The Shape of Water


シェイプ・オブ・ウォーター  (2017年12月)

クリスマスの休日に「シェイプ・オブ・ウォーター」を見に行ったら、午後一の回なのにほぼ売り切れ、残っている座席は飛び飛びで、前の方に一つと後ろの方に一つしかない。そうか、確かクリスマス当日ってのは休みで家族が揃っててしかも店はどこも閉まっててやることがないため、映画館は混むんだった。ど素人みたいなミスをした。


いずれにしてもこれじゃせっかく女房と一緒に来ている意味がないと、その場で次候補を探す。しかし近くには時間的に合う映画館がなく、見つけたのはクルマで30分くらいのところにある映画館で、タイミング的にはぎりぎりだがこれ以外では今度はロス時間が大き過ぎると、速攻こちらに向かう。


しかし普段は使わないルートを使っているため、グーグル・マップをセットしているにもかかわらず、曲がる道を間違えて時間をロスする。ぎりぎりで間に合ったかと思った次の映画館も、目の前の公共の駐車場が今日に限って満杯だ。繁華街からはかなり離れているのに、これまた皆映画見に来てたりする?


そのためクルマをかなり離れた路上に停めざるを得ず、急ぎ足でチケット売り場に着いた時は、既に予定時間を2分ばかり過ぎている。念のためにブースに座っているおねーちゃんにもう始まっているか訊いたら、そろそろかなと言う。要するに知らないなと確信、こういう時は素直に諦めた方がアメリカでは結局得をするという判断ができるだけの経験は積んでいるので、もうこの日は断念してうちに帰ってコーヒーを淹れて食事にする。後日改めて出直すと、半分ほどの入りで、まあこんなもんだろう。いずれにしてもう二度とクリスマスに映画を見ようなんて考えるまい。


さて、「シェイプ・オブ・ウォーター」演出のギレルモ・デル・トロは、「パンズ・ラビリンス (Pan's Labyrinth)」の成功以降、ハリウッドでわりと好きなものを撮れたり大作を任せられたりして逆に自分を見失ったようなところがあった。「パシフィック・リム (Pacific Rim)」「クリムゾン・ピーク (Crimson Peak)」も面白くなかったわけではないが、やはりデル・トロはもっと癖のある、キッチュで悲しい話の方がぴたりとはまる。


先頃発表のあったゴールデン・グローブ賞で見事監督賞を射止めたデル・トロは、自分は幼い頃は周囲に馴染めず、虫やロボットに逃避していたとスピーチしていたが、さもありなんと思う。そのデル・トロが、「パシフィック・リム」のロボット、「クリムゾン・ピーク」のゴーストに続いて (ここにTVの「ザ・ストレイン (The Strain)」のゾンビあるいは細菌を入れてもいいかもしれない) 今回提出するのは、半魚人だ。


デル・トロにはなんとかして漆原友紀の「蟲師」を映像化してもらいたい、舞台は別に必ずしも日本でなくてもいいと希望している私としては、ああまた虫じゃなかったか、残念という気持ちが半分、半魚人というまたまた新しいジャンルの登場に興奮も半分というのが、見る前の気分だった。いずれにしても異形の者だ。


主人公のイライザは、自分も発話障害を持っていることもあり、虐げられる半魚人に感情移入する。半魚人はどうやら知性を持っているらしく、段々とイライザとコミュニケイションをとれるようになる。しかも最初は虐げられている半魚人に対する興味や同情、憐れみだったものが、コミュニケイションをとることによって、徐々に愛情めいたものに変化していく。実は「シェイプ・オブ・ウォーター」は、「リトル・マーメイド」、「人魚姫」の逆ヴァージョンであったことが知れる。


アンデルセンの童話やディズニー・アニメで人間と人魚が恋をするというのは、文字やアニメーションの世界でなら問題なく楽しめる。存分に想像の世界に浸れるからだ。それが実写になると苦しいのは言うまでもない。目の前の尾ひれや鱗のある生物に恋愛感情を持つというのは難しいだろう。


あるいはダリル・ハンナの「スプラッシュ (Splash)」という例もないではなく、Netflixが実写版「ザ・リトル・マーメイド (The Little Mermaid)」を製作中という話も聞く。CG技術の発展で今後えぐくない人魚が上手に描かれるようになれば、実写人魚も定着するかもしれない。


「シェイプ・オブ・ウォーター」の場合は、人魚というか半魚人の完全に異形な者だが、それを人間側のイライザも発話障害という身体的にディスアビリティを持つ人間として造型することで、人間-異人種という構図の垣根を限りなく小さくし、違和感を取り除くことに成功している。


また、近年、乱立するスーパーヒーローもので多くの宇宙人/異生命体が登場し、こういう異生命体間において恋愛が発生することが普通に描かれるようになり、人々がこういう設定に違和感を持たなくなってきているということもあるだろう。


とはいえ、それらは異生命体といっても、見かけ上は人類とそれほど変わらなかった。それが顔は魚で身体は鱗に覆われているとなれば、やはりそこに恋愛感情が発生する余地はあまりあるまい。デル・トロのすごいところは、それを説得力をもって描いているところにある。歪つではあるが、それ故に強い感情と磁場が発生する。演じるサリー・ホウキンスもよく期待に応えている。この世界はやはりデル・トロしか描けまい。











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1960年代初期、冷戦の時代、ボルティモア。イライザ (サリー・ホウキンス) は発話障害を持っており、耳は聞こえるがコミュニケイションには手話を使い、政府のよくわからない機関で清掃の仕事をしていた。アパートはシアターの上の階で、同じビルのテナントの売れない絵描きギルズ (リチャード・ジェンキンス) は、数少ない心許せる友人の一人だった。ある日、イライザが働く施設に、謎の生物が持ち込まれる。興味を持ったイライザはその半魚人生命体に近づき、コミュニケイションをとるようになる。施設の責任者であるストリックランド (マイケル・シャノン) はサディスティックな性格で、半魚人を痛めつける。部下のホッフステットラー (マイケル・スタールバーグ) は実はソ連のスパイで、しかし科学者でもあるホッフステットラーはそんなストリックランドを苦々しく思っていた。段々弱って行く半魚人をなんとかしなければと思ったイライザは、同僚のゼルダ (オクタヴィア・スペンサー) とギルズを巻き込んで、半魚人を施設から脱出させる計画を立てる‥‥


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