Tolkien


トールキン 旅のはじまり  (2019年5月)

特にファンタジーが好きというわけでもなく、J. R. R.・トールキン原作の「ロード・オブ・ザ・リング (The Lord of the Rings)」も押さえてなければ、「ハリー・ポッター (Harry Potter)」も全部は見ていない。最近最も話題となったHBOの「ゲーム・オブ・スローンズ (Game of Thrones)」も、さすがに誰もが話題にするバトル・シーンくらいは見てないと話できないかと思ってチャンネルを合わせてみたが、途中から見ているということもあり、映像のテクノロジーに感心こそすれ、話自体には感情移入できない。やはり一番気になるのは、これまた大きな話題となった、テーブルの上に忘れられたスターバックスのコーヒーなのだった。 

  

一方、同様にまったく新しい世界をゼロから構築するSF作品、たとえばクリストファー・ノーラン作品等は、いまだに面白く見ている。どうやらファンタジーは、あの魔術とか中世然とした世界観が今イチ好きではないようだ。とはいえ宮崎駿的世界は結構面白いと思って見ている。アニメとなって完全にフィクショナルな世界になるとそれはそれで受け入れられるが、そうじゃないと現実でもフィクションでもないどっちつかずになるところが、私自身の中でしっくり来ないようだ。ファンタジー好きには、これが完全にフィクションではない点こそが逆にアピールするんだろうと思う。 

  

他方、だからといってこれらの作品の原作者に興味がないわけではない。まったく新しい世界をゼロから構築する、これらの者たちの頭の中身や精神構造がどうなっているかは、むしろかなり興味を惹かれる。 

  

というわけで「トールキン」、見に行ってきた。話は第一次大戦に従軍しているトールキンが、そこで親友を亡くし、自分も死線を彷徨うところから、子供時代に遡って生い立ちやどのように成長したかを描く。 

  

トールキンは幼くして両親を亡くし、その後ずっとカトリックの司祭の庇護の元、学校に通う。生まれたのは現在の南アフリカだそうで、後に英国に戻る。どうやら母親は物語を作る能力に長けた女性だったようで、トールキンはその血筋を受け継いでいるようだ。 

  

バーミンガムで学校に通うトールキンは、最初は孤立していた、というか、ほとんどいじめに近い扱いを受ける。ただしこのくらいの年頃の子は、喧嘩や対話など一つきっかけがあれば態度が180°変換するのもよくある話で、トールキンも3人の級友と親しくなる。この関係は長じてもずっと続いた。 

  

時は20世紀になったばかりで、ヨーロッパの情勢はきな臭くなり、やがて第一世界大戦を迎える。血気に逸る若者が、いかにも若気の至り的な気持ちで参戦し、ほとんどの者は幻滅を味わうか、あるいは運の悪い者は死んでしまうというのは、「戦場からのラブレター (Testament of Youth)」でよく描かれていたし、「ディバイナー 戦禍に光を求めて (The Water Diviner)」「婚約者の友人 (Frantz)」「光をくれた人 (The Light Between Oceans)」等は、戦争で身体や心に痛手を負った者を描いていた。そしてトールキンもその一人だった。どうやら士官的立場で参戦していたようだが、それでも他の戦士と同じように、怪我を負い、幻滅し、友人を失う。 

 

映画を見ると、この経験が「指輪物語」執筆に関して大きな影響を与えているような印象を受けるが、実は参戦の経験が多少の貢献はしていても、特に執筆と直接的な関係はないらしい。かなりの脚色があり、映画はトールキンの遺族団体からお墨付きをもらっているわけではない。私の読んだ記事では、トールキン財団は映画を認めていないという趣旨のようなことを書いてあった。 

 

映画ではトールキンは、イーディスの勧めもあって「指輪物語」を書き始めたことになっているが、実際には当時オックスフォードの教授だったトールキンが、終わらない採点にうんざりしている時に何も書かれていない答案用紙に感激して、その余白に、「地表へと続く穴の中にホビットは住んでいた‥‥」という「ホビット」の発端を書き始めたことからすべては始まったとしている。問題に答えられなかった学生は、実は暗にその後のファンタジー文学の歴史を変える一大事に貢献していたことになる。 

 

トールキンに扮するのはニコラス・ホルトで、 最近では「女王陛下のお気に入り (The Favourite)」にも出ていたし、タロン・エガートンと並んで近年の英国の若手俳優で最も活躍している一人。イーディスに扮するリリィ・コリンズは、今回初めてフィル・コリンズの娘ということを知った。そういえばどことなく面影がある。最近、拒食症の役に扮して激痩せして話題になっていたNetflixの「心のカルテ (To the Bone)」に出ていたと思ったら、ミニシリーズの「レ・ミゼラブル (Les Miserables)」にも出ていた。あの印象的な眉は、父ではなく母親譲りなんだろうな。 











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宣教師の母の子として生まれたJ. R. R.・トールキンは、想像力豊かな母の元で思う存分想像の力を羽ばたかせながら育つ。しかし母は早逝し、トールキンはバーミンガムのカトリックの司祭の家に引き取られ、教育を受けさせられる。しばらくは学校で友達のいないトールキンだったが、次第に学校に通っている校長の息子やその他の友人ができ、強い絆で結ばれるようになる。一方、司祭の家は他にも子どもたちを引き取って育てており、成長したトールキン (ニコラス・ホルト) はその中の一人イーディス (リリィ・コリンズ) に惹かれ、デートするようになる。やがて第一次大戦が勃発し、トールキンも参戦を決意する‥‥ 


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