The Square


ザ・スクエア 思いやりの聖域  (2021年1月)

思いもかけずすごいものを見てしまった。現在、自宅でフリーで仕事しており、朝は基本的に緩くて、8時半にしか起きない。女房もリモートだがちょっと早く、しかしそれでも8時過ぎにしか起きない。しかしこないだの朝8時ちょい前頃、夢うつつで外でパンパンという破裂音がするので目が覚めた。 

 

それでも最初は何の音かなと思いつつも眠気が勝っているのでそのままベッドの中にいたのだが,パンパンという音が止まず続く。それでさすがに、こんなのこれまで聞いたことがないな、何だろうと思ってベッドを抜け出して2階の窓からカーテンを開けて外を覗いてみると、斜向かいの交差点そばの路上でクルマが燃えている。 

 

一方通行同士の小さな交差点とはいえ、南に向かう道路の先はホボケンという隣りの大きな街に通じているため、そこそこ通行量がある。数年前にもほとんど同じ場所でクルマ同士が衝突しているのを見たことがある。しかし今回は、どう見ても駐車している古い80年型くらいのトヨタ・カローラに、後ろからリンカーン・コンチネンタルが追突した自損事故にしか見えない。しかもこんなに激しく燃えているところを見ると、結構のスピードで追突したんじゃないか。私が見た時には既に消防が到着して消火に着手しており、女房を起こして、すぐ外でクルマが燃えていると報告する。 

 

アメリカは基本的にニューヨークのような都会でも多くの場所で路上駐車が認められており、私もクルマは路上に停めている。実は燃えているリンカーンのすぐ北側の路上に、私のRav4も停めてあった。追突したリンカーンが、もし北から南ではなく東から西に向かって同じタイミングで事故ったら、とばっちりを食ったのは私のRav4だった。 

 

かつて、ロング・アイランドに通じるノーザン・ステイト・パークウェイというフリーウェイの路肩で、ポルシェが轟々と燃えているのを目撃したことがある。確かポルシェって、空冷じゃなかったっけ? 停まらないフリーウェイなら逆にオーヴァーヒートはなさそうなもんだがと思いながら通り過ぎた。すぐそばでドライヴァーがなす術もなく立ち尽くしていた。 

 

今回それを思い出して、オーヴァーヒートしてエンジンから火が出たにせよ、ハンドル捌きを間違えたかして駐車中のクルマにぶつかったにせよ、ドライヴァーは災難だったなと思った。しばらくして鎮火した後、消防隊がクルマのトランクを開け、何もなさそうなのを確かめると、まだその辺一帯熱持っているだろうに手際よくレッカー車が来て、カローラとリンカーンを運んで行った。すぐ後にそばで待機していた清掃車と清掃人がてきぱきとその辺りを清掃処理して帰っていった。現場検証するより、交通の邪魔になることを避けることを最優先しているという感じだった。                          

 

だいたい燃えてから1時間以内には、多少地面に焦げ跡が残り、隣接するビルに黒い煤が付いていること以外は何事もなかったかのようにいつもの光景に戻った。とはいえいったいどういう理由で事故が起きたのか気になったので、その夜、ネットで事件をチェックしてみた。TV局のカメラが来ていたのは見たが、その時には既に鎮火した後だったし、他にも大きなニューズはあるだろうし、この事故がTVのニューズでは報道されることはないだろうと思ったからだが、そこで衝撃の事実を知った。 

 

実は全焼したリンカーンのドライヴァー・シートに、全身焼け焦げたドライヴァーの死体がそのまま残っていたそうだ。こちらの先入観として、ポルシェのドライヴァーのように、火が出たクルマからはすぐに逃げるものだと思い込んでいた。当然リンカーンのドライヴァーも、しまった、事故ったと思ったらすぐに逃げたろう、きっと近くで呆然と様子を窺っていたに違いないと、勝手に思い込んでいた。 

 

