放送局: CBS
プレミア放送日: 11/26/1956 10:30-11:00 (NBC)
放送日: 9/4/1972 10:30-11:00 (ボブ・バーカーがホストの最初のエピソード)
放送日: 6/15/2007 (Fri) 11:00-12:00 (ボブ・バーカーがホストの最後のエピソード)
製作: ア・マーク・グッドサン・プロダクション、フリーマントルメディア・ノース・アメリカ、ザ・プライス・イズ・ライト・プロダクションズ
製作総指揮: マーク・グッドサン、ビル・トッドマン、ロジャー・ドブコヴィッツ、ボブ・バーカー
クリエイター: ボブ・スチュワート
ディレクター: バート・エスカンダー
ホスト: ボブ・バーカー
内容: 長寿ゲーム・ショウ「ザ・プライス・イズ・ライト」のホストを35年間勤めたボブ・バーカーが担当する最後のエピソード。
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現在アメリカに住む者なら誰でも知っているという国民的クイズ/ゲーム・ショウは、現在放送中の番組に限るならば4つある。つまり、「ジェパディ (Jeopardy)」、「ホイール・オブ・フォーチュン (Wheel of Fortune)」、「ザ・プライス・イズ・ライト」、そして「フー・ウォンツ・トゥ・ビー・ア・ミリオネア (Who Wants to Be a Millionaire)」の4本だ。
このうち比較的新参の「ミリオネア」を除けば、あとは歴史のあるクイズ/ゲーム・ショウだ。「ジェパディ」が始まったのは1964年、「フォーチュン」は1975年、そして「プライス」に至っては、そもそものオリジナル・ヴァージョンの番組が始まったのは1956年、既に半世紀以上経つ。英語圏の番組としては最長寿のゲーム・ショウだ。
とはいえだいたいどの番組も途中で休止期間があったりするのが普通で、「プライス・イズ・ライト」の場合、NBC番組として始まったオリジナル版はいったん1965年で放送を終え、1972年からCBSに場所を移して新しくまた放送が始まっている。その時にホストとして就任したのがボブ・バーカーだ。その時から数えて既に35年経つ、単独ホストとしても英語圏では文句なしに最長寿の番組が、「プライス・イズ・ライト」なのだ。そして今回、そのバーカーも引退を表明、彼がホストを担当する最後のエピソードが放送された。
上記4番組では、「ジェパディ」、「フォーチュン」、「ミリオネア」の3番組がいわゆるシンジケーション番組で、「プライス」の場合、日中放送ではあるが、CBS番組としてちゃんとCBSのHPにも載っている。同様に日中放送のABCのトーク・ショウ「ザ・ヴュウ」が、やはりシンジケーション番組ではなく、ABCというネットワーク番組なのと同じだ。日中編成で単発でシンジケーション番組に囲まれてネットワーク番組が編成されているというのも面白いが、長年の歴史のうちにこうなった。これはもうこういうものとして理解するしかない。つまり、この中では「プライス」がその歴史の長さといい番組の形態といい、最も異色と言える。
番組としての「プライス」は、その基本形は世界中の誰でもがほとんど理解していると思う。というのも、色々ある商品の値段当てゲームである「プライス」は、クラシック・ゲーム・ショウとしてそのフォーマットが世界中に輸出されており、世界各国で現地版が製作されているからだ。現在、日本版が製作されているという話は聞かないが、ほぼ同様な進行の番組を日本にいた時に見た記憶があるので、かつては放送されていたか、あるいは内容をパクったのだろう。単純かつ効果的なフォーマットだから、真似しやすいしパクリやすい。
番組ではまず、冒頭、ステュディオの観客席から4人を選び出し、その4人によって予選的プライス当てを行う。ある品物を見せ、その実際の値段を超えない範囲で最もその値段に近かった者が、壇上に呼ばれてホストのバーカーと共に次の段階に進む。最終回の最初の値段当ては三菱製52インチのフラット・スクリーンHDTVで、これに勝った小太りで愛嬌のある女性デニースが次のラウンドに進む。因みにこのHDTVの値段は2,799ドルで、デニースの出した金額は2,250ドル。実はあと3人のうち、一人が出した金額は2,800ドル、もう一人が2,801ドルだった。たった1ドルと2ドルの違いでしかない。しかしルールではオリジナルの値段を1ドルでも超えると失格なので、デニースが漁夫の利をさらった格好になった。それにしても52インチHDTVが2,799ドルか。三菱が同じものを日本で同じ値段で出していたら商売にならんだろうな。
