The Wailing


ザ・ウェイリング (哭声/コクソン)  (2016年6月)

この映画を見つけたのはまったくたまたまだ。最近久しく日系スーパーのミツワに行ってないので、久し振りに日本の食材でも仕入れがてら、これまた近くの、しばらく足を運んでないマルチプレックスで映画でも見ようかなと、見る映画ではなく、場所を先に選んでそこでかかっているタイトルをチェックしていて見つけたのが、「ザ・ウェイリング」だ。


それまでは「ウェイリング」というタイトルは見たことも聞いたこともなかった。ちょっと中身をチェックしてみると、ホラー、しかも韓国産のホラーだ。ミツワのあるエッジウォーターは、ニュージャージーでは最も大きなコリアン・タウンであるフォート・リーに隣接している。そのため、よく韓国映画がかかる。


いずれにしても、ほほう、下火になったとはいえ、一時期世界中を席巻したコリアン・ホラーか、しかもわざわざアメリカでやっているくらいだから面白いに違いないと、興味が湧いてきた。最近は韓国映画にも無沙汰しているから、ナ・ホンジンという監督名は聞き覚えがなかったが、出演者にJun Kunimuraという名を発見する。


これは日本人だろう。実はここんとこ日本映画もほとんど見てないのでクニムラ・ジュンという名も初耳だったのだが、ちょっとフィルモグラフィを見てみただけで、大量の出演作があった。かなりのヴェテラン俳優のようだ。それがコリアン・ホラーに客演か。これまた興味をそそられる、と、もう俄然これに決める。


最初、上映が始まって場所だか年代だかの説明にハングルで字幕が入った時は、一瞬ぎょっとする。アメリカでは特定の移民の多い地域において、その移民の国の言葉で字幕を入れる場合があるからだ。そうやってスペイン語字幕の入った「トランスフォーマー (Transformers)」を見たことがある。その時はセリフ自体は英語なので大勢には影響なく事なきを得たが、今回は、これ、韓国語の話だろう? その上字幕までハングルってことはないよな、もしそうなったら完全にアウトだ。


よく考えたら、二世が多くて韓国語を解さない韓国系住民のために、英語字幕がつくことはあってもハングルで字幕をつけることはあるわけないと思う。英語圏上映時に、英語でクレジットを入れてたりするから逆にハングルの字幕を入れたのだと気づいたが、最初まったく読めないハングルの字幕を見た時には、一瞬戦々恐々としたのだった。


韓国の寒村で連続して一家惨殺事件が起きる。時を同じくして村全体に流行り病が発生する。最近村外れには得体の知れない中年の日本人の男が移り住んでおり、村の人々は、男がこれらの尋常じゃない出来事に関係しているのではないかと噂する。ちょっとした様子見から男の素行が現に怪しいことを目にしたジョングらは、次第に男に対して疑惑と怒りを膨らませ、リンチ行動に出ようとする‥‥


あまりない韓国語映画で、上映している映画館も少ないということもあるのだろう、スタジアム・シートでもない300人くらいは入る劇場で8割方人が入っている。しかもたぶん私以外は数人の白人を除くと全員韓国系だ。なんだか映画の中のクニムラ・ジュンの立場みたいな居心地の悪さを感じる。私自身は別に悪いことをしているわけでもないが、お前のせいで村には病気が蔓延してその上最近テロも多いと、あることないこと糾弾されそうな窮屈さを勝手に感じてしまう。だって映画の中ではクニムラは、日本人というだけで流行り病や村の不穏な空気の原因にされそうになるのだ。パニックや暴動ってのは理屈じゃないからなあ。


しかしそれにしてもこの日本人の男の振る舞いは謎だ。一体全体本当に何者なのか。ジョングは娘の憑き物を落とすためにシャーマンを雇い、勉強中の親戚筋の神父見習いを誘う。日本人の男の怪異は、これは鬼か悪魔か妖怪かと、東西の面妖な一筋縄では行かない怪異をごった煮にしてしまう。そのため、この話がいったいどこに着地するのか、見当もつかない。


実際の話、見終わっても日本人の男がなんだったか、確信はない。たぶんxxだったんだろうが、実はxxだったかもしれず、もしかしたら本当はxxだったのだろうかと、今もってよくわからない。シャーマンによるお祓いも神父によるエクソシズム擬きも横溝正史の地方怨念も、一編で全部見られる和洋韓の怪異譚お徳用パックという感じだ。


それにしても韓国のシャーマンは若い男でスポーツ・カーを乗り回し、いざお祓いに入ると、とにかくどんがらがらがらうるさいうるさい。どうやら韓国のお祓いは、憑き物を驚かせて追い払うというのが基本のようだ。あれじゃ逆にしがみつかれないかという疑念もなくもない。


「ウェイリング」はホラーにしては上映時間が長く、2時間半もある。しかし長いと感じさせなかった。充分金払った分の面白さ + 臨場感を体験させてくれた。かつて知人が関係したゲイ映画の上映会で、周りをゲイ・カップルに囲まれた中、一人で来ている男は私一人という非常に肩身の狭い環境で映画を見たことがあるが、似たような気分、というか、今回はホラーであるだけによけい外部の人間みたいな疎外感をひしひしと感じながら見た。得難い鑑賞体験であった。


ところで、私は結構甘いもの好きでもあり、アメリカだけでなく、帰省した時のために東京のベイカリーや甘味処も、時々チェックしている。帰ったらあれ食べようこれ食べようと想像しながらお店を探すのは、結構楽しい。それでこないだたまたまネットをサーフしていたら、ひょっこり國村隼が出てきて、和歌山のあんぽ柿を紹介していた。うーむ和歌山の柿か。韓国の寒村と風景が似ているような気がする。









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韓国の寒村で一家が惨殺されるという事件が起きる。取り柄のない警官のジョング (クァク・ドウォン) も現場に呼び出される。主犯の男は何かにとり憑かれたような目をしていた。時を同じくして村では体調を崩す者が多発していたが、ジョングはきのこにあたったくらいにしか思っていなかった。しかしジョングが出会った謎の女は、これらは最近村はずれに住み始めた日本人の男 (國村隼) が関係していると告げ、村人たちも男の噂をしていた。ジョングは同僚および近親の神父見習いの若者と共に男の住むあばら家を訪れる。そこには、これまで村で起こった惨劇を撮った写真や記録が一面に貼られた隠し部屋があった。しばらくしてジョングの娘ヒョジンもまた謎の病気でうなされ、性格が変わったように狂暴になる。そして日本人の男の家には、ヒョジンの靴があった。男はいったい何者なのか。ジョングの義母は評判の若い男のシャーマン (ファン・ジョンミン) を呼んでヒョジンに憑いたものをお祓いしてもらおうとするが‥‥


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