U-571

U-571  (2000年4月)

1942年。大西洋沖でUボートが連合軍の攻撃を受け立ち往生する。この情報を得た米海軍はある作戦を立てる。助けに来た同胞の振りをしてUボートを占拠し、それに積まれている暗号解読機「エニグマ」を奪取しようというのだ。タイラー大尉らは無事Uボートを占拠し、作戦は成功したかに見えたのも束の間、そのすぐ後ろに迫っていた独駆逐艦によりUボートの振りをしていた米潜水艦は撃沈され、タイラー大尉らは本当にUボートに乗り組んだままエニグマを米本土に持ち帰らなければならなくなる。無線も使えない状況の中で、果たして彼らは無事米本土に辿り着くことができるのか。


「ブレーキダウン」で実力を認められたジョナサン・モストウの2作目は、最初から最後まで緊張を持続させたまま突っ走る潜水艦もの。ウォルフガング・ペーターゼンが演出した82年の「Uボート」以来、90年の「レッド・オクトーバーを追え」、95年の「クリムゾン・タイド」と、このジャンルは定期的に現れ、しかも全部興行的に成功している。大海原の真っ只中、上下左右を水に囲まれた密室である潜水艦を舞台とする作品には息をのむドラマがほとんど約束されているので、成功は当然といえば当然と言えるかも。そういえばガキの頃、小沢さとるの描く「サブマリン707」とかの潜水艦マンガをめし食うのも忘れて読んだ記憶があるなあ。あれと一緒だよ。マンガよりもっと大きな画面で音でも脅かせる映画である。金さえかけてちゃちくさくさえなければ面白くならないわけがないだろう。私は断言するが、このジャンルは5年ごとに必ず新作が製作されるに違いない。


「U-571」はただでさえ見る者に緊張を強いる潜水艦ものである上、結構サイド・ストーリーもしっかりしているので見応えがある。もちろん骨子は戦争アクションであるが、まだアマちゃんのタイラー大尉が、判断力と非情さを求められる非常時を体験しながら一皮剥けた新艦長になるまでの成長ものとしての側面も併せ持っている。扮するのはマシュー・マコノヒー。彼をサポートする年長の機関士にハーヴィ・カイテル。艦長にビル・パクストン、他にジョン・ボン・ジョヴィら。


この映画が公開される週、宣伝の意味もあってTVの深夜トーク・ショウ「トゥナイト」にカイテルやボン・ジョヴィらが交替でゲストとして出演していた。カイテルは実際に海軍兵として戦争に参加したことがあるという。へえと思っていたら、ボン・ジョヴィはもちろん若いから戦争経験などないが、なんと両親が海軍勤務だったのだそうだ。父親が海兵だったのは別に驚きはしないが、母親までが軍人で、女性軍人のはしりだったというのは意外。そういう両親から反体制のロッカーが生まれるのか。けれど短髪のボン・ジョヴィって長い髪より可愛いかった。この映画のボン・ジョヴィといい、最近完全に役者となってしまった元キッズ・オン・ザ・ブロックのマーク・ウォールバーグといい、ロッカー出身の役者が活躍しているが、思うに彼らは元々人に見られるというのに慣れているから演技も自然にこなせるのだろう。こないだは今人気絶頂の'Nシンクのリード・シンガー(さすがにこの辺りになると名前までは知らない)がABCのTV映画に準主演級で出演していたし。


映画はSDDSとかドルビーとかを使用した音響効果が非常によく効いている。潜水艦の廻りで最初遠くに、次第に近づいてくる爆弾の炸裂音が、劇場で見ると前から横から後ろからも聞こえてきて、本当に爆撃されているような気分になる。緊張するわ。着弾して爆破される潜水艦の映像とかも、一瞬艦自体が膨らみ、その直後に爆裂するという手の込んだCGで、すげえっていう感じ。手に汗握ります。


この映画、ハリウッド映画だからしょうがないのだろうが、米海軍のヒロイズム礼賛映画になっている。実は私の記憶に間違いがなければこのエニグマを奪取して解読に成功したのは英海軍だったと思うのだが。また、第2次世界大戦を舞台とした潜水艦ものでリアリズムに焦点を置いた演出という見地から、よく「U-ボート」と比較して評されており、「U-ボート」に較べて人物が描き込めていないという評をよく眼にした。うーん、それは確かにあったかもしれない。タイラー大尉の成長ものがサイド・ストーリーになってるといっても、「U-ボート」のあの圧倒的な極限状況での人間ドラマに較べたらただのアクションと言われてもしょうがないかも。


それに何発も売っている独軍の砲弾がこちらには一発も当たらないのに、たった一発しか残っていないこちらの魚雷が向こうには命中するのである。これは、確かになあ。ちょっとまずいよと思わないでもない。ドイツ語で書かれているため操作の仕方がわからないU-ボートも、主要なメーターの英語読みを一度聞いただけであとは難なく使いこなしたりしているのである。しかも敵艦が攻撃中に。そりゃああなたたちは選ばれた一流の軍人かも知れないが、たった2つのメーターが何かということがわかったくらいで、設計も違うだろうU-ボートを3分後には自由に操舵できるものかね。しかし、まあ、こういう欠点があることはあるが、そういうものは映画を見終わってから気づくものであって、見ている間は興奮して手に汗握っていた。こちらとしては最初からハリウッド的大作アクションを期待して見に行っているわけだから、変に歴史から教訓を学ぶ的な態度をとらず、ただアクションを堪能するという立場に徹すればいいんではないだろうか。そうすれば充分楽しめることは間違いない。






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