Topsy-Turvy

トプシー・ターヴィー  (2000年2月)

19世紀末期のロンドン、ギルバート&サリヴァンとして知られ、数々のクラシック・オペレッタを生み出したウィリアム・シュエンク・ギルバートとアーサー・サリヴァンのペアを描く音楽ドラマ。創造的に行き詰まったサリヴァンのために、一度はペア解散の手前まで行くが、そこから二人がまた共同で今尚残る不朽のオペレッタ「ミカド」を生み出すまでの経緯をマイク・リーが手堅く演出する。


因みにタイトルともなっている「トプシー・ターヴィー」とは、しっちゃかめっちゃかとかごった煮状態を指す言葉で、ギルバート&サリヴァンの製作するオペレッタがいつもそういうてんやわんやの舞台であることを当時の批評家が指摘したところから来ている。私はこの単語を聞いたことがなかったので多分死語だろうと思っていたら、今でも結構使われてるそうだ。勉強不足。


いつものリー作品よろしく結構誉められており、確かによくできている。でも、どこを見てもA評価とか★★★★評価ばっかりであまりにも貶す意見を見ないので、欠点を思い出そうとしているのだが、これがやはり、別に悪いところなんてないんだなあ。強いて言えばそういう欠点らしい欠点もないが強烈に印象に残るシーンもないというところか。長過ぎる(2時間40分)ことも私は気にかかった。


私の女房は昔合唱部だったこともあって、腹から発声する現代の発声法に対し、咽喉を目一杯使う発声が目新しくて面白かったと言っていたが、そんなこと私にはわからない。しかし完全主義者のリーのことだから、きっとそれも知っていてそういう歌唱法で歌うよう指導しているんだろう。実際音楽自体は面白かった。そういえば舞台「ミカド」で出演者が着物の右前左前をわかっていなかったり、男の着ている着物がどう見ても振り袖に見えるところなんかも、クレジットに日本人の名前が多数出ていたところからして、知っていてわざとやっているに違いない。


ギルバートに扮するジム・ブロードベントが、一部ではアカデミー賞主演男優賞の声が聞こえるほど評価されている。色んな作品に出ているブロードベントだが、私が初めて彼の名前を意識したのは、「ロミオ+ジュリエット」、「ダンシング・ヒーロー」(2作とも傑作!) のバズ・ラーマンが監督するミュージカル!「ムーラン・ルージュ」でニコール・キッドマン、ユアン・マグレガーと共演するという話を聞いてから。ブロードベントはこれで連続しての音楽映画出演ということになる。顔だけ見ると音楽とはまるで無関係に見えるんだけどね。むしろディケンズの「クリスマス・キャロル」のスクルージなんかやらせるとはまると思うのだが。「トプシー・ターヴィー」では、私としてはブロードベントのギルバートよりも、彼の耐える妻ルーシーを演じたレスリー・マンヴィルの方に惹かれた。オペレッタ製作にかかりきりで自分を省みてくれないギルバートに、ベッドの上で例え話で愛を訴えるシーンは結構じーんときた。


他に劇場経営者の妻兼共同経営者、サリヴァンの愛人といった女性陣をはじめとして、劇団員に扮する役者が皆いい。一般に脇がいい映画はできのいい証拠なので、やはりレヴェルの高い映画なんだろう。しかし、よくできてはいるが、それでも、胸を張って傑作だと言えるほど入り込めないんだよなあ。考えてみれば、「ネイキッド」も「秘密と嘘」も、よくできているとは思ったが、それだけで別に心動かされたりはしなかった。リーとは多分波長が違うんだろうとしか言い様がない。でも、目を輝かせて傑作だと断言する人たちを見ると、何か自分が大切なところを見落としているようで、何というか損した気分になる。






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