その後の展開を簡単に述べると、デニースはこの日つきまくっていたようで、その後壇上でシヴォレー・コルヴェットの値段を当てさせる段で無事コルヴェットを獲得、その後、この日の成績上位者二人によって争われる最後の勝負では、今度はキャデラックのオープン・カーまで見事に予想していきなり新車2台、合わせて約14万ドル分の賞品を1時間で獲得して帰っていった。彼女の生涯最良の日だっただろう。因みにこの日はもう一台の車、クライスラー300を当てた参加者もいたから、新車だけで3台を提供する大盤振る舞いだった。いつも見ているわけではないから毎回こんなに派手に賞品が飛びかうのかは知らないが、たぶん最終回だからというのも大きかったに違いない。
「プライス」がその他のゲーム/クイズ・ショウと最も大きく異なっているのは、設問に答える参加者が、ステュディオ内の自分の仲間と自由にコミュニケートをとってそれに答えるところにある。いったん問題が出されると、ステュディオ内の仲間たちだけでなく、関係ない者まで大声でいくらだいくらだとここを先途とばかりに絶叫して自分の予想値段を叫び、指を折ったり伸ばしたりして数字を示してアピールする。うるさいったらありゃしない。要するに、番組としてのエキサイトメントはかなりの部分こういうステュディオ内の喧騒した雰囲気に負っている。やたらとTVがうるさいので、なんだろうと思ってつい目を向けると、ついつい惹き込まれて見てしまう、という印象が顕著なのが「プライス」だ。これが他のクイズ/ゲーム・ショウの場合、ステュディオ内の身内に答えを訊いたりしたら、その場で失格なのは言うまでもない。
ホストのバーカーは1923年生まれだから当年とって83歳だ。「プライス」が今年で35周年というと、最初に番組ホストを担当した時に既に48歳だったわけで、その時にその後35年も同じ番組のホストを続けることになろうとは夢にも思わなかったに違いない。今、同様に高齢のホストとなると、なにをおいてもすぐに頭に浮かぶのは「リージス&ケリー」やABCが放送したネットワーク版「ミリオネア」のリージス・フィルビンが1931年生まれの75歳、そのフィルビンの盟友でいつもフィルビン・ネタで年齢ギャグをかましているCBSの「レイト・ショウ」のデイヴィッド・レターマンは、実は1947年生まれの60歳にしかならず、全然歳という感じはしない。還暦というとなんとなく歳とったみたいだが、今では60歳なんて壮年としか言うまい。バーカーから見れば、レターマンもまだまだガキだ。
つまり、83歳で現役という点でも、35年間最長不倒の番組ホストという点でも、バーカーは唯一無二の存在であったと言える。バーカー以前に記録を持っていたNBCの「トゥナイト」のジョニー・カーソンの単独ホスト記録は29年であり、1992年に67歳で番組を引退したカーソンの記録をその10年後にバーカーが更新するまで、まず当分この記録が破られることはないだろうというのが関係者の一致した見方だったのだ。いや、しかし、35年か。タモリの「笑っていいとも」ってまだやってんだっけ? あれって25年くらい? それでもまだまだと思わざるを得ないが、この感じでは、あと半世紀以内で世界でバーカーの記録を脅かす可能性があるのは、「いいとも」だけなんじゃないだろうかという気がする。それとも他の国では、似たような記録を持っている番組があるのだろうか。
バーカーは動物愛護運動でも知られており、こちらも20年以上担当していたミスUSAページェントのホストを降りたのも、景品として毛皮があることに抗議したものだった。「プライス」でも毎回番組の最後に「あなたのペットに避妊去勢手術を受けさせるのを忘れないように」と言うらしいのだが、35年間の最後のお別れのセリフも、やはりいつも通りのこのセリフだったというのがいかにもバーカーらしい。CBSはこれだけの記録を作ったバーカーということで、キャリアを回顧した1時間枠の特番「ボブ・バーカー: ア・セレブレーション・オブ・50イヤーズ・オン・テレヴィジョン」も5月に放送している。
