Tow of Us (Deux)


トゥ・オブ・アス  (2021年7月)

コロナウイルスのワクチンを接種して一と月経ち、人々の一回目のワクチン接種率も70%に達し、新規感染者数はこの1年半で最低となり、映画館も再開し、ついに映画館再デビューの時期が来たか、その作品として、M. ナイト・シャマランの新作「オールド (Old)」というのは、なかなか相応しいものと思えた。 

 

ところが、ここに来てアメリカでもデルタ変異種が猛威を振るい始め、ここ一と月で新規感染者が倍増どころか数倍になってしまい、一時は撤回された室内でのマスク着用義務を復活させようとしている。ワクチン接種者にも感染するブレイクスルー感染も一定数おり、ワクチン接種済みだからといっても安心できない。こちらとしてもここまで来て感染するのは癪なので、できれば感染せず乗り切りたい。 

 

このままだともしかして沈静化するのは今秋、下手すると今年いっぱい、いや来年までもつれ込むかもしれない。頼むからみんなワクチン射ってくれー、そしたらせめてここまで酷くはならんだろうに。いずれにしてもそれで、やはり映画館再デビューは持ち越すことにする。 

 

さて「トゥ・オブ・アス」は、今年のゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞部門にノミネートされていたので覚えていた。年老いた二人の女性の愛の行方を描くドラマで、さすがにフランス映画だよなと思わせる。 

 

マデリーンはかつて家庭を持っており、夫には先立たれたが、成長した娘と息子がいる。一方、ニナは自由な気質で、たぶんずっと独り身で、いつかはマデリーンと周囲に気兼ねなく一緒に住むことを夢見ていた。これまではビルのペントハウスの二部屋をお互いに所有しており、人に知られず出入りしていたが、いっそ部屋を売り払って二人で国外で一緒に住もうという計画を立てる。話はほとんどマデリーンが売却の書類にサインすれば終わるというところまで来ていた。 

 

しかし最後の最後になって、マデリーンは尻込みする。今さら子供たちになんと言うか、周囲は自分たちをどう見るか。マデリーンはサインせず、ニナにはさも事態は予定通りに進んでいるように振る舞う。しかしもちろん結局そのことはニナの知るところとなり、ニナは激昂する。一方、物事の変化のスピードに着いていけなかったか、マデリーンは脳卒中を起こして倒れてしまう。退院しても今度は24時間一緒のナースが住み込んでいるため、ニナは気が気ではないのにもかかわらず、これまで通り自由にマデリーンに会いに行けない。ニナはついにナースの目を盗んで勝手にマデリーンの部屋に中に忍び込む‥‥ 

 

なんとなく恋愛先進国フランスのこととて、年老いたゲイ・カップルでも普通にいそうだなと勝手に思っていたのだが、さすがにそれはないらしい。特に事態を複雑にするのが、ゲイの女性なのにかつて男性の夫と結婚していて、子供たちを産んでいることだ。既に成長した子供たちにとっては、実の親がゲイであることが受け入れ難い事実であろうことは、想像に難くない。自分たちが望まれて生まれてきた子ではないことを証明しているからだ。親がゲイであることを認めるのは、自分たちの存在を否定するに等しい。子供たちにとっては、母親が浮気して生まれた子という方が、まだ納得できるのではという気がする。 

 

マデリーンは、子供たちがそう感じるであろうことを本能的に気づいているので、どうしても子供たち相手にカミングアウトできない。一方ずっと独身を通してきたニナは、マデリーンのそういう優柔不断な態度に苛立ってしまう。そういう様々な感情や環境の板挟みになって、マデリーンは脳卒中を起こして倒れてしまい、退院はしたもののほとんど歩くこともしゃべることもできなくなっていた。 

 

ニナはなんとかしてマデリーンと会いたいと思うが、今ではマデリーンには24時間つきっきりでナースが介助しており、ニナが近づく隙はない。思いあまったニナは、最初は夜中に、そして日中でもナースの隙を見て合鍵を使ってマデリーンの部屋に入り、会話はできないまでも添い寝して一時の満足感を得る。 

 

そういうこともあって、「トゥ・オブ・アス」は年老いたゲイ・カップルの恋愛ドラマであるはずだが、映画を見ている時の印象は、ダメだ、ニナ、今、中に入ったら見つかってしまう、やばい、と、かなりスリル&サスペンスで、手に汗握らせる。ニナの行動はだんだんエスカレートしてストーキング的な展開を見せるので、さらにサイコ・サスペンス的な雰囲気を色濃く見せるようになる。恋愛ドラマにしては緊張感あり過ぎ。 

 

オープニングの若かりし頃のたぶんマデリーンと、もう一人の女の子を見せるシーンも、上手いというか、謎めいて緊張感がある。このショットは最後にも出てくるのだが、実はこれが何を意味しているか、よくわからなかった。マデリーンは実は過去に自分の性向のせいで罪を犯してしまい、それを悔いて生きてきたとか‥‥うーん、わからない。 














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フランス南部の街。年老いて引退し、アパートのペントハウスで悠々自適の生活を送るマデリーン (マルティーヌ・シュヴァリエ) は、実は同様に引退して向かいの部屋に住むニナ (バルバラ・スコヴァ) と、隠れた愛人同士だった。夫には先立たれ、子供たちも一人立ちし、マデリーンとニナはカミング・アウトして部屋を売り払い、二人で外国で余生を一緒に過ごそうと決めていた。しかし部屋の売却の一歩手前まで来て、マデリーンはどうしても子供たちにそのことを言い出せずにいた。それを知ったニナは怒り、そしてマデリーンは脳卒中を起こして倒れてしまう。退院してきたマデリーンは自由に動くことも話すこともできず、住み込みのナースがついたため、ニナはマデリーンと接触する機会を失ってしまう‥‥ 


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