This Week with Christiane Amanpour    ディス・ウィーク・ウィズ・クリスチャン・アマンポア

放送局: ABC

プレミア放送日:  11/15/1981 (Sun)

クリスチャン・アマンポアのファースト・エピソード放送日:  8/1/2010 (Sun) 10:00-11:00

ホスト: クリスチャン・アマンポア


内容: クリスチャン・アマンポアが新ホストに就いた日曜朝の時事番組。


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どこから始めたらよかろうかとふと思案するが、クリスチャン・アマンポアがABCの日曜朝の時事討論番組「ディス・ウィーク」就任が決まるまでは、色々と紆余曲折があった。アマンポアが新ホストに抜擢されたのは、前ホストのジョージ・・ステファノポロスが番組を去って朝のニューズ/ヴァラエティ「グッド・モーニング・アメリカ (Good Morning America: GMA)」に移ったからだし、ステファノポロスが「GMA」に移動したのは、前ホストのダイアン・ソウヤーが「ABCワールド・ニューズ (ABC World News)」アンカーに就任したからだ。


ソウヤーが「ワールド・ニューズ」に去ったのは、前アンカーのチャールズ・ギブソンが辞めたからだし、ギブソンが「ワールド・ニューズ」を担当したのは、エリザベス・ヴァーガスの懐妊とボブ・ウッドラフの戦地負傷によってABCの手駒がなくなったからだ。そしてそもそもヴァーガスとウッドラフが「ワールド・ニューズ」を任せられたのは、前任のピーター・ジェニングスが肺がんで亡くなったためであり、2005年来、ABCはお家の事情によって忙しなくキャスターの移動を余儀なくされてきた。そしてたぶん、その近年のアンカー移動劇の最後の幕が、今回のアマンポアの就任によって引かれることになると思われる。


個人的なことを述べさせてもらうと、「ディス・ウィーク」をはじめ、NBCの「ミート・ザ・プレス (Meet the Press)」、CBSの「フェイス・ザ・ネイション (Face the Nation)」が覇権を競う日曜朝の時事番組の時間帯は、一週間で私が最も不得手とする時間帯でもある。朝や夕方のニューズやヴァラエティなら、たとえ平日でもオフィスで目にしたりもするし、深夜のニューズですら、カウチの上で眠りこけたついでに夜中目を覚まして半醒半眠ながらも見ることもあるが、日曜朝の時事番組だけはダメだ。いくら週末は遅寝するとはいっても、10時頃には起きているが、そこで音楽を聴くならまだしも、TVをつけて時事番組を見ようという気にだけは到底ならない。


これは明らかに子供の頃の体験が影響している。私が子供だった60年代後半から70年代前半にかけて、だいたい親、特に父親というのは、わりと真面目に政治のことを気にしていた。まだ安保の熱気が冷めやらぬ時代だ。日本全国津々浦々の家庭にTVが普及し始めたのもその頃のことだ。そこで日曜朝の時事番組が登場する。我々の親の世代は政治の話をしたり聞いたりするのが好きな上に、TVが格好の興味の対象を提供してくれる。この時代、日曜朝に親がTVで時事番組を見ていたという家庭は結構多いのではないか。


うちもそうだったが、しかしこれは子供心には嫌悪の対象でしかなかった。なに言っているかさっぱりわからないし、単純に面白くない。怪獣ものはないのかと思っていたが、子供にチャンネル権はなかった。さらにうちの場合、異様にTV好きの兄がいて、私が見たいと思う番組の意見が通ったことはなかった。父がいない時は、兄が見たい番組と私が見たい番組が一致して初めて、私の見たい番組を見ることができた。都合の悪いことに、兄と私の趣味はヒーローものを除きあまり一致しなかった。こうなるとTVに特に興味は持てない。どうせ私が面白そうだと思う番組は見れないのだ。一家に一台しかTVがなかった時代の話である。私がアメリカに来るまでほとんどTVを見てないのは、そういう子供時代の環境のせいがある。


父と兄という二重の関門があったので、おかげで特に日曜朝は、私はTVを見たという記憶がない。朝早くは私と趣味の違う番組を兄が見ているし、朝ご飯が終わると、父が時事番組を見始める。あの、しかつめ面したむさくるしい面々が意味のわからないことをしゃべってばかりいる番組の、いったい何がおもしろいのかとしか思わなかった。友達と遊ぼうにも、外に出て一緒に遊ぶにはまだ少し早すぎる時間だ。そのため、ガキの頃の日曜朝というと、なにやら暗かったという印象しかない。


