Triple 9


トリプル・ナイン  (2016年3月)

実は「トリプル・ナイン」はそれほど評がいいわけではない。結構な面子が出ているわりにはどちらかというと静観されているという感触が強かった。しかし、まあジョン・ヒルコート演出だし、それなりに見るべきところはあるはず、と劇場に足を運ぶ。


冒頭、覆面をした男たちの一団が銀行を襲撃する。貸し金庫を開けさせ、クルマに乗って逃げ、公道上で銃撃戦となる一連のシークエンスは、緊張感とアクション満載で期待以上のでき。マイケル・マンの「ヒート (Heat)」とドゥニ・ヴィルヌーヴの「ボーダーライン (Sicario)」の公道アクションを見ているようで、初っ端から思わず手に汗握る。やっぱりヒルコート、すごいじゃないか。因みにタイトルのトリプル・ナイン (999) とは警察コードで、オフィサーが撃たれて緊急の手当ての要請を意味する由。


出てくる俳優の豪華さにも圧倒される。キウェテル・イジョフォー、アンソニー・マッキー、ケイシー・アフレック、クリフトン・コリンズJr.、ノーマン・リーダス、アーロン・ポール、ウッディ・ハラーソンと錚々たる顔ぶれ。リーダスなんて、今AMCの「ザ・ウォーキング・デッド (The Walking Dead)」でかなり人気高いのに、こんな小粒な使い方していいのかというくらいもったいない使い方。ロシアン・ギャングのボスの情婦として登場するケイト・ウィンスレットは、冒頭のクレジットで彼女が出ていると知らなければ到底気づかないほどの厚塗り化粧。確かにそれらしくは見える。


とはいえ、これほどのメンツが出ていても特に話題にはなってないところが、まだ一人で看板背負えるほどのハリウッド・スターというほどではなく、ヒルコートも浸透度はまだまだという感じ。ヒルコート作品は独特の緊張感があり、「プロポジション  血の誓約 (The Proposition)」、「ザ・ロード (The Road)」、「欲望のバージニア (Lawless)」と印象的な作品が続き、私は好きなのだが、どれも興行的に成功したとは言い難い。「トリプル・ナイン」もどうやら興行的には今一つだったようだ。これまで撮ったものを見る限り、どうも本人にあまりそういう大衆向けの作品を撮ろうという気持ちがないみたいだ。


「トリプル・ナイン」は、特に「プロポジション」と似た点を感じる。つまり、キャラクターの背景をあまり描かない。「プロポジション」でそういう風に評された点を反省してか、「欲望のバージニア」では主人公兄弟の幼い日々まで説明していたのに、やっぱり元に戻ってしまった。曲がりなりにもキャラクターの背景が描かれるのは、マイケルに子供がいること、クリスの家族くらいで、それも必要最小限だ。マイケルの家族構成は、もちょっと描き込まないと逆に話に奥行きが出ない。ヒルコートにとっては、アクションは現在進行形のものであって、過去を引きずるものではないようだ。あるいはヴァイオレンスは突発するものという言い方もできるかもしれない。


実際、「トリプル・ナイン」の冒頭の、なんの前置きもなく勃発する銀行襲撃アクション、および中盤のハウジング・プロジェクトに足を踏み入れる際の緊張感はただ事ではなく、本気で握った拳に力が入る。プロジェクト内で各部屋に突入する際、先頭でシールドをかざして防御しながら進むクリスが、後続の隊員に対してライト、レフトと指示しながら各々の部屋をあらためていくシークエンスは、実際のやり方に則っているのか、初めて見たが、テンション上がりっぱなしでえらく緊張した。カナダ人のヴィルヌーヴやオーストラリア人のヒルコートが、アメリカで最もテンションの高いアクションを撮る。


ただし突発するアクションがストーリーをドライヴするのに貢献しているかというと、特にそうとは感じられないところが、「トリプル・ナイン」の弱い点かと思われる。キャラクターを書き込んでないのは意図的かもしれないが、それがアクションのコントラストを高めるという働き方はしていない。つまり、登場人物がなぜこういう行動を起こすかという説得力に欠ける。実際の話、主人公のマイケルは息子を人質同然にとられているとはいえ、本気で息子と一緒に逃げる気になれば逃げられるんじゃないかと思う。なぜ逃げないんだと思ってしまう。わざわざ自分から逃げ道を塞いでいるように見えてしょうがない。他の仲間も大同小異で、仲間のためににせよ私欲のためににせよ、そうせざるを得ないというよりは、自分からただ墓穴掘っているように見える。あるいは破滅願望のある男たちの集まりだったのか。


一方今回は、これまでは文明から離れた地点での話を舞台にすることが多かったヒルコートが、初めて現代アトランタを舞台に描いている。アトランタって実は無法の街なのか。それにロシアン・マフィアがアトランタを仕切ってるのも事実なのか? つい最近のニューズでは、アトランタの企業がLBGTに優しくないということで、ディズニーを筆頭とする大手企業がアトランタから撤退の可能性を表明していた。サザン・ホスピタリティの街ではなかったのか。アトランタの印象がちょっと変わってしまう。


ところでまったく関係はないのだが、アフレックの役名であるクリス・アレンは、FOXの「アメリカン・アイドル (American Idol)」第8シーズンの優勝者、クリス・アレンと同じ名だ。こちらはChris Allenで「アイドル」の方のアレンはKris Allenとスペルこそ違うが、発音は一緒、そして実はわりと顔も似ていると思う。アフレックも実は結構ギター弾きそうだなと、勝手に想像してしまう。











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マイケル (キウェテル・イジョフォー) を筆頭とするチームは、銀行を襲撃して貸し金庫から物品を強奪する。一味のマーカス (アンソニー・マッキー) とフランコ (クリフトン・コリンズJr.) は警察関係者でもあった。マイケルの妻の姉イリーナ (ケイト・ウィンスレット) はロシア・マフィアのボスの妻であり、マイケルのまだ年端も行かない息子は、ほとんど人質としてイリーナの手に委ねられていた。イリーナは刑務所に入れられている夫と連絡をとって、マイケルに組織に必要なものを銀行から強奪させたのだった。しかもそれだけでは不充分として、さらに連邦オフィスの襲撃まで要求してくる。一方マーカスのいる警察に、新しくクリス (ケイシー・アフレック) が配属される。クリスはマーカスとパートナーを組まされ、署内の胡散臭いものを感知するが、一方マーカスはなんとしてもクリスに次の仕事の邪魔をさせるわけには行かなかった‥‥


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