今年頭、英国製人気番組のアメリカでのリメイクがプチ流行した。「シェイムレス (Shameless)」、「ビーイング・ヒューマン (Being Human)」、「スキンズ (Skins)」といった番組がタイトルもそのままにアメリカでリメイクされ、正直言ってどれも成功したとは言い難い。
実際問題としてそのオリジナル・ヴァージョンをアメリカでも放送中で、吹き替えなしでも放送に支障のない英国製番組を、今リメイクしないといけない意味は図り難かった。だったら、普通、人はオリジナルを見ないか? よほど気になる俳優が出ているというのでもない限り、そのリメイクまで見る暇のある人はそういないと思う。
また、そのため、英国人をハリウッドに招いて製作したショウタイムの「エピソーズ (Episodes)」を、これはいったいなんのリメイクなんだとカン違いしたりもした。そういう経緯もあるので、今回、スターズが「トーチウッド」を放送するという発表があった時も、これはリメイクなのかそれともオリジナルなのか、スピンオフなのか続編か、最初よくわからなかった。
結論から先に言うと、「ミラクル・デイ」はオリジナルの「トーチウッド」の最新シリーズに当たる。「トーチウッド」は2006年から英BBCで放送されているSFドラマだ。長寿SFドラマ「ドクター・フー (Doctor Who)」のスピンオフに当たる。「ドクター・フー」からは数年前にもスピンオフの「ザ・サラ・ジェイン・アドヴェンチャーズ (The Sarah Jane Adventures)」が製作され、アメリカでもSyFy (当時のSci-Fi) が放送した。
「トーチウッド」は「ドクター・フー」に登場する不死身のキャラクター、キャプテン・ジャック・ハークネスを主人公とするSFだ。主としてエイリアンの情報収集や対策に関係する秘密諜報機関トーチウッドの活躍を描く。因みにトーチウッド (Torchwood) とは、ドクター・フー (Doctor Who) のアナグラムになる。
「ドクター・フー」はわりと軽いノリのSFドラマで、それは同じプロデューサーが製作する「サラ・ジェイン・アドヴェンチャーズ」や「トーチウッド」にも受け継がれている。ただしプロデューサーはほとんど子供向けに近い「ドクター・フー」より大人向けに「トーチウッド」を製作しているとし、実際、番組のノリ自体は「ドクター・フー」に近いが、扱っているテーマや描写は大人のSFファンを意識している。
「トーチウッド」は英国で2シーズン放送された後、第3シーズンはミニシリーズという形で一つのテーマに沿って製作された。その「チルドレン・オブ・アース (Children of Earth)」は、ある日世界中の子供がすべて同じことをしゃべり出すという話で、好成績、評価を獲得した。今回スターズが製作放送する第4シーズン「ミラクル・デイ」は、その後に続く話となる。アメリカ資本が入ったため、話はアメリカと英国を行き来する。
とはいっても、新しいシーズンを製作するというのはなかなか難しいことだったみたいだ。なんせプロデューサーは「トーチウッド」を長く続く話とは考えていなかったようで、実は主要登場人物の大半が第2シーズンで死んでしまう上に、さらに第3シーズンではウエールズのカーディフにあったトーチウッドの拠点が破壊されてしまう。
この秘密基地はかなり印象的なヴィジュアルで記憶に残る。かつてジェイムズ・キャメロンがFOXで製作した「ダーク・エンジェル (Dark Angel)」で、主演のジェシカ・アルバが毎回たたずんでいた塔を覚えている者は多いと思うが、ああいう物語の裏の主人公的なイメージが破壊されてしまう。そのため、基本的に番組はこれで終わりと思った視聴者も多かったに違いない。
実際「ミラクル・デイ」では、冒頭で登場する元トーチウッド・メンバーのグウェンは、今ではウエールズの海沿いの片田舎で、誰にも知られないように隠遁しているという設定になっている。ところがトーチウッドという謎の組織の存在に気づいたアメリカのCIAのレックスは、トーチウッドがいったいなんなのかを探ろうとした途端、事故に巻き込まれて大怪我を負う。時を同じくしてグウェンの身辺にも追っ手の手が伸びてくる。
しかし大事故でまず生きているわけはないはずのレックスは、それでもなぜだか死なずに生きている。それだけでなく、世界中で、実は人が一人も死ななくなっていた。重病人も死ななければ、死刑を執行された犯罪者も死なない。これは奇跡なのかそれともなにかの罰なのか。このままではあっという間に地球は人で溢れて身動きがとれなくなってしまう。それだけの人間に供給できる食料はとうてい賄えないが、それでも人は死なないのか。
一方、キャプテン・ハークネスは、CIAエージェントのエスターを助けた時に怪我を負ってしまう。不死身のハークネスが不死身でなくなっていた。さらにハークネスは毒を飲まされ今や瀕死だ。人が死ななくなりハークネスが死にそうになる。世界ではいったい何が起こっているのか‥‥
この設定は、世界に子供が生まれなくなるというまったく逆の設定の「トゥモロー・ワールド (Children of Men)」を思い出させる。果たして人が生まれなくなることと人が死なないことは、どちらが重大問題なのか。少なくとも人が生まれなくなればいつかは人類が絶滅するのは確実だが、人が死ななくなる方がよりカタストロフィ的な悲劇的結末を迎えるような気もしないではない。よくわからない。因みに「トゥモロー・ワールド」の原作は、やはり英国人のP. D. ジェイムズだ。
「ミラクル・デイ」に残っているオリジナル・キャストは、ハークネス、およびグウェン、彼女の夫のリスの3人だ。それぞれジョン・バロウマン、イヴ・マイルズ、カイ・オーウェンが演じている。今回はそれにCIAのレックスをメカイ・ファイファー、同僚のエスターをアレクサ・ハヴィンズ、ジリーをローレン・アンブローズ、医者のヴェラをアーリーン・タール、死刑囚のオズワルドをビル・プルマンが演じている。
アメリカ側の主人公であるレックスに扮するファイファーが意外にはまっていて、NBCの「ER」での医者よりこちらの方がいいと思う。元々アクション肌なんだろう。死刑囚に扮するプルマンも、これまでとはがらりと印象の異なるキャスティングだが、これも悪くない。ローレン・アンブローズもこれまでとはイメージの異なるキャラクターに挑んでおり、これまたおっと思わされた。
しかし個人的に最も印象に残ったのが、第2話にゲスト登場する「ドールハウス (Dollhouse)」のディーチェン・ラクマンだ。「ドールハウス」の時もなにやら人類離れした美人という印象が強かったが、今回はCIAエージェントとして登場、ハークネスをなき者にしようとして逆にレックスの返り討ちに遭う。その時首の骨を折られるのだが、そこはそれ、人は死ななくなっている。そのため身体前向き首は後ろ向きという、メリル・ストリープが「永遠 (とわ) に美しく… (Death Becomes Her)」でやった、あのイメージを再現する。あの人間的な顔じゃないラクマンがこれをやると、強烈に印象に残る。いや、よくぞやってくれたという感じだ。「ミラクル・デイ」は、ちょっと侮れない。