Thor: The Dark World


マイティ・ソー: ダーク・ワールド  (2013年11月)

マーヴェル・コミックスのスーパーヒーローは、共闘することで知られている。一人だと歯が立たない相手に、スーパーヒーローたちが共同で立ち向かう。この趣向はTVアニメーションにも踏襲され、ディズニーXDで「ジ・アベジャーズ: アースズ・マイティスト・ヒーローズ! (The Avengers: Earth's Mightiest Heroes!)」、「マーヴェルズ・アベンジャーズ・アッセンブル (Marvel's Avengers Assemble)」が製作放送されている。 

  

それでも製作に金と時間のかかる映画においては、まだこれまでは、例えばアイアンマンことトニー・スタークが他の作品の最後にちらりと顔を出すくらいのもの でしかなかった。しかし、ついにマーヴェルのスーパーヒーローたちを映画でも集結させてしまった昨夏の「アベンジャーズ (The Avengers)」が、すべてをこんぐらがらしてしまった。 

  

活躍している場所が違うだけならまだしも、次元と時代を超えてスーパーヒーローを集結させた結果、面白いっちゃあ面白いが、しかし我に返ると、そんなバカな という破天荒な作品ができ上がってしまった。第二次大戦時代のスーパーヒーローが冷凍睡眠を経ていきなり現代に甦ったり、空を飛べるロボット化したスーパーヒーローと弓矢で相手と戦うスーパーヒーローと見知らぬ宇宙からやってきたなぜだか英語を話すハンマーを持ったスーパーヒーローと怒ると体が緑色になって巨大化するスーパーヒーローたちが同じ土俵で戦うという荒唐無稽さは、コミックスやTVアニメーションでは特に気にならないものの、実写として提出されると、正直言って罵倒する気にすらならないくらい常軌を逸していると言うしかない。 

  

さらには今秋、ABCで実写版の、今度はスーパーヒーローではなく、地上でそのスーパーヒーローたちを補佐する縁の下の力持ち的存在だった人間のエージェントたちに焦点を当てるSFドラマ、「マーヴェルズ・エージェンツ・オブ・シールド (S.H.I.E.L.D) (Marvel's Agents of S.H.I.E.L.D.)」 の放送も始まった。これらの多くのスーパーヒーローを一か所にまとめるという事実から受ける印象は、スーパーヒーローの囲い込みというものだ。その結果、 スーパーヒーローは自由契約スーパーヒーローとしてそのうち活躍の場が契約によって制限され、自由に悪人悪宇宙人を懲らしめるわけにもいかなくなるに違いない。そのために地上にスーパーヒーローたちを束ねるエージェントがいるんだろ? この分だとスーパーエージェントが登場してくるのも時間の問題だ。 

  

また、スーパーヒーローを大安売りした結果、彼らはたぶん自分の保身、契約の方に気をとられているからだろう、近年のスーパーヒーローたちが遍く通ってきた、自分の存在に対するアイデンティティの確立という問題とはほぼ無縁だ。アイアンマン=トニー・スタークやハルクのように、一人スーパーヒーローになるとやはり自身の立つ位置という問題が浮上して悩み始めるが、それでもどう見ても総身に知恵が回りかねたソーなんかは、どこにいようとのほほんと今眼前にある問題以外は眼中にないという感じで暴れまくる。 

  

特にその、後先見境なく暴れるソーが「アベンジャーズ」で主演級の活躍をしたために、逆に今回、そのことを無視して続編を製作するわけにも行かなくなってし まった。ソーが「アベンジャーズ」で主人公然となった最大の理由は、ソーの弟のロキが、「アベンジャーズ」で悪役になったことにある。「マイ ティ・ソー」においても主人公に匹敵する人気のあるロキは、むろんだからこそ「アベンジャーズ」においても重要な役として抜擢されたが、そこで打ち負かされたロキを、今度はさも何もなかったようにしれっとまた「マイティ・ソー」に出すわけにもいかない。というわけで「ダーク・ワールド」では、ロキは「アベンジャーズ」の続きで、囚われの身として幽閉されていることになっている。 

