The Undocumented   ジ・アンドキュメンティド 

放送局: PBS 

プレミア放送日: 4/29/2013 (Mon) 22:00-23:30 

製作: ヒップトゥルース・プロダクションズ 

製作/撮影/監督: マルコ・ウィリアムズ 

  

内容: メキシコからアメリカに砂漠を越えて密入国しようとして、目的地に辿り着けず死亡した身元不明の者たちをとらえるドキュメンタリー。


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The Undocumented


ジ・アンドキュメンティド    ★★★

アメリカと国境を接しているメキシコから、アメリカに違法入国しようとするメキシコ人は後を絶たない。ちょっとあのフェンスを乗り越えさえすれば、楽な暮らしができる可能性が何倍にも膨らむとなれば、貧窮している者がアメリカに密入国しようと考えることを止める手立てはないだろう。どっちに転んでも、これ以上生活が悪くなることはない。 

  

しかし、その考えがかなり甘いことは、国境付近の砂漠で年々増え続けるメキシコからの身元不明の密入国者の死体の数が証明している。砂漠とはいっても微かに 緑はあり、アフリカのサハラのようなどこを見渡しても砂だらけというような砂漠ではないが、それでも年間のほとんどの時期で日中は摂氏40度に達し、砂漠の常として夜はかなり冷え込む。 

  

1990年代に都市部近くの国境の警備が強化されたために、現在密入国するには人里離れたところで越境するしかないが、それだと今度は人の住む都市まで何日間も歩 かなくてはならない。それなのに、まだ年端も行かない子供や、今度はそれこそ孫のいる年齢の者たちが国境を超えようとして命を落とす。2000年頃まではだいたい年間2、30人程度だった死亡者が、数年間でその10倍になった。 

  

単純にメキシコでの人々の生活が急に苦しくなったのではない。元々苦しくはあったが、アメリカに密入国しようと考える者がいきなり増えたのではなく、人里離 れた場所での越境を余儀なくされた結果、過酷な自然環境に耐えきれずに、目的を達する前に死ぬ者が増えたのだ。わざと死者を増やすことで密入国者を思い留まらせようとする、いわゆるスケア・タクティクスの効果も、堂々とではないが当然考えられているという。 

  

カメラは国境で取り締まる警備の者や、発見された遺体の検死官、越境しようとして行方不明となったか、あるいは死体となって発見された誰かのメキシコの家族らをとらえる。だいたい、死体ですらない、運よくか悪くか国境パトロールに捕まった越境者たちは、その時点で既にゾンビ並みにへとへとだ。実際ここら辺で道を間違えたり、土地勘がないとかなりやばそうだなというのは、アレハンドロ・ゴンザレス・イナリツの「バベル (Babel)」が証明している。暑さのせいですぐに意識が朦朧としてやられそうだ。 

  

たぶん向こうでは物もよくないんだろう、履いている靴がぼろぼろになって底が抜けている。こういう時こそいい靴を履いてなければならないだろうに、底の抜けた靴で炎天下を歩かされた結果、足の裏の皮がずる剥けている。見ているだけで痛い。もうこれ以上歩けないからこそパトロールにも見つかった。そして運がいいのか悪いのかパトロールに発見されなかった者は、そこで一生を終える。炎天下で食料がなく歩けない者に待っているものは、死しかないだろう。一日睡眠時間3時間で熱暑の中を強行軍で歩かされるのだという。疲れ切って地べたに蹲り、二度と立てないまま脱水して死んでいく。 

 

そうやって死んで、どのくらいか経って発見された死体は既に腐敗が進んでいる。長い間発見されずほとんど白骨化しているものや、腐敗の真っただ中で悪臭を撒き散らしているものもある。それらは検死に回される。多くの者はIDや連絡先を肌身離さず持っている、というか、虎の子の金と共にベルトやアンダーウェアに縫い込んでいたりする。それがあればいいが、鬼のような奴らがその金やIDを盗んでいった後だと、身元を確かめるのは至難の技だ。なんせほとんどの死体は原型を留めていない。それらの死体はIDなし (undocumented) として、モルグ行きとなる。さらにその何割かは身元不明のまま埋葬される。 

  

密入国というと、暑いメキシコからだけでなく、寒いカナダから冬、凍った湖の上をクルマのトランクに入ってアメリカに密入国しようという、これまた正反対の 危ない密入国者を描いた「フローズン・リヴァー (Frozen River)」ってのもあった。暑かろうが寒かろうがどちらも命がけだ。しかし死んだ場合、腐敗していく死体と凍ってそのままの姿を閉じ込めた死体とでは、どちらが視覚的に強烈かは言うまでもない。 

  

近年、CBSの「CSI」やFOXの「ボーンズ (Bones)」、ABCの「ボディ・オブ・プルーフ (Body of Proof)」等のドラマ、あるいはフィット&ヘルス (旧ディスカバリー・ヘルス) の「ドクターG: メディカル・エグザミナー (Dr. G: Medical Examiner)」等で、死体や解剖には慣れっこになりつつあるという自覚があったのだが、それでも、砂漠で朽ちていく死体、検死台の上に横たわる本物の死体というのは、インパクトある。「ドクターG」だってモノホンの死体なのだが、かなり抑えられているんだなということがよくわかる。 

  

最近では描写はさらにリアルに、強烈になっており、昨年HBOが放送したマイケル・マン製作のドキュメンタリー・シリーズ「ウィットネス (Witness)」でも、なかなか強烈な死体にお目にかかった。そのHBOが先頃から放送している「ヴァイス (Vice)」で、アフガニスタンで自爆テロに巻き込まれて吹っ飛ばされた生首の映像が現れた時は、正直言って言葉がなかった。今の、あれ、人間の首でしょ、いくらなんでも、これ、本当に見せちゃっていいの、と唖然とした。 

 

その点「アンドキュメンティド」はまだいくらかは視聴者に配慮はしているようで、本当に視覚的にひどいと思われる部分にはぼかしが入る。それでも、直接的に 残酷ではないが、思わずぎょっとする描写は多々ある。ある時持ち込まれた白い死体袋のジッパーを開けると、出てきたのは三つのごく普通の茶色の紙袋で、その中には拾われた骨が無造作に入れられていた。既に白骨化してばらばらになっていたのだろう。また、白骨化していない場合は、今度はなめされたような皮膚が骨に張りついていたりする。検死官が遺体から剥がして四つ折りにしたものは、あれは皮膚だったのかそれとも服の切れ端だったのか。等々、逆に想像力を刺激してより強烈というシーンも多い。 

 

いくらメキシコの生活が貧しかろうとも、こういう風になる可能性があっても、それでもアメリカに来なければならなかったのか。ある者は腎臓の悪い息子の医療費を稼ぐために、ある者はかつてアメリカに住んでいたが強制送還されたために、どうしてもまだアメリカにいる妻と子に会いたいがために密入国を強行し、そして命を落とした。ある者はちゃんと正式にヴィザを申告しているのに、許可が降りるまでの時間が待ち切れずに越境に踏み切り、死んだ。どうしても急がなければならない理由があったのか。アンドキュメンティドの死体の数が減少する気配はまだない。 













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