メイキャップをしない、素顔も、というか素顔の方が印象的なタイプの女性というのはいる。例えばビヨンセなんかは、化粧すると確かに見映えしてセレブという感じになるが、メイクを落とした顔は、私の意見ではそちらの方がはるかに可愛い。
レディ・ガガなんかメイク落とすとはっきり言って地味で、道ですれ違ってもまずわからないと思うが、その、普通に地味に可愛いところが私にとってはポイント高い。
そしてまた、化粧落として生活に疲れたみたいな役が抜群にはまる者もいる。「プレシャス (Precious)」のマライア・キャリーなんてまさにそうで、いつもの胸出しケツ出しを封印され、慢性睡眠不足みたいな重そうな瞼で安物の服に身を包んでいる方が、身体のライン丸出しの露出水着を着ている時より色気がある。
ハリー・ベリーなんかも、化粧なし、生活苦しいです、という役が結構悪くないことを自分でも自覚しているからそういうキャラクターを演じる機会が多いんだろう。思い切り貧乏くささ丸出しで意図的に不摂生して身体のライン崩して、逆に退廃的な色気、というかほとんどいやらしさを充満させた「猟人日記 (Young Adam)」のティルダ・スウィントンという例もある。
そしてまた「ザ・シンナー」主演のジェシカ・ビールも、その系統の女優の一人だ。絢爛豪華な衣装に身を包んだ時代ものの「幻影師アイゼンハイム (The Illusionist)」にも抜擢されているくらいだからそういうのも似合わなくはないが、今回のようにちょっと幸薄そうな普通の家庭の主婦が、どんぴしゃにはまる。自分でもわかっている確信犯なのは、自身が製作総指揮も務めてプロデュースしていることからもわかる。今では米音楽界になくてはならない存在のジャスティン・ティンバーレイクというスターを夫に持ち、人生、キャリアという点では順風満帆に見えるビールだが、不幸な地味女の役が最も似合う。
ビールがここで演じるのは微かに自殺願望のある家庭の主婦コーラで、家族で工業造形的なファミリー・ビジネスを営んでいる。夫とまだ幼い息子がおり、夫婦で仕事している間は同居の義母が子供の面倒を見ている。時に夫がいまだに母親べったりなのが鬱陶しく思える時もないではない。
それでも特に人生に対して表立った不満があるわけではないが、ある時、家族で出かけた湖畔で、眼の前でいちゃついている若いカップルがいた。特にその光景が気になったわけでもないのに、気がついたらコーラはその男をペティ・ナイフでめった刺しにしていた。
コーラは現行犯で逮捕される。衆目が見ており、重刑は避けられないものと思えた。しかし事件を担当したアンブローズ刑事は、普段はまったく暴力的なものとは無縁のコーラが突然人をめった突きにしたという行為が信じられず、調査を開始する。徐々に、コーラの行為は彼女の過去の封印された記憶と関係があることが明らかになる‥‥
暗い表情で涙を流すと絶品のビールの魅力全開で、途中ダレるところがないとは言わないが、ついつい見てしまう。なぜコーラが発作的に人を殺してしまったのか、やっぱり知りたくなってしまうのだ。その理由はラストの2話で明らかになる。実はある程度予測できないわけでもないのだが、それでも充分楽しませてくれる。