The Tonight Show with Conan O’Brien  ザ・トゥナイト・ショウ・ウィズ・コナン・オブライエン

放送局: NBC

プレミア放送日: 6/1/2009 (Mon) 23:35-0:35

最終回放送日: 1/22/2010 (Fri) 23:35-0:35

製作: コナコ、ユニヴァーサル・メディア・ステュディオス

ホスト: コナン・オブライエン

サイド・アナウンサー: アンディ・リクター

バンド・リーダー: マックス・ワインバーグ


The Jay Leno Show  ザ・ジェイ・レノ・ショウ

放送局: NBC

プレミア放送日: 9/14/2009 (Mon) 22:00-23:00

最終回放送日: 2/9/2010 (Tue) 22:00-23:00

製作: ビッグ・ドッグ・プロダクションズ、ユニヴァーサル・メディア・ステュディオス

製作総指揮: デビー・ヴィッカーズ

ホスト: ジェイ・レノ

バンド・リーダー: ケヴィン・ユーバンクス


内容: 短命に終わった2本のプライムタイム/深夜トーク・ショウの最終回。


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まさかこういう展開になろうとは、いったい誰が予想できたろうか。昨夏、長らく深夜トーク界に君臨していたジェイ・レノの「ザ・トゥナイト・ショウ」が最終回を迎え、代わりにコナン・オブライエンが新ホストの座に着いた。一方レノは、秋から10時台に自分の新番組「ザ・ジェイ・レノ・ショウ」を持つことになった。


その両番組共失敗したのは、昨年末には誰の目にも明らかだった。オブライエンの「トゥナイト」は、これまでレノがほぼ負けることがなかった裏番組のデイヴィッド・レターマンがホストの「レイト・ショウ (Late Show)」に視聴率で後れをとり始め、レノも10時台ではそれまでのような人気を維持することはできなかった。NBCは対応を迫られた。しかし、ではどうするか。


年明け直後にNBCが示した打開策は、10時台だった「ジェイ・レノ」を11時35分に移動して30分番組にし、それまで11時35分から始まっていた「トゥナイト」を零時5分から始めるというものだった。まず、オブライエンがこれに対して頑として首を縦に振らなかった。日付けが変わってから始まる「トゥナイト」なぞ、「トゥナイト」ではない。それでは「トゥモロウ」になってしまう。


特に、「トゥナイト」を去ったはずのレノが前言を翻してまた元の場所に帰ってきて自分の居場所を奪ってしまうと感じたオブライエンは、キャリアの危機をひしひしと感じたんだろう、それまで友好な関係だったはずのレノに対して、「トゥナイト」のモノローグで激しく攻撃し出した。自分はまだ7か月しかこの仕事をしていないんだ、諸君、アメリカン・ドリームはまだ生きている、自分がなりたいと思ったものにはなんでもなれる‥‥ジェイ・レノがそれを欲しない限りは。


さらにオブライエンは自分が職を失いそうになったと見たポルノ業界から出演のオファーが来たことを明らかにし、映画では自分が美しい女性とセックスしていてクライマックスにさしかかると、そこでレノと交代させられることになっていると、レノを悪玉視したジョークを毎晩連発した。


さすがにこれではレノも黙ってはいられない。7か月だって、いいじゃないか、オレなんかたったの4か月だ。立場を変わってもいいぞとやり返す。さらにこれにレターマンが首を突っ込む。元々NBCで、オブライエンが「トゥナイト」に移るまでホストをしていた「レイト・ナイト (Late Night)」の、そもそものホストこそレターマンなのだ。


レターマンとレノはジョニー・カーソンが20年前に「トゥナイト」をリタイアした後の後継者争いで凌ぎを削り、そこで負けたレターマンはCBSに移籍した。レターマンはこの時の感情のしこりをいまだに引きずっており、ここを先途とばかりにレノ・バッシングに走る。レノを新大陸の先住民族を皆殺しにした白人に見立て、彼は欲しいものは何を犠牲にしてでも手に入れるとした映像ギャグはほとんどギャグになってなく、笑えない本心の吐露にしか見えない。いまだにレノに対して含むところがあるんだなと、改めて思わせられた。


