放送局: ヒストリー・チャンネル
プレミア放送日: 10/14/2002 (Mon) 21:00-22:00
製作: ヒストリー・チャンネル、BBC
製作総指揮: ローレンス・リース、スーザン・ワービ
製作/監督/撮影: クリス・テリル
編集: ジュリー・バックランド
音楽: ジョン・ハリー
ナレーション: エド・ハーマン
内容: 18世紀の英国のクック船長が航海したのと同じ航路に、現代の素人乗組員が挑戦する。クック船長の船エンデヴァー (Endeavour) を当時の内装や設備をほとんど原寸通りに現代に再現、素人冒険家40人が乗り込んで、オーストラリアに到達したクック船長の足跡を辿る。
_______________________________________________________________
歴史関係番組専門のニッチ・チャンネル、ヒストリー・チャンネルはお堅い。同様にドキュメンタリーを専門にしているディスカヴァリーやTLCに較べても、ヒストリー・チャンネルが編成する番組はさらに堅めの番組が多い。元々歴史好きの人間というものがそういうものだからとも思えるが、それにしてももうちょっと柔らかめのアプローチで番組を製作してくれたら、もうちょっと視聴者は増えるだろうにと思える番組が多い。
多分ヒストリー・チャンネルもそう思っていたのではないか、このほど、このチャンネルとしては珍しく、一応リアリティ・ショウの分野に入れてしまっても構うまい、この「ザ・シップ」を製作した。この番組、18世紀にクック船長がたどった道程とまったく同じ航程を旅してみよう、さらには船も当時とまったく同じものを再現して、旅行/休暇ではない、冒険に挑戦しようという試みなのだ。
ただし、これが「サバイバー」と違うのは、当然のことながら「シップ」では毎回放送の度毎に誰かが追放されるのではなく、最後に勝ち残った者が賞金を得るわけでもないことで、この冒険に参加したからといって金がもらえるわけでもなければ、多分有名になってその後TVに出演する機会が増えるというわけでもなかろう。自分自身への挑戦が今回の最大の目的なのだ。
40名に及ぶ有志たちは3か月間にわたり、プライヴェイトな空間なぞ望むべくもない狭い船室でハンモックに揺られ (しかも隣りでは豪快にいびきをかく奴がいて寝れない!)、必要以上の塩漬けでほとんど塩辛いだけの牛肉をあてがわれ (テーブルに当てるとこんこん音がし、歯で噛み千切れないほど硬い!)、日中は風まかせの帆を畳んだりなんなりの重労働に従事しなければならない (ある者はきつくて立って歩けないほどだ!)。
それでもほとんどの者はこれを一生に一度のチャンスと見てわれ先にと率先して参加してきた者たちばかりだ。番組製作には英国のBBCも関係しており、基本的にクルーは英国とオーストラリアを中心とする世界混合クルーである。クック船長の時のクルーと最も異なるのが、今回はクルーの中にオーストラリア原住民のアボリジニーが何人か入っていることで、彼らはアメリカン・インディアン同様搾取された立場にいるのだが、その、そもそものきっかけとなったクック船長の航海を身をもって体験しようとこの企画に参加してきた。いざ出帆しようとする時に、我々の先祖を搾取したクック船長の航海をまた企てるとは何事かと、航海に反対して海上でデモを行った別のアボリジニーもいたが、結局最終的に新エンデヴァー号は無事出帆、大海原に乗り出した。
で、結局航海なんですが、やはり文明に慣れきった現代人には、一日中別に大型豪華船でもない船から出られないのは苦痛であるらしく、出帆後何日かして陸地にいったん停泊して食料の補充とかを図る時に、皆、喜び勇んで下船してコカ・コーラやらアイス・クリームやらを手に取るんだなあ。おいおい、あんたたちがやろうとしていることは、18世紀の生活そのままの冒険じゃなかったのか、その時にコカ・コーラやアイス・クリームがあったとでも思っているのかと、思わず茶々を入れたくなる。これが「サバイバー」系のリアリティ・ショウなら、アイスを食ったものは失格にでもなりそうだが、そこは別に賞金がかかっているわけでもないこの企画では、皆喜んで一時的な文明生活に復帰するのであった。しかし、なんかなあ、おまえらそんなひ弱な根性で冒険しようとなんかすんな、と思ったのは私だけではあるまい。
航海も一と月経った時には、皆自分の意志でこの航海に参加したはずなのに、たいていは陸地の夢を見るようになり、おいしい食事や熱いシャワーを切望するようになる。航海最後の夜には積み込んだ鶏をさばき、フレッシュなチキン・シチューのようなものが晩餐に出てくるのだが、それまでがほとんどが塩のきつい、ファットだらけの肉を食べさせられていただけに、皆、おいしいおいしいとほお張る。しかし、鶏を屠る前に、くわっくわっとカゴの中で啼く鶏をよだれを垂らさんばかりに見つめるクルーは、なかなか笑わせてくれた。
英国船であるエンデヴァー号の足跡を忠実になぞっている上に、この航海のクルーにも英国人乗組員が多いため、どんなにハードな航海であろうともティー・タイムと称してお茶する時間があったりするのだが、ティーとは名ばかりで、飲んでいるものはほとんど透明で、お茶の色なんか出ていない。多分ほとんど砂糖水でしかないと思うのだが、今まで飲んだ中で一番うまい茶だと一言言わずにはおかないところが、西洋人だと思わせる。
また、18世紀当時の航海がどういうものであったかを教えてくれるナレーションや、それを再現した映像なんかもわりと面白い。その当時は、船乗りというのはそれほど裕福ではない階級の人間がなる職業であった。海岸沿いの村出身だから船乗りになったというよりも、船乗りになったのは、単に食い扶持を稼ぐためという者が多かった。当然彼らは幼い時に毎夏海に行くような、恵まれた暮らしなど送っていなかった。つまり、当時の船乗りは、なんと、ほぼ全員泳げなかったそうなのである。
この話はびっくりした。船乗りの死亡で最も大きな理由の第一は、溺死なのだそうだ。例えばマストに登っていて、突風が吹いたりなんかして海に振り落とされたとする。それはそのまま死を意味していたのだ。怖えええ。なんでそういう奴らがよりにもよって船乗りなんかになるんだ。おかげで当時の船乗りの平均寿命はたったの25歳だったそうだ。こりゃあ、当時の船乗りがいったん陸に上るととにかく乱痴気騒ぎに明け暮れたというのが頷ける。いつ死ぬかわからないんだったら、そりゃあ遊べる時に遊んでおかないとという気になるわな。
番組の内容とはまったく関係ないところで私が見ててつらかったのが、英国と豪州を中心とする参加者の英語の聞き取りで、まず慣れないキングズ・イングリッシュもよく聞き取れない上に、さらにオージー訛りが加わると、ばんばん何言っているかよくわからないシーンが続出する。数少ないアメリカ人が喋ってくれると、本当にほっとする。
実はこの航海は昨年の9/11事件の2週間後に行われたものであり、世情を鑑みて、最終目的地がクックの航海の時のイスラム系のジャカルタとは異なり、どちらかというとより安全と見られる観光地のバリに変更になった。それはそれで逆にクルーから喝采を浴びていたが。いずれにしても、船から降りて一気飲みするビールがうまかったのは間違いあるまい。
