Titanic


タイタニック  (2012年4月)

ジャック (レオナルド・ディカプリオ) は新天地での生活を夢見て賭けポーカーに勝ち、英国からアメリカに向けて処女航海に旅立つタイタニックの乗船チケットを手に入れる。一方、ローズ (ケイト・ウィンスレット) は家柄はよくてもほとんど金の残っていない家に育ち、戦略結婚によって金持ちのカル (ビリー・ゼイン) と結婚することになっていた。絶望したローズは夜、船上から身投げしようとしたところをジャックに助けられる。二人は急速に接近するが、もちろんカルや ローズの母ルース (フランシス・フィッシャー) はそのことを快く思っていなかった。そして二人がついに結ばれたある夜、タイタニックは氷山に衝突する‥‥


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今年4月はタイタニック沈没100年の節目に当たるそうだ。道理で春先から至るところでタイタニック関係の話を目にすると思った。ディスカバリー・ チャンネルやナショナル・ジオグラフィック・チャンネルを中心に、タイタニック関係のドキュメンタリーが引きも切らずに編成されているし、ネットワークのニューズ・マガジンでもやたらと特集されていたりする。「タイタニック」を撮ったジェイムズ・キャメロン自ら、小型潜水艇に乗ってタイタニックの沈没現場に単独潜水して再訪するという企画もあった。


こないだ見たニューズでは、タイタニックが沈没したその場所に行って献花するというセレモニーもあったそうで、本当にタイタニックに乗っていた犠牲者の遺族に話を訊いていたりした。なるほど、あれは映画ではなくて本当にあったことなんだなという認識を新たにする。今では私のように、事実としてではなく、映画としてタイタニックを記憶している者の方が多いだろう。


そして多くの者にとって、ジェイムズ・キャメロン演出、レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット主演の「タイタニック」が3Dとして再公開されるのがこれらの記念イヴェントの白眉というのも、また確かだろうと思われる。考えたら、史上ナンバー1の興行収入を誇る? 「タイタニック」が公開されたのが1997年、それから既に15年という月日が経つ。時間が経つのは本当に早い。


当時は私はまだニューヨークのクイーンズ在住で、その時に映画を見た劇場がまだ残っているかも定かではない。ちょっとがたが来始めて特に座り心地もよくなかった固めの椅子で、うちの女房は、ほぼ3時間、身じろぎもしないで食い入るようにスクリーンを凝視し続けていた。私がちょっと姿勢を変える度に隣りを見ても、 ずっと同じ姿勢のままだった。今こんなことしたら、身体が固まってしまって映画が終わっても立てない。


撮影中に出演者/関係者が食中毒で倒れる など撮影が遅れ、予算が雪だるま式に膨らみ、コケたら20世紀FOXは潰れかねないとまで言われ、なんか、みんな映画が盛大にコケるのを楽しみにしていたという印象すらあった「タイタニック」が、いざ蓋を開けると記録を塗り替える史上最大のヒットとなった。公開時に普段は辛口のニューヨーク・タイムズが、 映画という媒体の最も深いところまで届く傑作、というような、ほとんど初めて目にするくらいの激賞をしていて、その時の私のアメリカ人の同僚が、そこまで誉めるのかと感に堪えないという感じだったのも思い出す。スモーカーだったその同僚も肺ガンに侵され、既にこの世にない。時が経つのは本当に早い。


そういう、確かに多くの記憶と結びつき、傑作であることは論を俟たない「タイタニック」ではあるが、しかしだからといってその「タイタニック」を、3Dになったからといってまた劇場で見たいかというと、実はそれは微妙だ。面白いのはわかっているが、しかし、それでも、私は「タイタニック」の3時間という上映時間は長いと思う。


まだ初々しいディカプリオとウィンスレットに魅力があるのは間違いなく、スペクタクルの演出では右に出る者のないキャメロンではあるが、しかし、タイタニックが氷山に衝突するまでの2時間は、特にできがいいかというと、まだもっと切れる、会話に手を入れられる、もっとタイトに演出できると思う。2度見ると、15年前に見た時より、セリフ自体は結構陳腐であることに気づく。ほとんど紋切型といっていいくらいなのだが、しかし、もしかしたらこういう紋切型だからこそ逆に時代に関係なく、永遠のクラシックになれたのかもしれないとも思う。


それにタイタニックが氷山に衝突してからの面白さは、今見ても無類だ。これに匹敵する作品というのは確かにそうはない。最初の2時間我慢させらた反動というのか、一気にアクションが炸裂する。それでも、では3D版を見るかと訊かれると、正直言って腰が重かった。他にも見たい新作は続々と公開されている。そちらの方を優先したい気持ちの方が強かった。


それを撤回して見に行ったのは、劇場で見せられた予告編にある。どんなにTVで予告編を見せられてもふーんで済んでいたものが、劇場で「タイタニック」の予告編を再度でかいスクリーンで見せられると、これはさすがに来るものがあるのだった。これが3Dになるのか、うーん、これが3Dか、うーん、やっぱり見てみたいかも。


しかし、見てきた後の率直な感想を言うと、さすがに大きなスクリーンで見る迫力は以前と変わらず大したものがあったが、では、だから3Dにした価値があったかというと、うーん、特に 3Dだからというメリットは感じなかった、というのが正直なところだ。いくら15年前から技術は上がっているとはいえ、最初から3Dで撮影したわけではない後付けの3Dでは、その効果が十全に発揮できているわけではないと思う。後半の、タイタニックが氷山に衝突して後にこそ3D効果を期待したが、3Dはそ こではなく、むしろ別に特に3Dである必要があるとも思えない現代のシーンで、お、と思わされたりした。うちの女房もさすがに今回は少し余裕があって、 時々姿勢を変えてリラックスしながら見ていた。


一方、上述したように、今年はタイタニック沈没事故関係のドキュメンタリーやドキュドラマがいくつも編成されている。キャメロンの「タイタニック」という作品があるのにもかかわらず、ABCはわざわざタイタニックをミニシ リーズのドラマとして製作放送している。ライナス・ローチ主演で、TV番組としては金がかかっている方だと思うのだが、それでも、キャメロンの「タイタニック」を見た後で、しかもスクリーンではなくせいぜい42インチのうちのTV画面だと、もう、はじめから勝負にならないとしか言いようがなかった。


例えばTV版では、タイタニックが水没した後、多くの者は海中で海水の冷たさに耐えられずに死んだ者が多かったはずだが、誰も白い息など吐いてない。キャメロン版「タイタニック」で、水に浸かってがぶるぶる震えているディカプリオのまつ毛に氷がうっすら積もっているという芸細を見た後だと、比較することすらためらわれる。単純に画面の大きさ、迫力という点だけでなく、改めてキャメロンが細部まで細心の注意を払って「タイタニック」を作っていたことがよくわかる。


つまり、今回は最初に見た時ほどの感動はなかったとはいえ、それでも、まだ「タイタニック」を見たことがない者が、生まれて初めての「タイタニック」体験を3Dで見れるのなら、それはラッキーだと思う。充分に楽しんでくれと思う。









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