ただしレターマンのギャグの切れがいつもより鈍ったかとういうとそうでもなく、零時5分番組開始の提案に対してうんと言わないオブライエンに対し、NBCも零時4分からの番組開始に譲歩した、とか、それで後ろにずれていく番組群に関し、ジミー・ファロンの「レイト・ナイト」は1時からの放送になり、その後の「ラスト・コール・ウィズ・カーソン・デイリー (Last Call with Carson Daily)」は、メキシコに移って放送せざるを得なくなった、なんてギャグは、思わず噴き出してしまった。


そもそも「ラスト・コール」は平常でも深夜1時半からの番組であり、本当に宵っ張りの人間でもない限り、普通はまず見ていない。私もこの番組を見るのは、だいたいTVを見ながらカウチの上で寝入ってしまい、深夜寝苦しいので目を覚ましたら、たまたまこの番組をやっていたという場合がほとんどだ。そもそも、「ラスト・コール」は今回のごたごたに何も関係していない。それなのにそれをおちょくったわけで、とばっちりを食った「ラスト・コール」こそいい迷惑だが、しかしこのギャグは受けた。やっぱりこの番組、誰も見てないと思われてんだよねえ。


レターマンはその後も執拗に、毎晩、時にほとんどギャグというよりは自分の体験を基にした個人攻撃という印象が濃厚のレノ・バッシングを展開した。当然視聴者にそういう印象を与えることがわかった上で、なぜこの話題ばかりとり上げるのか、面白いからだ、と、徹底してレノ叩きに出た。本当にしつこい。


一方、レノはかつて自分の行動がレターマンを苦しめたことを重々承知しているので、最初の方はレターマンから何を言われても我慢していた。少なくともそのように見えた。しかし、レターマンのレノいびりがどんどんエスカレートしてくるとさすがに耐えられなくなって、バンド・マスターのケヴィン・ユーバンクスに向かって、ケヴィン、レターマンを黙らせる方法を知っている? レターマンと結婚すりゃいいんだ、そうすれば目も合わさないよ、とやった。


こいつはホームランだった。このギャグは、昨年、レターマンが自分の番組のインターンと浮気しており、それをネタに脅迫されたという刑事事件を下敷きにしている。レターマンの評判はこの時かなり痛手を負ったが、レノはそのレターマンの結婚生活をネタにしっぺ返しを食らわせたわけだ。小さなギャグでちびちびいびっていたら、特大のしっぺ返しを食らったという印象濃厚で、あれは痛かった。その後レターマンのレノいびりが緩和した気がするのは、あながち気のせいでもあるまい。


また、ABCの「ジミー・キメル・ライヴ (Jimmy Kimmel Life)」のキメルも横から口を出す。キメルはいったい何を考えたんだか、レノそっくりに変装してスタジオに姿を現すと、ジェイ・レノとして番組を進めるというけったいな進行で1時間を乗り切ってしまった。それがまた結構レノに似ているのだ。しかし、お前、いったい何を考えている。さらにキメルは、「ザ・ウォー (The War)」で知られるドキュメンタリー映像作家のケン・バーンズの手法を真似て、深夜トーク界のつばぜり合いをいかにも歴史的事件のように再構成して見せた。


キメルは、正直言うと私は特に面白いとは思わないが、しかし、時々実に印象的なことをやったりする。いつぞやのマット・デイモンやらベン・アフレックやらブラッド・ピットやらを巻き込んで撮ったミュージック・ヴィデオにはかなり唸らされたし、今回のバーンズもどきも芸があった。ただ、いつも自分の持ちネタで面白いというよりは、他人の話に鼻を突っ込む時の方が冴えるみたいな印象がある。今後の課題はこの辺だろう。


