The Revenant


レヴェナント: 蘇えりし者  (2016年2月)

一昨年、アメリカでも話題になり、昨年アメリカ版リメイクが製作されたフランス製ホラーTVミニシリーズ「ザ・リターンド (The Returned)」の原題が、「Les Revenants」だ。ある時、死者が一斉に甦って再び姿を現すという話で、だから今回も「The Revenant」というタイトルを見た時から、主演のレオナルド・ディカプリオが死ぬような思いをして生還する話だろうなというのは、なんとなく見当がついた。毛皮着て寒風に吹きさらされているポスターを見るに、雪山サヴァイヴァルものか。


しかし、まさかもしかして本当にホラーだったりするか。死んだディカプリオが生き返る話だったりするか、いや、演出のアレハンドロ・イニャリトゥは何やるかわからん奴だから、ホラー撮ってもおかしくない。しかも「レヴェナント」はここへ来て注目度大で、ほとんどの映画賞でノミネートされるか受賞している。いったいぜんたいどんな作品なんだ。しかしあんまり事前に情報仕入れ過ぎても面白くないし、と、痛し痒しの思いで劇場に足を運ぶ。


ところで「レヴェナント」を見た前後に、ニューヨークは記録的な大雪と寒波に相前後して見舞われた。雪の時はほぼ完全に地上交通網は麻痺し、うちの前の除雪車が来る気配がまったくない道では、後から後から果敢に突っ込んでくるクルマが雪にタイヤをとられて立ち往生し、人間もほとんど雪をかき分けかき分け進むみたいな状態になった。


その翌々週には、今度はもう少しで華氏零度 (摂氏-17度)に手が届くという何十年振りという寒波が襲来、必要のない者は外に出るなというお達しが出る。家の中のセントラル・ヒーティングは華氏73度 (摂氏22度) に設定して温風加湿器も稼働しているのだが、それでも底冷えがするというか、あったまっている気がせず、家の中が冷え冷えとする。


そんなこんなで思い出すのは、やはり「レヴェナント」のディカプリオのことなのだった。こんな雪の中、こんな気温の中、クマに襲われ生き埋めにされ置き去りにされ、立つこともままならず食料はなく、川に流され、息子は殺され有り金とられ、怪我は悪化し身体は腐り始める。寒さに弱い私なら、既に30回は死んでるなと思う。


こないだ、誘拐拉致され何年も監禁暮らしを余儀なくされた主人公を身体を張って演じた「ルーム (Room)」のブリー・ラーソンより、何十年分の絶望を一瞬の表情で表現する「さざなみ (45 Years)」のシャーロット・ランプリングの方がすごいと思うと書いたのだが、しかし、「レヴェナント」は本当の本当に極限まで身体を張っている。このくらいやると、評価云々よりただただ圧倒される。


ディカプリオは当然そうだが、彼だけに限らず、関係者全員疲労消耗しただろうということは想像に難くない。全員軽度の凍傷くらいは経験しただろう。本気で命に関わるような事態も何度もあったのではと思われる。演技というより本気で命を賭けたサヴァイヴァルを見ているようで、視覚的には超寒いが、手の平にはじっとり汗をかく。


ディカプリオはかつて、「タイタニック (Titanic)」で氷の海原に沈んでいくという体験をしているわけだが、あれはセット撮影で、吐く白い息は後付けのCGだった。今回は何もせずとも吐く息は白く、鼻水が口髭の上で凍っている。


これまでにも雪山を描いた作品はいっぱいあった。つい最近もエヴェレスト山系のメル登頂をとらえた「メル (Meru)」があったし、雪山登頂というと、「運命を分けたザイル (Touching the Void)」もある。そうそう、冬季サヴァイヴァルなら「ザ・グレイ 凍える太陽 (The Grey)」も忘れるわけにはいかない。


TVに目を移すと、近年は極限系サヴァイヴァル・リアリティ全盛ということもあって、ディスカバリーとヒストリー、それにナショナル・ジオグラフィック・チャンネルを中心に、この手の番組には事欠かない。特に冬季アラスカで、サヴァイヴァルをしているのか日常生活をしているのかよくわからないという人々に密着するリアリティ・ショウが多々ある。いったい何を好き好んでああいう極限の地に率先して住むのか。


しかし、それらの作品・番組にも増して、「レヴェナント」は本当に寒く、痛そうなのだ。見ただけで痛覚や温度感覚を刺激される。これを先週「マネー・ショート (The Big Short)」をがたがた震えながら見た、超寒かった映画館で見たら、凍死もんだったに違いない。「レヴェナント」を見終わって外に出ると、大雪の名残りでまだ至るところに除雪した雪山が残っているのだが、それでも遭難して死ぬ可能性はない文明世界にいることに、心の底から安堵して帰途につく。


今日は帰りがけに日系スーパーのミツワに寄って、久し振りに刺し身を買うつもりなのだった。そういえばディカプリオも、捉えた魚を生のまま頭からがぶりと行ってたな。川魚は火を通さないと虫が出るぞ、実は私はかつて、鮭のソテーにすら生焼けのものに当たって七転八倒して死ぬ思いをしたことがある。ああ本当に「レヴェナント」のような世界に住んでなくてよかった。










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19世紀初頭西部開拓時代。ヒュー・グラス (レオナルド・ディカプリオ) はネイティヴ・アメリカンの亡き妻との間に息子のホウクがおり、毛皮猟の白人たちを案内して生計を立てていた。一方、白人に娘をさらわれたアリカラ族の首長は、グラスと、ヘンリー (ドーナル・グリーソン) をキャプテンとする一行も狙っていた。ある時グラスは森の中でクマに襲われ、瀕死の重傷を追う。雪山では動けないグラスと一緒では移動はままならず、やむなくヘンリーはグラスとホウク、ブリジャー (ウィル・ポールター)、フィッツジェラルド (トム・ハーディ) を残し、先に進む。しかしフィッツジェラルドは最初からグラスを守るつもりは毛頭なく、ホウクを殺し、ブリジャーを騙してグラスを置き去りにする。しかしグラスは瀕死ながらも生き延び、怪我と飢え、寒さに耐え、追っ手から身を守りながらフィッツジェラルドに復讐するために雪山を進む‥‥


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