ザ・スポイルズ・オブ・バビロン   The Spoils of Babylon

放送局: IFC

プレミア放送日: 1/9/2014 (Thu) 22:00-22:30-23:00

製作: ファニー・オア・ダイ

製作総指揮: ネイト・ヤング

クリエイター: マット・ピードモンド、アンドリュウ・スティール

出演: トビー・マグワイア (デヴォン・モアハウス)、クリスティン・ウィーグ (シンシア・モアハウス)、ウィル・フェレル (エリック・ジョンロッシュ)、ティム・ロビンス (ジョナス・モアハウス)、キャリー・マリガン (レイディ・アン・ヨーク)、ジェシカ・アルバ (ディキシー・メロンワース)、ヘイリー・ジョエル・オズメント (ウィンストン・モアハウス)、マイケル・シーン (チェット・ハルナー)、ヴァル・キルマー (コーリフ将軍)


物語: 1931年テキサス。デヴォンは天涯孤独の少年だったところを、石油を発掘しようとしていたジョナスに拾われる。ジョナスには娘のシンシアがおり、デヴォンとシンシアは本当の兄妹のようにして成長する。石油を発掘できないまま月日が経ち、ジョナスが強制的に立ち退かせられようとしていた時、ついに石油が吹き上がり、ジョナスは一夜にして大金持ちになる。しかしモアハウス家の波乱に満ちた物語は、始まったばかりだった。1941年。成長したシンシアはデヴォンに好意があることを隠そうともしなかったが、デヴォンは頑なにシンシアと兄妹の間柄でいようとする。折から日本軍が真珠湾を爆撃、太平洋戦争が勃発する。デヴォンは軍に志願して逃げるように故郷を後にする‥‥


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The Spoils of Babylon


ザ・スポイルズ・オブ・バビロン  ★★1/2

ファニー・オア・ダイ (funnyordie.com) は、NBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ (Saturday Night Live)」出身のコメディアン、ウィル・フェレルが立ち上げたコメディ専門のウェブ・サイトだ。ファニー・オア・ダイは癖のあるギャグで人気で、数年前にはHBOがTVシリーズ化していたこともある。


つまりファニー・オア・ダイは既に知名度はなかなかのもので、今回、こういうおちゃらけ系のコメディに錚々たるという印象の俳優が大挙して登場しているのも、フェレル並びにファニー・オア・ダイの名前が預かって大いに力になっている。


「スポイルズ・オブ・バビロン」は、インディペンデント映画専門チャンネルのIFC (Independent Film Channel) が放送する番組だ。とはいえインディペンデント作品専門チャンネルとしては、もう一方の雄サンダンス・チャンネルの方が近年とみに名を聞く機会が多い。昨年は冤罪で刑務所入りしていた男を描く「レクティファイ (Rectify)」、ジェイン・カンピオンが監督したミニシリーズ「トップ・オブ・ザ・レイク (Top of the Lake)」、フランス製ゾンビ・ドラマ「ザ・リターンド (The Returned)」等、印象的な番組を編成した。


一方IFCというと、現在そこそこ人気のあるオリジナル・シリーズ番組はというと、フェレル同様元SNLメンバーのフレッド・アーミセンが主人公の「ポートランディア (Portlandia)」くらいしかない。サンダンスに差をつけられている感じが濃厚にする。そこに現れたのが、「スポイルズ・オブ・バビロン」だ。


「スポイルズ・オブ・バビロン」は、1970-80年代に一世を画した、まるでソープ・オペラのようなミニシリーズのパロディだ。要するに愛と陰謀渦巻くハーレクイン的な大河ロマンだ。この話はベストセラーを映像化したものだとして、毎回番組冒頭と終わりには、原作者であり、番組のプロデューサー兼脚本家兼監督兼その他もろもろにクレジットされるエリック・ジョンロッシュが登場して、ぐだぐだと口上を述べる。そのジョンロッシュを演じている者こそフェレルなのだが、衣装やメイクがまたなんでこんななのかよくわからんという、西部劇に出てくるような格好をしている。


