ザ・トンネル   The Tunnel

放送局: PBS

プレミア放送日: 6/19/2016 (Sun) 22:30-23:30

製作: クドース・フィルム&TV、シャイン・フランス

製作総指揮: ラース・ブロムグレン、ジェイン・フェザーストーン

出演: スティーヴン・ディレイン(カール・ローバック)、クレマンス・ポエジー (エリース・ワッサーマン)、ティボール・ド・モンタレンベール (オリヴィエ・プジョール)、セドリック・ヴィエイラ (フィリペ・ヴィオー)、ファニー・ローレン (ジュリー)、エンジェル・コールビー (ローラ・ローバック)


物語: 英仏国境を繋ぐトンネルの中で女性の死体が発見される。死体は国境ラインが記されている場所で、その国境をまたぐように置かれていた。フランスの刑事チームが早く現場に到着し、死体がフランスの急進派の議員であることが判明したために、フランス側の刑事のワッサーマンがイニシアティヴをとって、死体をフランスに運ぶと宣告する。しかしいざ死体を運ぼうとすると、まるで国境に合わせたように胴体が真っ二つに割れた。さらに解剖の結果、死体の上半身と下半身は別人だと判明、下半身は半年前から行方不明の英国人女性であり、この半年間、冷凍されていた。事件は単なる猟奇殺人ではなく、長期にわたって準備した計画殺人だったと知れる‥‥


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The Tunnel


ザ・トンネル  ★★★

アメリカ製作の番組だけでも数が多過ぎてアップアップでこなせなくて見逃す番組が多いというのに、英仏共同製作番組の、しかも3年前の番組である「ザ・トンネル」まで見る余裕は、本当のことを言うとない。


しかしこれがデンマーク-スウェーデン共同製作の「ザ・ブリッジ (Bron/Broen)」のリメイクであり、アメリカ-メキシコを舞台にしたFXの「ザ・ブリッジ (The Bridge)」の姉妹編に当たる番組ということを聞くと、他のアメリカ産番組を棚に上げても、見たいという誘惑に抗いきれない。


オリジナルの2011年製作の「ブリッジ」は、デンマーク-スウェーデンを繋ぐオーレスン・ブリッジが舞台だった。それが2013年のアメリカ版リメイクの「ブリッジ」になると、アメリカのエル・パソとメキシコのフアレスを結ぶ、たぶんサンタフェ・ブリッジが舞台となる。そして同年製作の「トンネル」は、ブリッジではなく、英仏海峡の下を走るトンネルの中で犯罪が起きる。


むろんオリジナルのそもそもの舞台がブリッジだからといって、そのリメイクが必ずしもブリッジを舞台にする必要はない。ブリッジというそのことよりも、国境ということが重要なのであって、この際ブリッジだろうがトンネルだろうが大きな差異はない。しかしブリッジからトンネルというそのイメージを想像すると、視覚的印象は大きく異なる。


その上、土地柄の差から来る舞台背景、印象も大きく変わってくるだろう。オリジナル「ブリッジ」では、北の国の海の上にかかる長いブリッジがその舞台だった。それがリメイク「ブリッジ」では、暑い場所の貧富の差が激しい土地柄におけるブリッジに代わる。オリジナルのように何千mにおよぶ長い橋というわけではなく、国境にかかるブリッジとはいっても、印象としては単に高架になった幅広の道だ。それがここでは富と貧困を分かつ象徴になっている。両方において事件が起きるのは夜だから特に背景がよく見えるわけでもないが、点在するライトがまた想像力を煽る。


そして今回のトンネルだ。英仏海峡にはさすがに橋はかかっておらず、ブリッジが舞台とはなり得ない。しかし海底トンネルなら走っている。そこでトンネルだ。


しかし、トンネルとはいってもユーロトンネルは列車専用道路であって、人とクルマは簡単には入れんだろう? クルマをフェリーのように列車の中に入れて運ばせることもできるようだが、いずれにしても人が列車の外に出るのは不可だ。その辺はどうなってんのと思ったら、実は点検保守のために関係車両が実際にクルマで走れるサーヴィス・トンネルが、並行して走っているそうだ。考えたら当然そうあって然るべきだ。もちろん一般人は入れないが、しかし舞台装置はちゃんとある。


ブリッジとトンネルを比較した場合、トンネルが視覚的に不利であるのは言わずもがなだ。なんとなればトンネルには背景がない。ブリッジだって夜なら特に視界が利くわけでもないが、しかしトンネルではそもそも背景というのがない。これを逆手にとって閉所恐怖症的な演出も可能かもしれないが、しかしやはりヴィジュアルの多様性は望むべくもない。いずれにしても、ブリッジにせよトンネルにせよ物語の発端であって、話が本格的に展開するのはこれからだ。


「トンネル」においては、フランス側が女性のワッサーマン刑事、イギリス側は男性のローバック刑事が担当する。ワッサーマンは自分本位で仕事を進めるどうやらアスペルガーの入っている刑事で、一方のローバックは現場叩き上げタイプだ。リメイク「ブリッジ」における主人公の造型と同じで、どうやら両番組ともオリジナルのキャラクターを踏襲しているものと知れる。


しかしそれでも、演じる役者や背景が異なることから来る全体としての印象の差は歴としてあり、むろんそれこそがリメイクを見る醍醐味と言える。ストーリーの細部までまったく同じだとつまらないが、例えば「ブリッジ」では貧富の差から来るキャラクターのものの考え方やストーリーが当然違ってくる。


それが「トンネル」だと、基本、国としての貧富の差はない。しかし文化の差は大いにある。イギリスのローバックがフランスのワッサーマンを立てるのは、キャラクター、および経験によるものだろう。また、ローバックの妻は黒人の血が入っており、この辺りも「ブリッジ」と異なる。それにしてもフランスの刑事がタカピーで、イギリスの刑事が所帯疲れしている。なんとなく合ってないこともない気もする。これが逆だとどうなっただろう。


「トンネル」の第1話ではゴシップ・ライターが乗るクルマに時限爆弾がセットされるのだが、見てて、あれ、このシーン、「ブリッジ」にもあったと思い出した。どうやら大筋はどれも同じらしい。


しかし「トンネル」におけるたぶんイリーガルなヒューマン・トラフィッキングを斡旋しているものと思われる者の存在や、「ブリッジ」におけるドラッグ・ディーラー等、いかにもその場所にいそうな者たちも話に関係してくる。「トンネル」も今後の展開が腕の見せ所と言える。ふと、これ、中国と隣接している国との国境での話にすると、かなり血なまぐさい話になりそうだな、しかしそれもかなり見たいかもという気にさせる。










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