キメルはレノの扮装が話題となったために、「ジェイ・レノ」の「テン・アット・テン」コーナーにヴィデオ・ゲストとして呼ばれ、レノの10の質問に答えてもいたが、今までで一番のいたずらは? という質問に、ある番組のホストに就いたがその座を誰かに奪われることと答え、さらにレノに対して、あんたはもう充分稼いだだろ、オレたちをほっといてくれと発言、レノが一瞬慌てる一幕もあった。レノとキメルは以前、ハリウッドの俳優組合がストをした時に互いの番組にゲストとして出演し合うくらいの仲ではあったので、レノはたぶん話題性もあるしくらいの軽い気分でキメルを出したんだろうが、まさかあそこまで堂々と今回のいざこざにキメルが口を突っ込むとは思ってもいなかったに違いない。


基本的に今回、自分の番組で意見や批難中傷を口にしていたのは以上の4人4番組で、「レイト・ナイト」のファロンや「レイト・レイト・ショウ (Late Late Show)」のクレイグ・ファーガソン、それにコメディ・セントラルの「デイリー・ショウ (Daily Show)」のジョン・スチュワートや「コルベール・レポート (The Colbert Report)」のスティーヴン・コルベールらは、意識的にこの話題を避けていた。デイリーもそうだ。


むろんこれだけ注目を集めている話題だ、皆一言二言くらいは何か言うが、とばっちりが飛んでくるのを避けていたのだろう。確かにこの話は、基本的にレノとオブライエンとNBC間の話だし、レターマンもレノに含むところがあるとはいえ、基本的に部外者だ。ファーガソンにとってレターマンはボスになるし、スチュワートはレターマンと仲がいい。レノの移動によって放送時間帯が変わるかもしれないファロンとカーソンなら何か言う権利があるだろうが、それ以外の者は、ここは距離を置いておいた方がいいと考えるだろう。それなのにキメルに至っては、正直言って第三者のお前がなんでそこまで口出しするかよくわからないといったところがあった。


視聴者は、ほとんどがオブライエンの肩を持った。せっかく新しい職に就いたと思ったら、まだ実力を出し切れないうちに更迭されてはたまらない。それが20年近くも待ってやっと手にしたものならなおさらだ。一方のレノは、リタイアして後進に道を譲ったはずという印象がある。それなのにオブライエンの「トゥナイト」を押しのけてまた11時台に復帰してくるというのは、どう考えても視聴者にいい心証を与えない。同様に、そのプランを発表したNBCに対しても批難が集中した。


一方で、オブライエンの「トゥナイト」が予想以上に苦戦しているのも事実だ。かつてレノがカーソンから「トゥナイト」を引き継いだ時も、当初は苦戦したが、これほどではなかった。実際レノは、1年とかからずに成績を上り調子にしている。しかしオブライエンは番組が始まって7か月経っても、いまだに成績はじりじりと下降している。これ以上待てないとするNBCの焦りもわからないではない。


元々オブライエンのユーモアは癖があって、万人向きではなかった。彼が零時半の「レイト・ナイト」のホストに就いた時ですら、既にそのことは言われていた。実際オブライエンは視聴者をつかむのに苦労し、「レイト・ナイト」が定着するまでに数年かかっている。あまりにも成績がよくないので、NBCはオブライエンに対していつでも番組を打ち切れるように、契約を週決めにしようとしていたという逸話が残っているほど不人気だった。


それなのに、あの時何年も辛抱したのに、今回はたった7か月で諦めるか。NBCは、オブライエンがかつて自分のユーモアをアジャストして最終的に視聴者に受け入れられたように、今回もうまく適応してくれることを望んだに違いない。ただ、なんとなれば、20年前と現在では、ビジネスのスピードが違う。当時はほとんど競合する裏番組もなかった。NBCとしては、気長に番組を育てる余裕があった。今はそんなこと言っていられない。


私の意見では、オブライエンは時間さえかければ、11時台にもうまくアジャストして最終的には視聴者をつかまえることができると思う。実際の話、オブライエンのユーモアは、20年前と比較して現在では驚くほど軟化している、というか、より一般化している。ここまでオブライエンが適応できたことに驚くくらいだ。