それに続く冒頭のいかにも大仰なクレジット・シークエンスは、ソープ・オペラというよりも当時流行ったスパゲッティ・ウエスタンのようで、クリント・イーストウッドかジュリアーノ・ジェンマが馬に乗って登場してきそうだ。一方、そのクレジット自体は、主人公デヴォンを演じるトビー・マグワイアの名がダーク・スノウフィールドになっており、その他の俳優の名も皆まったくのデタラメだ。また、豪邸であるはずの舞台は一と目でミニチュアとわかるちゃちいセットで、このチープさ加減がたまらない。とにかくなんでもかんでも人を食っている。


オープニング・シーンは、主人公のデヴォンが何者かに撃たれ、瀕死ながらもクルマに乗ってオフィスにたどり着き、そこで過去を追想し、話はそもそもの発端のデヴォンがジョナスとシンシアに邂逅した時に遡る。ジョナスは石油の発掘に成功して億万長者になる。しかし成長してシンシアとの禁断の恋に悩むデヴォンは、勃発したばかりの太平洋戦争に身を投じて家を去る。


空軍パイロットのデヴォンの操縦する機は、南太平洋上で撃墜されるが、九死に一生を得たデヴォンは、日本軍の捕虜になっていた。しかし隙を見て日本軍兵士を殺して脱出に成功、本国に帰還する。デヴォンは死んだものとばかり思っていたシンシアは狂喜するが、しかしデヴォンは一人で帰ってきたのではなく、妻を伴っていた‥‥


デヴォンを演じるトビー・マグワイア、シンシアを演じるクリスティン・ウィーグ、ジョナスのティム・ロビンスと、既にこれだけでもおふざけ半分のギャグにしてはかなりのメンツと思わざるを得ないが、軍人になったデヴォンの戦死の報を伝えにモアハウス家を訪れるコーリフ将軍に扮しているのは、ヴァル・キルマーだ。さらに、生還したデヴォンが一緒に連れて帰ってきた妻レイディ・アン・ヨークは、マネキンだ。それなのにその声を担当しているのはキャリー・マリガンで、あんなこの世のものとも思えないほど可愛いマリガンをマネキンにして、出すのは声だけか。


その後も、デヴォンの次の妻ディキシーに扮しているのはジェシカ・アルバ、シンシアの夫チェットにマイケル・シーン、二人の子供ウィンストンを演じているのはヘイリー・ジョエル・オズメントと、えっと思わされるメンツが続々と登場する。オズメントなんて、いったいどのくらい目にしていないんだと思っていたら、肉がついてまあ憎たらしい顔つきになっている。役柄がまた、ウィーグとシーンの不肖の息子で、モアハウス家を破滅させようと企む悪役だ。いった何があんたを歪ませたのか。


とまあ、「スポイルズ・オブ・バビロン」は、金かけて (ところどころ意図的にチープだが) 好きなことをやってみました的な、まったく人を食ったコメディだ。この乗りに最も近いのは、やはりおふざけ感が共通しているSNLのスキットということになろうかと思う。あれをもっと金と時間をかけて、客を前にしての寸芸ではなく、物語としてまとめてみたらこうなりました的な印象が強い。笑ってしまうというより、こんなんやるかと唖然とする。


ところで、笑うというよりあっけにとられることの方が多い「スポイルズ・オブ・バビロン」において、私が唯一声を出して笑ったシーンがある。第2話で、戦争に行って日本軍の捕虜になったデヴォンが日本軍兵士を殺して脱出する時、この「Fish eater」と言って撃ち殺す。「魚を食うやつらめ」というのが罵倒語になっているのがあまりにも意外で、つい笑ってしまった。考えたら前世紀中盤のテキサスの内陸部では、ほとんど魚など食う機会はなかったと思われる。今ですら、生まれてから一度も海を見たことはないという人間が内陸部にはごろごろいるのだ。飛行機に乗ったことのない者より、海を見たことが一度もない者の方が多いのは確実なのがアメリカだ。魚を食うというのが野蛮な怖ろしいことという認識があってもおかしくはない。いや、ちょっとここだけツボだった。










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