  

一方、地上ではジェインがソーのことを忘れかねていた。そういうジェインに、ロンドンで重力と次元を無視した不可解な現象が起こっていることが報告される。 その場所を調査したジェインは、遠い昔にアスガルドの戦士たちがダーク・エルヴズたちと戦った時に、破壊できずに遺棄していた負の力の源エーサーに触れ、 体内に負の力を宿してしまう。遠くアスガルドからジェインの異変を感じとったハイムドール (イドリス・エルバ) からの報告により、ソーはまたしても地球に向かう‥‥ 

  

マーヴェルやDCコ ミックスのスーパーヒーローは枚挙に暇がないが、ご都合主義という点では、やはり「マイティ・ソー」に止めを刺す。遠い遠い昔、アスガルドの神たちがいっ たんは勝利を収めた戦いにおいて、ダーク・エルヴズの力の源だったエーサーは、実はロンドンの地下奥深くに隠されていた。思わず、なんだ、それと突っ込み を入れたくなるのは私だけではあるまい。設定だけを見ても、これ、「トランスフォーマー (Transformers)」のキューブのパクリだろうと思わざるを得ないし、実は地球がアスガルドの実質上の監視下にあり、ロンドンの地下深くに隠されていたエーサー共々常に動向を把握されていたというのも、ご都合主義の誹りを免れ得まい。 

  

そうか、だからソーは地球を守る必要上、英語も最初から勉強してあったわけか。というか、アンソニー・ホプキンスやレネ・ルッソやついでにマレキスまで英語を流暢に操っているところを見ると、神々の世界では英語は必修科目に指定されているようだ。同じく宇宙から来ていても、ウルトラマンの場合、日本語をしゃべれたのは日本人のハヤタ隊員の身体を借りていたからだが、「マイティ・ソー」ではそういう方便すら用いずに、異次元から来た神々が当然の如く英語をしゃべる。 

  

そういう、おいおい、とか、まじかよ、とか、突っ込みどころ満載の「ダーク・ワールド」が、では面白くないかというと、実は私は結構楽しんだのだった。だい たい、既に成功している設定の踏襲は、オリジナリティの欠落という点を気にしなければ、古典の模倣と一緒で、要するにツボを押さえる第一歩に他ならない。 

 

「ダーク・ワールド」の場合は、それに現在CBSの「トゥ・ブローク・ガールズ (Two Broke Girls)」に出演中の、ダーシーに扮するキャット・デニングスのコメディ・リリーフ振りが要所要所で決まっており、さらには今回、プロフェッサー役のステラン・スカースガードもコメディに徹することで話にメリハリがつき、サクサクと話が進む、肩の凝らないエンタテインメントに仕上がった。だいたいソー自身が元々ちょっと抜けているキャラクターだからな。批評家からはあまり誉められているのを見ないが、興行成績の好調さが人々には受け入れられていることを証明している。ところで浅野忠信って今回出番はあったんだっけ? 













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ロキ (トム・ヒドルストン) の野望はアベンジャーズの面々の活躍によってひとまず阻止され、人類はひと時の平安を得た。しかしソー (クリス・ヘムズワース) に好意を抱いたジェイン (ナタリー・ポートマン) は、 それなのにソーからは何の連絡もなく悶々とする毎日だった。そこへロンドンで重力が異常になるという原因不明の現象の知らせがもたらされる。それこそは遠い昔にダーク・エルヴズたちが宇宙を滅亡させるために必要とした物体エーサーが起こしたもので、ジェインは誤ってエーサーの力の一部を自分の身体の中に取 り入れてしまう。遠くアスガルドからジェインの異常を察知したソーは、再々度地球に向かう。ソーはジェインをアスガルドに連れて帰って何とかしようと考えたが、それはむしろ事態を混迷させるだけだった。ダーク・エルヴズを率いるマレキスは、その機に乗じてアスガルドに攻め込もうとする。防衛の要を攻め落とされたアスガルドにダーク・エルヴズを防ぐ力は残ってなく、ソーは最後の手段としてロキの力を借りようとするが‥‥


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