一方、オブライエンの本質はやはりこういう万人向けユーモアにはない。それをわかっていて「トゥナイト」のホストに抜擢したんだったら、待つのが当然じゃないかと思う。オブライエンの「トゥナイト」が最初から万人向けにはならないだろうというのは、ハナからわかりきっていたことだった。彼がNBCによって次期「トゥナイト」ホストに指名された時から、そのことは散々マスコミから指摘されていたし、私も最初からこれはかなり難しいかもと、何度もここで言っている。今になってその懸念が的中したからといって、NBCのこの対応のまずさは、責められてしかるべきだろう。


NBCの立場から言うと、彼らは単に最も効率的なビジネスを模索しただけで、他に含むところも意図することもなかったというのが、その弁明になろう。実際にそうやって2、3度放送されただけでキャンセルされる番組が後を断たないことを思うと、なぜ今回これだけ文句を言われないといけないのか、NBC幹部はわかってないと思う。彼らにしてみれば、7か月も我慢したんだという気持ちに違いない。むろんそれは「トゥナイト」という、半世紀以上の歴史を持つ番組、そしてそれに長い間親しんできた視聴者がこれまでに培ってきた感情的な紐帯をまったく無視しているからこそ通る意見だ。だからこそ、オブライエンに対して、彼はまったくもって失敗だった、と堂々と口にできる。だからこそ、NBCはまるでわかってないと陰口叩かれる。


レノの場合は、例えば一度引退したスポーツ界のスーパースターが復帰してきても特に悪口を言われるわけでもないように、自分が特に悪いことをしているという気持ちは毛頭なかったろう。NFLのブレット・ファーヴなんて4、5回は引退復帰を繰り返して、今では引退すると言っても誰も本気にしない。NBAのマイケル・ジョーダンだって一度引退してまた復帰したし、自転車のランス・アームストロングだって引退を発表してからまた復帰してきた。


彼らはスポーツ界を変えたスーパースターであり、その業績になんら異議を唱える点はない。しかし一度引退を発表したアスリートがまた復帰してきた場合、そこで必ずわりを食うアスリートが出る。彼等がいなければ一線に出れるアスリートが、辛抱を強いられるのだ。そういうアスリートにとっては、一度引退を発表した者がまた現役に復帰してくるというのは、腹立たしいこと以外の何ものでもないだろう。まさしく今回のレノ-オブライエンがそうだ。オブライエンに対してだけでなく、レノが一般的視聴者に対しても潔くないという印象を与えたことは否定できない。


さらに昨秋、レノが毎夜10時から1時間枠で自分の番組を持ったことによって、NBCの10時台の編成からドラマが消えた。このことは、ハリウッドの多くのプロデューサー、俳優、その他のスタッフから仕事を奪ったことを意味する。それがレノの本意ではなかったにせよ、結果としてそうなった。レノは悪者視されるようになり、業界内での立場は悪化した。


公平を期して言うと、レノは今回の中傷悪口いびり合い合戦において、少なくともNBCに対して以外は、オブライエンやレターマンに対して自分から口撃を仕掛けてはいない。必ず後攻めで応戦するだけに留めている。オブライエンに対しては同情する意見を口にすらしている。しかし、そういう、どちらかというと消極的な事態への対応の仕方が、逆に自分の首を絞めることにもなったという印象も否めない。結局、できるだけ波風立てずに、相手も立てて自分のダメージも最も少なくなるように最上と思える手段を選択してきた挙げ句が、最悪の結果を招いた。


いずれにしても、最終的に番組がビジネスであり、NBCがオブライエンの「トゥナイト」を失敗であると断じ、可及的速やかになんらかの対応をとる必要があるということを第一に考えている以上、オブライエンは放送時間の調整になんらかの譲歩をせざるを得ず、もしそれが嫌なら、番組を去ることを求められた。そしてオブライエンは4,500万ドルという違約金を手にして、NBCを去る道を選んだ。NBCによる番組枠移動の梃入れ策が公になってから2週間、すったもんだの経緯を経て、オブライエンによる「トゥナイト」の最終回は、1月22日に放送された。


(この項続く)








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ザ・ジェイ・レノ・ショウ   ★★1/2

 
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