なんでまたサンダンスの放送するオリジナル番組って、こんな地味なんだろう。昨年の「レクティファイ (Rectify)」もそうだったが、今回も話に殺人とかドラッグとかが絡む割りには、ペースは悠揚迫らずという感じでやたらゆっくりとしているし、アクションが多発するわけでもない。じわり、という感じで話は進んで行く。もっとも、面白くないわけではなく、「レクティファイ」同様、これまた積極的に面白いとさえ言える。しかしこの番組がネットワークで放送される可能性はないだろう。
私がこの番組に興味を惹かれたのは、話の内容もそうだが、舞台がニュージャージー北部のニューヨークと接する辺りの山間部の、ネイティヴ・アメリカンが多く居住する地域であるというのも大きい。この辺りはニュージャージーから北へ向かう時は必ず通過する場所だが、今までここら辺にネイティヴの居住区があるとは知らなかった。よく知られている一大ショッピング・アウトレットのウッドベリー・コモンズは、この山間部を抜けた先にある。
この辺りでは最も標高の高いベア・マウンテンは、頂上までクルマで行けて絶景なのだが、途中から道の端は崖になっていて、道幅も広くない。落ちたらそこは千尋の谷底、しかもガード・レイルはないという怖ろしい場所で、切り落ちた崖側から遠く下を流れるハドソン・リヴァーを見ると、とにかく高所恐怖症の気がある私としては、それだけでステアリングを握りながらケツの下がもぞもぞとした。路面が凍結し始めたら死んでも来たくないところだ。むろん冬季には閉鎖されるのだが。
また、調べていて知ったのだが、私の昨年のベスト映画の一つである「アウト・オブ・ザ・ファーナス (Out of the Furnace)」において、ウディ・ハラーソンが隠れている山の中は、ラマポ山脈ということになっているそうだ。ラマポと一口に言っても、ニューヨークからニュージャージャーを挟んでペンシルヴァニアに至るかなり広い地域を指すようだから一概に同じ所とは言えないが、この辺に持っていた、どちらかというと牧歌的なイメージとかなり変わるなと思わされた。
むろんネイティヴ・アメリカンが話に絡むのは、「レッド・ロード」だけではない。A&Eの「ロングマイヤ (Longmire)」もネイティヴ居住区を管轄とするシェリフの話だ。いずれにしてもここを舞台とすることで、これまでは人種問題を描くと短絡的に白人対黒人、もしくはスパニッシュと相場が決まっていたこの手のドラマに新しい構図が生まれ、新たなダイナミズムを持ち込んでいる。ある意味、マンハッタンを舞台とするその他多くの刑事ドラマや法廷ドラマよりも興味深い。
主人公の白人警官のハロルド、前科のあるネイティヴ・アメリカンのフィリップを演じるのが、マーティン・ヘンダーソンとジェイソン・モモア。ヘンダーソンは短命に終わったABCの僻地医療群像ドラマの「オフ・ザ・マップ (Off the Map)」に出ていた。医療ドラマといっても「グレイズ・アナトミー (Grey’s Anatomy)」のションダ・ライムズが製作すると、どうしても辺境にいても恋愛ドラマになってしまう。モモアは現在、HBOで人気の「ゲーム・オブ・スローンズ (Game of Thrones)」に出ていたが、特に知られているのはSyFy (当時SciFi) の「スターゲイト・アトランティス (Stargate Atlantis)」と、タイトル・ロールを演じた「コナン・ザ・バーバリアン (Conan the Barbarian)」だろう。とにかく強面でガタイがいい。
精神をかなり病んでいるハロルドの妻ジーンを演じるのがジュリアン・ニコルソン。こういうセンシティヴな役がよく合う。彼女の壊れかけ具合いが話に説得力を与える肝だが、充分大任を果たしている。ショウタイムの「マスターズ・オブ・セックス (Masters of Sex)」にも出ており、「レッド・ロード」も「マスターズ・オブ・セックス」も第2シーズン製作が決まっているが、バッティングしないでいいのだろうか。
ちょっとあれっと思ったのが、この番組、ラマポが舞台ではあるが、実際の撮影は必ずしも現地ではなく、南部でも撮影しているそうだ。撮影コストやら移動手段、もしかしたら北部ではすぐ山の植生の色付きが変わってしまうことなど、色々な条件もあるのだろう。とはいえ、ラマポと言っているならやはりラマポで撮ってもらえると、こちらも今度ウッドベリーに買い物に行った時、そうかこの辺かと気分が味わえる。猫も杓子もマンハッタンよりは、あまり聞いたことのないラマポという方が、よほど臨場感があるのだった。