The Town


ザ・タウン  (2010年10月)

ボストンの下町チャールズタウンはアメリカで最も銀行強盗の割り合いが高い町で、ここではただ生きていくことが最も難しいことの一つだった。ダグ (ベン・アフレック) はこの町で幼馴染みのジェイムズ (ジェレミー・レナー) らと組んで銀行を襲い、これまでは成功していた。しかし今回襲った銀行で女性行員のクレア (レベッカ・ホール) を人質に取り、後に解放したことから、歯車が狂い始める。ダグは偶然を装ってクレアに近づき、特別な感情を持つようになる。一方、直情径行型のジェイムズは、ほっておくと危険だった。さらに彼らは地元のギャングの元締めのファーギー (ピート・ポスルスウェイト) から受けざるを得ない仕事を要請される‥‥


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ベン・アフレックは近年の最大の意外な拾い物だ。あるいは、ここへ来て才能が開花したとでも言うか。俳優としては2006年の「ハリウッドランド (Hollywoodland)」で、おや、なかなかやるじゃないかと思わせ、昨年の「消されたヘッドライン (State of Play)」でも印象を残した。演出家としては2007年の「ゴーン・ベイビー・ゴーン (Gone Baby Gone)」で目から鱗的な演出を見せ、アフレックここにありを印象づけた。


2、3年前まで、明らかにアフレックよりは盟友のマット・デイモンの方が活躍しており、アフレックはアクション・スターになり損ねたという印象は拭い難かった。その上ジェニファー・ロペスに捨てられたというおまけまでついて、これではもう再度浮上してくるのは無理なのではないかとすら思われた。それがハリウッド・スターとしてのキャリアはこれでおしまいかと思われた地点からのここ数年の巻き返しには、目を見張らされるものがある。きっと開き直ったんだろう。ジェニファー・ガーナーとの結婚もいい方向に作用したようだ。


特に「ゴーン・ベイビー・ゴーン」は、まさかアフレックが演出の方向に行くとは思ってもいなかったので、本当に唸らされた。ここ数年来の、たぶんクリント・イーストウッドの「ミスティック・リバー (Mystic River)」に端を発するダークな雰囲気を持つボストンの一面を、最も極端に、映像的にも本当に暗く描いた「ゴーン・ベイビー・ゴーン」は、2007年の収穫の一つだった。


そして意外にもデイモンよりボストンに思い入れが深いように見えるアフレックは、またもやボストンの、またまた下町、というかボストンで最も危険な町を舞台に、「ザ・タウン」を作った。チャック・ホーガンの「強盗こそ、われらが宿命 (Prince of Thieves)」の映像化で、「ゴーン・ベイビー・ゴーン」同様の、ハーヴァード大学のある文教都市という一般的なイメージとは異なる、ボストンの下層に生きる者たちを描く。


主人公ダグに扮するのがアフレックで、幼馴染みで切れやすいジェイムズに扮するのがジェレミー・レナー。一躍レナーの名を世に知らしめた「ザ・ハート・ロッカー (The Hurt Locker)」でも、過去を持つ刑事を演じたABCの刑事ドラマ「ジ・アンユージュアルス (The Unusuals)」でも、今にも何するかわからないといった不安定さが魅力であり、それは「タウン」でも変わらない。というか、ここに極まれりといった危なさで怪演している。


ほぼ紅一点のヒロイン、クレアに扮するのがレベッカ・ホール。「フロスト/ニクソン (Frost/Nixon)」や「プレステージ (Prestige)」といった佳品に出ているが、これで人に名と顔を覚えさせることができたと言える。AMCの「マッド・メン (Mad Men)」のジョン・ハム演じるFBIのフロウリーは、ちょっとダグらに振り回され過ぎ。原作ではフロウリーがダグ同様クレアに惹かれ、そこで三角関係もどきになってさらに話が複雑になるらしい。映画ではそこを描き込めなかったために、ややフロウリーが浮いてしまったことが惜しまれる。その他、地元ギャングの元締めにピート・ポスルスウェイト、刑務所にいるダグの父にクリス・クーパーという曲者の配し方がまた楽しい。


「タウン」が「ゴーン・ベイビー・ゴーン」と最も異なるのは、アフレックが演出だけでなく、主演としても出演していることだ。イーストウッドを見てもわかる通り、演出家が必ずしもいつもカメラの後ろにいる必要はなく、時として偉大な演出家と俳優というのは両立する。このことは、特に元々は俳優として出発した者が、後に演出家に転身する時に当てはまる場合が多い。この逆というのは、まあなくはないだろうが、ほとんど聞いたことがない。俳優として演技しながら、演出も学ぶという場合の方が圧倒的に多い。


アフレックもいつの間にやらそうやって演出の仕方を覚えたようだ。とはいえビギナーズ・ラックとか好運というものは何事にもついて回るから、たとえアフレックが「ゴーン・ベイビー・ゴーン」で印象的な仕事をしたとはいっても、それが次に繋がるとは必ずしも思っていなかった。そしたら、「タウン」は「ゴーン・ベイビー・ゴーン」を超えるレヴェルに仕上がっている。正直言って驚いた。アフレックがこんなにやれるなんて。


どうも業界内ではアフレックの演出力は既に認められているようで、何かの雑誌で読んだのだが、彼が「タウン」を撮るという話が広まると、声をかけるとほとんどの者が喜んで参加の意を表明したそうだ。アフレック自身は、もし自分が俳優の立場で自分が監督するとして声をかけられたとしても、参加したいかというとそうでもないのに、なぜ皆こうも好意的だったのかよくわからないと言っていた。どうやらアフレックは、俳優としてよりも演出家としてのオーラの方が強く輝いているらしい。


実際「タウン」は、非常によくまとまっていてあまり隙がない。こういうタイトな演出ができるのにも感心させられるが、やはり最も感心させ、興奮もさせられるのが、アクション・シーンの演出だ。オープニングの銀行襲撃の緊張感溢れるシーンも見事なら、中盤から後半にかけてのボストン市内のカー・アクションにも唸らされる。考えたら小ぢんまりとしたボストンの街で、これまでカー・アクションを見た記憶はほとんどない。旧市街は道幅が狭いから、カー・アクションには不向きなのだ。


それを逆手にとって、ヨーロッパの狭い町並みをクルマが疾走することこそカー・チェイスの醍醐味と教えてくれたのが、007シリーズや、デイモンが主演する「ボーン・アイデンティティ (The Bourne Identity)」だった。今回のカー・チェイスももちろん同様にその楽しさを満喫させてくれる。


そしてクライマックスのフェンウェイ・パークでの銃撃戦はまさに圧巻で、これだけのリアリティ、迫力で銃撃戦を撮れるのがマイケル・マン以外にいたのかとほとんど呆気にとられた。実際ここでの緊張感、迫力は、マンの「ヒート (Heat)」における銀行襲撃の市街戦を彷彿とさせるできで、手に汗握らせる。映画を見た後、家に帰って女房とすごかったねえ、アフレックってこんなに才能あったのかと話していて、私がクライマックスのアクションは「ヒート」とタメを張るくらいよかったんじゃないかと言うと、女房は、いや、「ヒート」よりこちらの方がよかったと断言した。


「ヒート」はアクション作品を撮る上ですべての作品が比較対象する基準とでもいうべき作品で、いくらなんでもそんなに即断できるほど「ヒート」を超える作品がそう簡単に現れるもんじゃないと思うが、しかし、女房がそう言いたくなるのもわかる。そのくらいこのシーンはよかった。いずれにしてもアフレックが今後も演出家として作品を世に問い続けることは間違いないようだ。次もまたボストンが舞台か。








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