CBSはバーカーが担当する最終回の「プライス」放送日の6月15日には、通常なら午前11時からだけ放送の「プライス」を、午後8時からも再放送した。ついでに言うと、この日、その後9時からはCBSは日中放送番組を表彰する「デイタイム・エミー賞」中継を控えていた。再放送の「プライス」が終わると、カメラは控え室に引っ込んだバーカーやキャストの面々を映し出し、そのままバーカーが今度はエミー賞のノミニーとしてデイタイム・エミー賞会場に引き続いて顔を出すという趣向になっていた。もちろんこれは編集上のトリックで、「プライス」の最終回の収録はもちろん放送に先立つ一と月以上前には終わっている。エミー賞中継に合わせて新しくその部分をいかにもという感じで撮り足しただけだ。功労賞的な意味合いも大きかっただろうが、当然の如くバーカーはまたゲーム・ショウ・ホスト部門で受賞していた。
正直言ってこういう機会でもなければ、クイズ・ショウやトーク・ショウはともかく、まったく見ないソープ・オペラ番組が幅を利かすデイタイム・エミー賞中継なんてまず見ないんだがと思いながらTVを見ていたら、昨年のシーズンでFOXの「アメリカン・アイドル」に出てわりと勝ち残っていたコンスタンティン・マロウリスが、プレゼンターとして出てきたのはびっくりした。そういや彼は、今、役者としてCBSのソープ「ザ・ボールド・アンド・ザ・ビューティフル (B&B)」に出ているのだった。なんか、いつもとTVの視聴パターンが違うと、新しい発見がある。
さて、昨秋にバーカーが引退を発表して以来、業界はその跡継ぎの予想でかまびすしい。これまでにもジョン・オハーリー、ジョージ・ハミルトン、マリオ・ロペスなんて名が挙がっているが、おかしいのは彼らが全員ABCの勝ち抜きボールルーム・ダンス・リアリティ、「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ」に出ている点だ。「スターズ」ははっきり言って二線級のスターもどきが出演する番組だった。要するに皆、今、身体が空いているということなんだろう。
その中でもかなりの信憑性をもって伝えられたのが、このほどスキャンダルを撒き散らした挙げ句、思い切り飛ぶ鳥跡を濁して「ザ・ヴュウ」を辞めたロージー・オドネルで、元々オドネルは自分のトーク・ショウを持っていたこともあり、これはあり得ない話ではないと私も思った。しかしオドネルはこの話を正式に否定しているため、この話もなさそうだ。「プライス」は9月の新シーズンまで再放送 (山ほどエピソードはある) が続くわけだが、やはりバーカーのような歴史を作った人間が前にいると、その後に続く者も多少はやりにくかろうと思う。今考えると、カーソンの跡を継いだ「トゥナイト」のジェイ・レノはよくやったよなと思わざるを得ない。
CBSはクレイグ・キルボーンが辞めた後の「レイト・レイト・ショウ」の新ホストや、ダン・ラザーが辞めた後の「イヴニング・ニューズ」の新アンカーを決めた時も、じっくりと時間をかけて後任を決めた。だから今回も、もしかしたら時間にこだわらずに、じっくりとあせらず、これというホストが現れるまで待つ気かもしれない。やろうと思えば臨時ホストで急場を凌げないことはなく、それはそれでまた面白いことは、「レイト・レイト・ショウ」の膨大な臨時ホスト群が証明している。というわけで、こちらもじっくりと待たせてもらいます。
追記 (2007年7月)
すったもんだの挙げ句、番組の次期ホストはどうやらドリュウ・キャリーに決まったようだ。彼自身が7月23日のCBSの「レイト・ショウ」で言っていたことだから間違いあるまい。キャリーはアメリカでは8シーズン続いたシットコムの「ザ・ドリュウ・キャリー・ショウ (The Drew Carey Show)」で知られている。日本でだと、うーん、紹介されているのは「ピノキオとゼペット (Geppetto)」くらいだろうか。アメリカでは珍しいサッカー・ファンでもあり、「レイト・ショウ」でもついでにホストのデイヴィッド・レターマン相手にサッカーの面白さを吹聴して帰っていった。レターマンはさもつまらなさそうに聞いていた。
キャリーは今度CBSでゲーム・ショウ「パワー・オブ・テン (Power of 10)」のホストを担当するのだが、そのヴィデオを見た「プライス」プロデューサーがキャリーに「プライス」ホストの興味のほどを打診、このほど正式に決定したということだ。実は彼が「レイト・ショウ」のゲストとして招かれたのは「パワー・オブ・テン」の宣伝のためだったろうが、期せずして「プライス」新ホスト就任発表の場となってしまった。いずれにしても、これで「パワー・オブ・テン」が初期の放送を終えた後も続いていく可能性はなくなったな。