The Place Beyond the Pines


プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命  (2013年4月)

たぶん今演出家が起用したい旬の俳優の一、二を争うと思える二人、ライアン・ゴズリングとブラッドリー・クーパーのその両方を起用した豪華な作品が、「ザ・プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」だ。 

  

俳優は豪華だが、では、だからといってその内容も派手派手しいものかというと、そうとは限らない。「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」は、反対にそういう 過剰な華美さとはまったく無縁の話だ。犯罪が絡むとはいえ、「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」は、むしろ印象としては地味とすら言える。 

  

実はゴズリングとクーパーは、両主演とはいえ、二人が同じ時間軸で交錯するのは、ほんの一瞬のことでしかない。文字通り、ほんの一瞬なのだ。二人が至近距離でお互いを認めるのは、一秒にすら満たない。 

  

それまでの前半部の主人公がゴズリング演じるルークで、後半はクーパーのエイヴリーがメインで話が展開する。全編を通じて出演しているのが、ゴズリング演じるルークと関係し、二人の間に息子 (ジェイソン) を持つロミーナを演じるメンデスだ。 

  

ゴズリングの印象を一言で言い表すと、クール、ということになろうかと思う。元々そういう印象はあったが、一昨年の「ドライヴ (Drive)」でその評価は決定的なものになった。かつてショウタイムで「ザ・ビリーヴァー (The Believer)」で初めて目にした時、彼はなかなかいい癖のある俳優になりそうだとは思ったが、ここまでブレイクするとは思わなかった。 

  

一方のクーパーも「世界にひとつのプレイブック (Silver Linings Playbook)」でオスカーにノミネートされ、単なるハンサムなアクション俳優ではないところを示した。この、現在を代表する二大スターが出ているというだけで、これはなにか面白そうだという気にさせる。 

  

ルークは地方を巡業するサーカスのオートバイ・スタントの花形スターだ。この世界ではそこそこ有名だが、かといってそれでいつまでもメシが食っていけるほど陽 の当たる世界でもない。ルークは去年も訪れたアップステイトの小さな町を訪れ、ロミーナと再会する。実はロミーナはその時ルークの子供を身ごもり、生まれた子供を新しいボーイフレンドのコフィと一緒に育てていた。 

  

自分に子供がいることを知ったルークはなんとかしなければと考え、サーカスを辞めて町に居残る。しかしだからといってすぐに金の入る仕事の当てはなかった。 ルークはオートバイを通じて知り合った修理工場のロビンから、銀行強盗はてっとり早く金になると教えられる。特にセキュリティが厳しいわけではない田舎町 の銀行は、間を置いて慎重に襲えば捕まる怖れはないというのだ。 

  

腹をくくったルークはロビンと共に銀行強盗を決行、思ったよりスムーズに事は運び、味を占めたルークは二度三度と連続して銀行を襲撃、さらに強盗を繰り返そうとするルークに危険を感じたロビンは、ルークのオートバイを壊して辞めさせようとする。しかしルークは単独で銀行を襲撃、一方、銀行も度重なる強盗に対して防弾ガラスを設置するなどの対策をとっていたため、手間取ったルークはほとんどとるものもとりあえず銀行から逃げる。 

  

しかし駆けつけたパトロール・カーに追われたルークは、ほうほうの体で一軒家に逃げ込む。そこをパトロール中の警官のエイヴリーに見られていた。功名心に逸るエイヴリーは、援軍の到着を待たずに一人抜き身で家の中に足を踏み入れる‥‥ 

  

ここまでがルーク演じるゴズリングが中心の前半部で、中盤以降、焦点はエイヴリーに移行する。なるほどこういう2部構成かと思っていたらそうではなく、話はさらに15年後、ルークとロミーナの子ジェイソンと、エイヴリーの息子AJの成長ぶりが話に絡んで来る。小さな町を舞台にした大河ドラマ的な話になってくるのだ。 

  

ゴズリング、クーパー、メンデス以外にも、登場してくるメンツがこれまた豪華だ。ロビンを演じるベン・メンデルスゾーンは「ジャッキー・コーガン (Killing Them Softly)」での崩れたチンピラ役が印象的だったし、同じく「ジャッキー・コーガン」にも出ていたレイ・リオッタが、汚職刑事のデルーカとして後半登場する。 

 