ではなくて、あの轟々と燃えていたリンカーンの中に、ドライヴァーはいたのだ。道理でその後の処理が迅速で、すぐにクルマを運んで行ったのか。鎮火した後、プラスティックのカヴァーをかけていたのは、消化を完全にするためというよりも、車内の目隠しの意味があったに違いない。後から考えると、いつもぞんざいで何かと悠揚迫らぬという感じで仕事するアメリカの警官や消防やその他の関係者が、やたらとシステマティックにさっさと仕事片付けるなと思ったのだ。ほっとくと野次馬やらが集まって事態が大袈裟になるのを避けたのだろう。いずれにしても、燃え盛るクルマの中に人がいたと知ってそのシーンを思い返すと、また違った意味合いを帯びてくる。 

 

そしたら、つい先日、大雪の降った翌日、ちょっと内陸部に入った池にマツダのSUVが突っ込み、ドライヴァーはすぐに駆けつけた警官に助けを求めることなくエンジンを吹かし続け、クルマ全体が燃えて、やはりドライヴァーが焼け死んだというニューズがあった。自殺だった可能性もあるという。リンカーンのドライヴァーの場合はどうだったのだろう、心臓発作で路肩のクルマに突っ込んだのかと思ったのだが、これも意図的だったということもあるだろうか。 

 

とまあ長々と書いてしまったが、以上のことだけなら、ほとんど「ザ・スクエア」に関係ない話だ。それでも個人的にはなかなか大事件だったから少しはこのことも書くつもりではいたが、ここまで長くなってしまったのは、これを書き出したところ、今度は東京の路上でスポーツ・カーのマセラティがいきなり燃え出したというニューズを見たからだ。 

 

こちらでもあちらでもクルマが燃えるというシンクロニシティもそうなら、今度は東京で燃えたマセラティから、「ザ・スクエア」で主人公が乗っていたテスラを連想した。そしてこれまた先日、マセラティほどではないとはいえやはり高級車のテスラを製造するイーロン・マスクが経営するスペースXの新型ロケットが、テキサスでテスト飛行の着地に失敗して大破炎上した。 

 

しかもこの話、アメリカのTVのニューズでは一切報道しておらず、私はこの話も日本のニューズ番組で知った。日本のニューズで報道するくらいだから世界も注目する大きな事件だと思うが、しかし、私の知る限り、ネットワークのニューズでは一切触れられていない。ググってみたところ、CNNとニューヨーク・タイムズが報道しているだけだった。 

 

これまでにもテスト飛行で何度か失敗しており、もしかしたらまたかということでニューズ・ネタにならないと判断された可能性はある。あるいは国の威信にも関係しているため、報道機関が報道を自粛したという線もある。さすがにその報道の規制に対してまで圧力がかかるとも思えないし。しかもトランプならともかく、バイデンならやらないだろう。 

 

それでも、こういう情報の操作、取捨選択は、「ザ・スクエア」で主人公が企画する新展示会の告知宣伝で、人の注意を喚起するマーケティング、演出、人心操作する手段として利用されていたことと同じだ。幼い女の子がいきなり爆発するという映像が、これまた燃えるクルマへと簡単に連想していったことは言うまでもない。「ザ・スクエア」は一昨年わりとロングランしており、機会があればと思いながら見逃していたのだが、結局今回、内容とはほとんど別の地点で印象に残ることになってしまった。こんなこともある。 

 










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ストックホルムの美術館でキュレイターとして働いているクリスチャン (クレス・バング) は通勤途中に財布とスマートフォンを掏られてしまう。GPSを利用して、スマートフォンがあまり居住者の生活レヴェルがいいとは言えないビルのどこかにあることまで突き止めるが、しかし何階のどのアパートかまではわからない。一策を講じたクリスチャンは、ビルに忍び込んですべてのアパートに脅迫状紛いの文書を投函して、掏ったものを返すよう要求する。しかし、それは思いもよらぬ波紋を広げていく‥‥ 


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