こないだ女房とそういう話をしていたら、うちもうちもという話になった。女房のうちは、さらに時事番組が終わると、父がそのままNHKの囲碁番組に移行したそうで、それまではおじさんたちがわけのわからん話をしていたと思ったら、今度はほとんど会話がなくなり、ただただTVの画面いっぱいを白と黒の碁石と碁盤が埋める。そりゃあ辛かったろうと同情した。


さらに女の子の場合、夕方になると男の子より割り合い早めに家に帰って食事の支度の手伝いとかさせられる。そのため夕方から家でなにげについているTVを見ることなしに見てたりする。そういう時にやっているのが、ほぼ例外なしに「サザエさん」なのだ。そのため女房にとっては、「サザエさん」と休みが終わる憂鬱感がセットになっており、おかげで今でも「サザエさん」のテーマ音楽を聞くと、その時の気分を思い出して反射的に暗くなるそうだ。♪お魚くわえたドラ猫♪、どーん、か。国民的家族団らん番組に、そういう反応もある。私がそう思わないのは、元々学校が嫌いじゃなかったこと、「サザエさん」の放送時間帯には外で遊んでいてまだ家に帰っていなかったこと、等の理由が大きい。


話がそれたが、そんなわけでアメリカに来てよくTVを見るようになった今でも、週末、特に日曜朝だけはどうしても抵抗があってTVをつける気になれない。元々ノンポリで、政治に特に興味を持っているわけではないこともある。日曜朝に時事番組なんか見ていたら、一日が台無しになるような気がする。もちろんそうではない者の方が多いから日曜朝にどのチャンネルも時事番組を編成しているのだろうが、私としては日曜朝は音楽から始まるという習性が身に染みついており、今後もこの習慣が変わる可能性はあまりない。


というわけで、「ディス・ウィーク」どころかこの時間帯で最も人気のある「ミート・ザ・プレス」ですら、大統領選挙の時や何か他の大きな事件が起きた時など、数えるほどしか見たことがない。「ディス・ウィーク」となると、実はあまりステファノポロスとアマンポアを比較検証しながら見ることができない。アマンポア版「ディス・ウィーク」のプレミア・エピソードは、当然録画しておいて夜に見たし、今回はあまり深くは突っ込めないなと思いながらこれを書いている。


アメリカのニューズ番組のアンカー/キャスターは、ほとんどの場合、各ネットワークで数年毎に契約を更改しながらキャリアをステップ・アップしていくという経緯をたどる。そのため、ネットワークが温存して大事に成長させようとしている生え抜き中の生え抜きを除いて、だいたい皆複数のネットワークでの仕事を経験している。それでも、最終的に大きな責任を任せられるような地位に就くと、さすがに簡単に移動はなくなる。夕方のワールド・ニューズの場合だと、その地位に就く者を外部から補充しようとはあまり考えないし、就任後は、よほどのことがない限りまずもう動かない。4年前にCBSがNBCからケイティ・コーリックを引き抜いた「イヴニング・ニューズ (Evening News)」は、近年では例外中の例外だ。


一方、「ディス・ウィーク」の場合、ABCのニューズ番組では最もABC色が薄い、というか、ホストを外部から調達する傾向がある。元々その体裁が外部の人を招いた討論が主体であり、内部採用に固執する意識があまりないのかもしれない。ステファノポロスだって元大統領補佐官を引き抜いてきたわけだし、今回のアマンポアはCNNのヴェテランだ。むろんソウヤーだってキャリアの最初の頃はCBSにいたわけだし、全員が全員生え抜きというわけではないが、それでも歴史ある番組のホストの調達を外部から賄ってばかりいるのは、近年では「ディス・ウィーク」くらいだろう。


アマンポアと聞いてすぐに連想するのは、どこぞの戦地からサファリ・ジャケットのようなものを着て現地レポートする姿だ。今でこそ昨年CNNで自分の番組の「アマンポア」を任されてスタジオにいる彼女を見ることの方が多くなったが、それまではともかく世界中を飛び回っていた特派員、という印象の方が強かった。今でもブラウスにジャケットという姿を見ると、違和感の方が強い。英語、フランス語、ペルシア語に堪能だそうで、その辺も特に中東で重宝された理由がある。


