また冬季五輪の時期がやってきた。4年前のヴァンクーヴァー五輪の時は、もちろんオリンピックも楽しんだが、アメリカのTV界、特に深夜トーク・ショウ好きの人間にとっては、オリンピックにも勝る話題を提供したのが、深夜トークを巡る業界大改編だった。「トゥナイト」と「レイト・ナイト」の、アメリカの深夜トークを代表する2本の番組が、オリンピックの前と後でホストを交代、深夜トーク界の地図はまったく新しく塗り替えられた。
そして4年後、今度はソチを契機にまた同じことが起こった。正確には4年前と異なり今回は最初から織り込み済みの予定通りで、同じことではないが、激震の度合いは同じか、さらに大きいとすら言える。4年前に再び始まったジェイ・レノがホストの「ザ・トゥナイト・ショウ」が再度終わりを告げ、そしてその後釜として新ホストにジミー・ファロンが就任する。そしてファロンは、それまで担当していた「レイト・ナイト」ホストの座を、後任のセス・マイヤーズに譲り渡す。
NBCはソチ五輪の直前に旧「トゥナイト」と「レイト・ナイト」に最終回を迎えさせ、毎晩プライムタイムに編成して視聴率の跳ね上がる五輪中継の合間に新「トゥナイト」と「レイト・ナイト」を充分番宣しておき、五輪中継の第二週目から、ファロンがホストの「トゥナイト」が始まり、五輪が終わった直後からマイヤーズの「レイト・ナイト」がそれに続く。しかし何はともあれ、今度こそ本当の本当に最後を迎えるレノの「トゥナイト」だ。
放送最終週の「トゥナイト」ゲストは、以下の通り。
2/3 (月): ジミー・ファロン、ベティ・ホワイト。音楽ゲスト: ボニー・レイット
2/4 (火): マシュウ・マコノヒー、チャールズ・バークリー。音楽ゲスト: ライル・ロヴェット
2/5 (水): サンドラ・ブロック、ブレイク・シェルトン。音楽ゲスト: ヴィンテージ・トラブル
2/6 (木): ビリー・クリスタル。音楽ゲスト: ガース・ブルックス
音楽ゲストがカントリー寄りで、まあ大物揃いなんだろうが私にはほとんどアピールしないことを除けば、さすがの人選と言える。ちゃんと月曜にはファロンも呼んで、なんの含みもないことをまずは伝える。とはいっても前回、一度コナン・オブライエンにホストを明け渡した時も、オブライエンを最終回のゲストに呼んでよいしょしておきながら、一年と経たないうちに泥沼になってしまったわけだから、ファロンも安心はできない。
という懸念を、ファロンは「レイト・ナイト」でスキット化して見せた。NYのファロンとLAのレノが、お互いに電話で心情を語りながら、段々声高くオペラのように歌い上げていく。音楽センスなら人並み以上のファロンはともかく、レノの場合は吹き替えだろうと思うが、しかしあれは笑った。
「トゥナイト」の最後の週のゲストで印象的だったのがサンドラ・ブロックで、現在「ゼロ・グラビティ (Gravity)」で注目されているとはいえ、結構叩かれた時期もあり、人気稼業の辛さが身に染みてわかっているブロックは、どんな時でもレノはサポートしてくれたと涙ぐんでいた。
そして今度こそ本当に最後で最後の最終回、まずは冒頭のモノローグでこの22年間で変わったことを一くさり。22年前はこの世にジャスティン・ビーバーは存在していなかった、古き佳き時代、というのが最も受けた。レノの今後へのアドヴァイスということで大挙してヴィデオで登場したセレブの筆頭は、スティーヴ・キャレル。これはコナン・オブライエンがホストをしていた時の「トゥナイト」の最終回で、同様にキャレルが、主演していたNBCの「ジ・オフィス (The Office)」のキャラクターのまま登場してオブライエンにクビを宣告したことを覚えていると、さらににやりとさせる。
その後もオリヴィア・ワイルド、ケヴィン・ベーコン、ビル・マー、ボブ・コスタス、マット・デイモン、マーク・ウォールバーグ、マイリー・サイラス、チャーリー・シーン、マーサ・スチュワート、ジミー・ファロンといった面々が次々と現れて一言述べる。バラク・オバマは合成か?
そして番組の最後のゲストはビリー・クリスタル。クリスタルは前「トゥナイト」でも終わりに呼ばれ、今回もトリを飾る。さらにクリスタルは、22年前のレノの「トゥナイト」の番組第1回の最初のゲストでもあったそうだ。見ているはずだと思うのだが、既に記憶は忘却の彼方だ。そのクリスタルの案内によって、「サウンド・オブ・ミュージック (The Sound of Music)」の「ソー・ロング、フェアウェル (So Long, Farewell)」に合わせてセレブらが登場、レノに別れの挨拶を述べる。現れたのはジャック・ブラック、キム・カーダシアン、NBAのクリス・ポール、シェリル・クロウ、ジム・パーソンズ、キャロル・バーネット、そして最後にオプラ・ウィンフリーという錚々たる面々。
最後の音楽ゲストはガース・ブルックスで、2曲歌う。曲の間のコマーシャル直後にはレノがこの二十何年間ありがとうという、前回はなかった最後のモノローグならぬスピーチをした。今回は何か言わないとという本人の気持ちもあったろうし、周りもそう思ったろう。前回は淡々と終えた最終回だったが、今回はレノも感極まるものがあったようで、声が割れ、涙が滲む。色々揉めたこともあったとはいえ、この長い期間、ほとんど常に時間帯で視聴率トップを維持してきたのはさすがと言える。
ところで前回のごたごたの後辞めたバンド・リーダーのケヴィン・ユーバンクスに代わって現在バンド・リーダーを務めているリッキー・マイナーは、今回当然ながら職を失うことになった。その後しばらくしてFOXの「アメリカン・アイドル (American Idol)」を見ていたら、そのマイナーがバック・ バンドを率いてプレイしているではないか。すぐさま再就職先が決まったようだ。
さて、レノはさすがに今回は、すぐどこかでまた深夜トークのホストをするという話はまったく聞かない。実際本人も暫くの間はなにもする気はないようで、今回は「トゥナイト」を終わる正しいタイミングとしていた。これでTVからすっぱり足を洗って今後何もしないということはないと思うが、それでも当分は静かにしているものと思われる。