギーを叩き、その次のホールのパー3ではなんとホール・イン・ワンをしてみせるという、今年のミッケルソンを象徴する、出入りの激しいギャラリーを沸かせるゴルフで、本当に忙しい奴だ。


結局、3日目終了時点で首位はスチュワート・シンクと南アフリカのレティーフ・グーセンの5アンダー。1打差でマーク・ブルックス、ロッコ・メディエイト、セルジオ・ガルシアの3人が並び、さらに1打差でミッケルソン。優勝が狙えるのは、せいぜいイーヴン・パーのデイヴィッド・デュヴォールとポール・エイジンガーまでだろう。奇跡が起こらない限り、3日目やっとアンダー・パーの69で回り、通算4オーヴァーのウッズが優勝する見込みは流石に今回はないだろう。100回を数えるこれまでの全米オープンの歴史で、9打差を最終日にひっくり返した例はない。


最終日は、上位陣が全員我慢のゴルフ。ウッズがスペクタクルなゴルフを見せる時は興奮させてくれるが、全員がプレッシャーと戦いながら孤独な戦いを続けるこういう展開も、手に汗を握って緊張する。もちろんどちらもゴルフの醍醐味だ。勝負はいかにも全米オープンらしい接戦となったが、それでもバック9に入り、緊張の糸が切れた者から後退しだす。ミッケルソンの、ガルシアの、メディエイトのパットが入らなくなり、ずるずるとスコアを落としていく。その中でこらえたのがグーセン、シンク、ブルックスの3人。最後の最後になって、勝負は完全にこの3人に絞られる。


しかし首位タイの5アンダーで迎えた18番パー4で、ブルックスは8フィートのパー・パットがホール横ハーフ・インチで止まり、痛恨のボギーで4アンダーでレギュレイションを終える。シンクは17番でバーディを奪い、グーセンと共に5アンダーで18番を迎える。しかしシンクは第2打を引っかけてしまい、グリーンをオーヴァーして深いラフの中に。一方のグーセンは完璧なフェイド・ボールで、ピン奥8フィートにつける。シンクの第3打はホールまで15フィートを残し、先にパット。これがホールの上側をかすめて2フィートオーヴァーしてしまう。これでグーセンは8フィートから2パットで勝ちだ。落胆したシンクは、なんとその返しの2フィートのボギー・パットをプッシュして外してしまい、ダブル・ボギーで結局3アンダーでレギュレイションを終える。17番のバーディで首位タイに並んだ天国から、たった15分で地獄に堕ちた。


さて、2パットで優勝のグーセンは、これまで何度もクラッチ・パットを決めており、できればバーディで有終の美を飾りたいところ。というはやった気持ちがあったからか、バーディ・パットはかすりもせずに2フィートオーヴァー。そこでグーセンは、気持ちを切り替えて打ったはずの優勝パー・パットも、やはりシンク同様外してしまう。本人も信じられないだろうが、愕然としたのは目前でそれを見たシンクだろう。あの2フィートのボギー・パットを外さなければプレイオフだったのだ。パー・パットがあと1インチ右だったら勝ってたのだ。結局グーセンは今度はボギー・パットを決め、翌日ブルックスとの18ホールのプレイオフとなった。ブルックスは人生最高の父の日のプレゼントをもらった格好。私はPGAでブルックスが勝ったのを見た記憶は96年の全米プロ選手権しかなく、それと合わせて2回目のメイジャー優勝のチャンスが巡ってきた。そう言えば全米プロに勝った時も確かプレイオフを制してたな。とにかく最後の最後での18番グリーン上でのツイストに次ぐツイストが利いたドラマは、私は昨年の「サヴァイヴァー」の最終回を思い出してしまった。時々、事実は確かに小説よりも奇なる展開を見せる。18番グリーン横のスコア・ボードは「Unbelievable」と掲示を掲げていた。まったくだ。


さて、月曜に行われたプレイオフは、最初の数ホールがグーセンが我慢のゴルフ。しかしバンカーからのリカヴァリー・ショットで続け様にスーパーショットを連発し、イーヴン・パーを守る。一方ブルックスは3番パー4でバーディを奪い、一歩リード。グーセンはショート・ゲームこそいいが第3打をグリーンに乗せきれないためにバーディが奪えず、このままブルックス有利のまま進むかに思われた。


しかしグーセンは段々調子を取り戻し、6番パー3でバーディを奪ってブルックスに並ぶ。一方ブルックスのティ・ショットはぶれてきて、7番パー4でボギーを叩いた時点で、逆にグーセンが1打リード。そして勝負の分かれ目は9番と10番の連続したパー4で起こった。グーセンはここで連続して難しいバーディ・パットを沈めるが、一方のブルックスはティ・ショットがフェアウェイをキープできなかったために、連続してボギー。この2ホールでグーセン3アンダー、ブルックス2オーヴァーと一挙に5打差となった。


その後二人とも12番パー4でボギーを叩いた後は、グーセン2アンダー、ブルックス3オーヴァーのまま17番パー4までパーをキープする展開。いくらなんでも、もうここからブルックスの逆転はあるまい。と思っていたら、グーセンは17番でボギーを叩き、一方ブルックスは根性を見せてやっと久し振りのバーディ。グーセン1アンダー、ブルックス2オーヴァーと2つ縮まるが、しかしまだその差は3ストロークス。これを挽回するには最終18番でブルックスがバーディをとって、その上でグーセンはダブル・ボギー以上を叩かなければならない。流石に決まったか。


そう思いながら見てたら、グーセンの第2打はグリーンをとらえきれず、ずるずると20ヤードもグリーンから転がり落ちる。その後のパターによる第3打もショートして、ホールまでは30フィート。しかしブルックスの第2打もバンカーに入っているため、並ぶためにはブルックスは最低でもバンカーから直接カップ・インさせなければならない。20ヤードのロング・バンカー・ショットはピンの5フィート横に落ち、一応パー・セイヴは拾えるかも知れないが、しかしグーセンは30フィートを3パットで勝ちだ。でも昨日の今日だし、いや、昨日の今日だからこそ、あんなことはもう二度と起こるまい、と思っていたら、グーセンはそこから着実に2パットでカップに沈め、初タイトルを手にした。ブルックスもパー・パットを沈め、最終結果はグーセンがイーヴン・パー70、ブルックスは2オーヴァー72だった。いや、ウッズもミッケルソンもデュヴォールも優勝には絡まなかったが、堪能したオープンであった。







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101回全米オープン

2001年6月14-17日   ★★★★

オクラホマ州タルサ、サザン・ヒルズ・カントリー・クラブ

 
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