もちろんABCはそのことを強く意識しており、今回アマンポアを起用したことで、番組はこれまでより国際色、世界を視野に入れた政治に焦点をシフトしていることを強調している。「ディス・ウィーク」に限らず日曜朝のネットワークの時事番組は、ワシントンD.C.、つまりアメリカの政治中心だ。アメリカが世界の中心という自負もあろう。アメリカの政治を語ることは世界の政治を語ることでもある。だからこれまではそれでもよかった。しかし現在では、世界の情勢はアメリカにいただけでは見えないことはもはや常識だ。そういった認識を踏まえた上での今回のアマンポア起用、および番組構成の見直しになっている。


そのアマンポアをホストに迎えての番組第一回は、ゲストが下院議長のナンシー・ペロシ、および国防長官のロバート・ゲイツで、二人に対するインタヴュウがだいたい15分くらいずつ、後半が各界識者を交えての討論となった。いきなりこれ以上ないくらいのメンツで、これを超えられるのはたぶんゲストにバラク・オバマ大統領とヒラリー・クリントン国務長官が来る時だけくらいだろう。


とはいえ、私が本当にエンジョイしたのはクロージングの、各ネットワークの深夜トーク・ショウのホストのモノローグを抜粋したパートで、当然笑えるのはここだけということもあり、一番楽しんだ。まあ、番組を見るほとんどの者は、このパートを見るためだけにチャンネルを合わすことはまずないと思うが。


アマンポアのホスティング、インタヴュウを見ての印象は、かなりダイアン・ソウヤーが「ワールド・ニューズ」が始まった時を思い出させるというものだ。とはいえアマンポアはこれまでほとんどハード・ニューズ一筋ということもあり、元々固いという印象は強く、その点では軽い朝のヴァラエティ/ニューズの「GMA」の経験が長いソウヤーとは違う。アマンポアのそういう印象は、特派員としてではなく自身がホストとなったCNNの「アマンポア」でも変わらなかったが、「ディス・ウィーク」でもほとんど同じ印象を引きずっている。


というか、天下のネットワークの番組の第一回ということもあり、印象はさらに固い。元々こういうシリアスさが持ち味でもあったし、気負うなというのが無理かもしれない。注目度は高いし、ここでまた「ミート・ザ・プレス」に差をつけられるようなことになったら、外野から何言われるかわかったものではない。因みにアマンポアの年棒は200万ドルだそうで、それだけの責任と期待がかかっていると思うと、緊張もするだろう。


現時点では、アマンポアが新しく「ディス・ウィーク」ホストに就任したことによる視聴率の大きな変化は見られない。真価を問われるのはこれからになるだろう。コーリックになってからの「イヴニング・ニューズ」は、現時点では明らかに視聴率の低下が見られるが、ソウヤーの「ワールド・ニューズ」は始まってから1年近くが経とうとしているが、いまだに健闘している。元々コーリックよりソウヤーの方がハード・ニューズの経験は豊富であり、これはわからないことではない。アマンポアもうまく馴染んでいく気もするが、まあお手並み拝見というところか。


たぶん、少なくともABCに関しては、社内番組のアンカーの移動はこれで一段落ついたと思われる。少なくとも現段階では、今後ホスト/アンカーが移動するという噂は伝わってこない。とはいえこれで一息つくのはABCだけであり、他のチャンネル、特にケーブル・チャンネルは、近年大きく動いている。


特にそれが顕著なのが、最も知名度のある名前の一人だったアマンポアを引き抜かれたCNNだ。アマンポアがCNNを去る発表があったのが3月、7月には今度はやはりCNNのヴェテラン、キャンベル・ブラウンが自身の名を冠した「キャンベル・ブラウン (Campbell Brown)」を辞めることを発表した。そして最後の重鎮、ラリー・キングも、今年限りで「ラリー・キング・ライヴ (Larry King Live)」を降りることを発表、CNNは今、激震の真っただ中にいる。かつて湾岸戦争が始まった時に、アメリカ軍によるイラク砲撃の映像をスクープして世界中に名を轟かせたCNNも、今では青息吐息だ。


ブラウンの後任には、セックス・スキャンダルを起こして職を追われたNY選出の元政治家のエリオット・スピッツァーと、政治コラムニストのキャスリーン・パーカーがホストを担当する新番組の秋からの編成が決まっている。キングの後釜も、NBCの「アメリカズ・ガット・タレント (America’s Got Talent)」のジャッジ、ピアース・モーガンの起用が発表になっている。アメリカのネットワークのニューズ界を襲ったホスト/アンカー交代の激震は、今度はケーブル・チャンネルに飛び火している。








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ディス・ウィーク・ウィズ・クリスチャン・アマンポア   ★★1/2

 
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