True to the Game


トゥルー・トゥ・ザ・ゲーム  (2017年9月)

時々こういうことがあるが、何の因果かまったくこんなの見る気は毛頭なかったという映画を見ている自分を発見することがある。「トゥルー・トゥ・ザ・ゲーム」が正にそうだった。


この週末は超見たいという作品を見つけきれなかったので、適当にアクション系を2、3本候補にしていた。その中の1本がアイスランドを舞台にしたサスペンスとあって、今回はこれにしようかなとなんとなく思っていた。だいたい北欧や寒いところを舞台とするスリル・サスペンス系は、はずれが少ない。


とはいえ事前に作品のことを知っていたわけではないので、アイスランドが舞台の作品としてだけ覚えており、いかんせん誰が出て誰が撮ってるかも知らなければ、作品名も頭に残ってない。一方、「トゥルー・トゥ・ザ・ゲーム」のポスターは黒地にタイトル名があるだけで、絵柄がなく、これまた誰が出てるかわからない。それでいつの間にか両者を混同してしまった。


てっきり「トゥルー・トゥ・ザ・ゲーム」をアイスランド産サスペンス・スリラーと思い込んだまま出かけ、チケットを買い、中に入って予告編が終わり、いざ本編が始まって‥‥いるはずなのに、なかなか寒そうな絵にならない。なんか、これ、どう見てもアメリカの都市‥‥ニューヨークではないが、それっぽい東海岸の都市‥‥たぶんフィラデルフィア? が舞台で、しかも主人公と思われる黒人の女性、およびその周りのほとんど黒人の者たちが延々と描かれる。全然寒そうじゃない。


はっとして周りを見渡すと、私の周りの者たちは全員黒人だ。なんか、オレ、間違えた? と、この時になってようやく気がついた。どうやらやってしまったようだ。頻繁ではないが、それでもたまにやるミスだ。時間のあった大昔、まず映画館に出かけ、そこで時間が合う映画を手当たり次第に見ていたという時代、予想していたのと違う作品を見る羽目になったということは何度もあったが、それはそういうハプニング的出会いを半ば意識してやっていたので、必ずしも間違ったというわけではない。


しかし今回は、一応見ようという作品はあったのが、まったく違う作品だったという完全な見当違いで、ここまで完全に間違えたというのは、ここ10年くらいはなかったと思う。こういうミスから得るものもあったりはするが、完全な逆効果の時もあり、こういう金と時間のロスは痛い。この歳になってまだこんなことするかなと、我ながら自分自身に呆れる。


そして案の定、「トゥルー・トゥ・ザ・ゲーム」は、特にできのいい作品ではなかった。ギャング関係にも手を出している金持ちの黒人レストラン経営者が、一般市民の黒人女性に惚れて‥‥という展開で、舞台設定自体はともかく、描き方が甘過ぎるという印象は如何ともし難い。意気込みは買うがどうしても素人臭く、金をかけた大学卒業製作を見ているみたいだ。似たような舞台設定だとFOXの「エンパイア (Empire)」があるが、TVの「エンパイア」の方が、役者も演出もこなれている。


その「エンパイア」のヴィヴィカ・A・フォックスが「トゥルー・トゥ・ザ・ゲーム」にも出ている他、主人公のコロンバス・ショートも、ABCの「スキャンダル (Scandal)」に出ていた。CBSの「エレメンタリー (Elementary)」に出ていたネルサン・エリスもいる。かといってこういうヴェテランが作品を救っているかというと、そうとも言えないのが苦しいところだ。たぶん新人で抜擢されたエリカ・ピープルズが初々しい魅力を持っているのは認めるが、それでもなあ、この全体のバランスの悪さはなんとかならないものか。


いくら黒人が多いフィラデルフィアが舞台といっても、ここまで登場してくる人物が黒人だけというのも、締まりの悪さの印象を強調するだけにしかならない。そりゃあ黒人御用達のクラブやレストランはあるだろうが、普通に街中を歩いていて、ここまで黒人だらけにはなるまい。本当に白人やエイジアン、ヒスパニックが、数えるくらいしか登場しない。すごくヘンだ。「エンパイア」だってここまで黒人だらけにはならない。


おかげでほぼ唯一セリフもある白人女性のボディガードが際立って目につく‥‥というか、一人浮いている。ギャングの側近として出てきてこれだけ場を乱しているからには、最後はマシンガン乱射されて死ぬんだろうなと期待するしかない。


とまあ、一言で言うと、脇が甘い。あるいは、バランスが悪い。通常、画面が小さく、距離をとってアラが目につきやすいTVよりも、スクリーンが大きくて迫力で押せる映画の方が欠点は見えにくいものだが、今回に限ってはTVの「エンパイア」の方ができがいいと感じてしまう。なぜだか「トゥルー・トゥ・ザ・ゲーム」は、粗さの方が目についてしまうのだ。別に見たい作品じゃなかったからといって、特に欠点を探しながら見ているわけでもないのに。


映画を見てから数日後に、ふといったい私が本当に見たかったアイスランド映画はいったい何だったんだろうと思って調べてみたのだが、アイスランドが関係するどんな映画も探せなかった。IMDBで8月まで遡って公開映画を探してみたのだが、どうしても探せない。本当にそういう映画はあったのだろうか。なんか、キツネに鼻をつままれたような気分だ。


一方、「トゥルー・トゥ・ザ・ゲーム」のキャスティングを調べていて、実はエリスは今夏急逝していて、これが遺作ということを知った。なんでも無理にアルコールを止めようとしたことから来る心臓発作だったそうだ。そういうことで逆に死ぬこともあるのか。まだ39歳だった。この映画を見ることになったのは、酒を止めることはないという私に対する天のお告げだったのかもしれないと、一人納得したりする。










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フィラデルフィアで表向きレストラン経営者、実はドラッグ・ディーラーとして成功し、巨万の富を得ていたカディール (コロンバス・ショート) は、ある夜、ジーナ (エリカ・ピープルズ) を目にし、一目惚れする。金に糸目を突かず果敢にアタックを繰り返し、しかも情のあるところを見せるカディールに、ジーナの気持ちも傾いてくる。しかしカディールの商売敵のジェレル (アンドラ・フラー) をそんなカディールを隙あらば蹴落とさんと、虎視眈々と狙っていた‥‥


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