エイヴリーの妻に扮しているのはローズ・バーンで、ブルース・グリーンウッドが「フライト (Flight)」で演じたのと似たような調停役をここでも演じている。そして成長したジェイソンを演じるのは、デイン・デハーンだ。「クロニクル (Chronicle)」「欲望のバージニア (Lawless)」の時からさらに大人になった。彼が出ているなんてまったく知らなかったから、嬉しい驚きだった。個人的にはクーパー、ゴズリングだけでなく、デハーンも入れて私にとって旬の俳優3人の揃い踏みで、これは見る価値高い。 

 

そのデハーン演じるジェイソンに対するAJを演じているエモリー・コーエンもいい感じで嫌らしさを出していて、こちらもなかなかいい。こっちは知らないなと思って調べてみたら、現在NBCの「スマッシュ (Smash)」に出演中だった。「スマッシュ」はDVRに録画しといてパフォーマンス部分だけを後から見ていることもあって、彼が出ていることなんかまるで気づいてなかった。 

 

こういう出演陣も見ものだが、同様に印象深いのが、 開かれていそうに見えて実は出口のない、いかにも典型的なアメリカの地方の町の雰囲気の醸成だ。舞台となるニューヨーク北部の町スカネクタディは、この辺まで来るとニューヨーク州とはいってもニューヨークらしきものは何もない、典型的なアメリカの田舎町だ。むしろニューヨーク・シティに出るよりはカナダのモントリオールに出た方が便利がよさそうだ。 

 

わりと自然もあり、足を伸ばせばそこそこ大きな都市もあるが、はっきり言って、実はアメリカのほとんどの町はこんな感じだ。もちろん自然環境は住むところによって異なってくるだろうが、中途半端に開かれた町は、若者にとってはただただ鬱屈した息苦しいものであるだけというのは、そういう年代を経験した者なら誰でも理解できるだろう。そういえば「マーウェンコル (Marwencol)」の主人公、マーク・ホーガンキャンプが住んでいたのも、ここからそう遠くないアップステイトの町だった。 

 

そういう感じで地 方へ行けばいくほど人々が普通に銃を持っている確率は高くなるのに、銀行の警備はどんどんゆるくなる。マンハッタンの銀行ではテラーと客との間に防弾ガラ スがない銀行を探す方が難しいのに、地方の銀行へ行くと、テラーと客の間は防弾ガラスどころか低いカウンターで仕切られているだけだったりする。手を伸ばせばテラーにも金にもすぐ届きそうだ。わざわざそうやって人を犯罪に誘導しているのではないかという気すらする。今拳銃を持っていたら、発作的に銀行強盗をしてしまいそうだ。ロビンが、間を置いてやれば銀行強盗は捕まらないと嘯くのも、あながち間違ってはなかろうと思う。 

 

私が現在住んでいるのはNYからハドソン・リヴァーを渡ってすぐの町で、スカネクタディほど小さくなく、そんなに自然が残っているわけでもないが、それでも近くの公園にはサーカスでこそないが、毎夏巡業遊園地がオープンする。メリーゴーラウンドや、こんな狭い敷地内によくこんなのが設置できるよなと思える小振りの360度回転するライドが営業していたりする。「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」公開中も、この遊園地が営業中だった。遊園地なぞ普段ならまったく気にもかけないのだが、映画を見た後にこのそばを通った時は、さすがにこういう仮設遊園地を営業しながら全米各地を巡業している人々がいるということが頭をよぎった。この辺の近くの銀行は、防弾ガラスが入っている。 









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ルーク (ライアン・ゴズリング) は巡業サーカスのオートバイ・スタントの花形ライダーだった。アップステイトの小さな町で興行中のルークを、ロミーナ (エヴァ・メンデス) が訪れる。ロミーナには、前回ルークがこの町に来た時にできたルークの子供がいた。彼女は今はコフィ (マハーシャラ・アリ) と暮らしていたが、自分の子供がいると知ったルークは、サーカスを辞めて町に留まる決心をする。とはいえ、根無し草のルークには先立つものがない。バイクの練習中に知り合ったロビン (ベン・メンデルスゾーン) は、そんなルークに銀行強盗の話を持ちかける。ルークのバイクの腕があれば楽勝で逃げきれるというのだ。どうしても金が欲しかったルークは話に乗り、そして実際に強盗は成功する。ロミーナと息子に楽をさせようと急ぐルークは間を置かずに何度も銀行を襲おうとするが、やばいと感じたロビンは手を引く。ルークは単独で強盗を決行するがうまく行かず、一軒家に逃げ込んだところをパトロール中の警官エイヴリー (ブラッドリー・クーパー) に目撃される‥‥


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