The Others

アザーズ  (2001年9月)

予告編で見た「アザーズ」は、ホラーというのに全然怖くなさそうで、これはパスしようと思っていた。そしたら、既に公開して二月近く経つのに、観客動員数が衰えない。それどころか、先週は先々週を上回る興行成績を上げて、順位を上げてすらいる。まあ、先々週はテロリスト・アタックの影響により、映画を見に行った者の数自体が少なかったというのもあるが、それでもこういう動きをする作品は極めて稀だ。実際、他の作品は、皆前週に較べ成績が落ちている。


それなのに、「アザーズ」だけが、前の週から成績を上げ、他の新規公開映画をよそに、ついに第2位にまで浮上した。これは作品としては公開後、最高の順位である。通常、新規公開作品は公開初週に最高の観客動員数を見せ、その後漸減していく。公開後二月経つ作品が、前週から観客動員数を増やすなんて話は、ほとんど聞いたことがない。しかも上映劇場数は前週より全米で260館も少なくなってのこの成績である。とにかく口コミで人が入っている。時々、口コミでも信用できない作品というのもあるが、もしかしたら本当に面白いのかも知れないと、期待半分疑惑半分で見に行った。


時は第2次大戦末期のイギリス。人里離れた郊外のお城のような邸宅に住む女主人のグレイス (ニコール・キッドマン) には、長女のアン (アラキナ・マン) と長男のニコラス (ジェイムス・ベントリー) という二人の子供がいた。夫は戦争に出兵しており、召使いたちもいなくなった今、グレイスは新しく家の面倒を見てくれる者を求める広告を出す。アンとニコラスは太陽の光に過敏なアレルギー体質であり、城の窓はいつも厚いカーテンで覆われていた。そのうち、グレイスは誰もいるはずのない部屋から物音を聞くようになり、アンはいもしないはずの人間を見、お喋りをしたと報告するようになる。グレイスは新しい召使いたちが何事かを画策していると疑うが‥‥


ロバート・ワイズの「たたり」、アルフレッド・ヒッチコックの「レベッカ」、スタンリー・キューブリックの「シャイニング」の系統に連なる、豪奢な洋館を舞台とする正統派のホラーで、いやあ、こういうゴシック・ホラーは最近あまり見ることがなかったので、実に楽しんだ。数年前に、ヤン・デ・ボンが「ホーンティング」なんて「たたり」のリメイクを撮ってたが、あれはどう見てもSFXを多用した虚仮脅しでしかなかったし、こういう、演出の巧さで見せてくれる正統ホラーを見ると、変な言い方だがほっとする。


作品で巧いと思ったのが、子供たちが日の光に過敏な体質であるという設定で、最初、こいつらがヴァンパイア化していくノリか? と思わせる。この設定の説得力はともかく、おかげで城の中が常時暗いという説明に一応の理屈づけがなされており、邸内がいつも薄暗いことで、いやが上にも雰囲気を盛り上げる。もう一つ、最近のホラーとは一線を画しているのが、作品の中で一滴の血も流れないということである。正統派ゴシック・ホラーの醍醐味なのだが、要するに、本当に語り口だけで怖がらせてくれるのだ。


キッドマンははっきり言っていつも演技が大仰になり過ぎる嫌いがあり、それは今回も変わらない。はっと息をのむ、なんてシーンは、息をのむ音が実際に聞こえたりするとかえって興醒めなのだが、それをやっちゃうのがキッドマンなのだ。しかし、それでも今回は多分監督から釘を刺されてんだろう、興を削がれるほど大袈裟じゃなくて、一安心した。ちょっと勝ち気なアンに扮するマン、とっつぁん坊やっぽいが、色白でいかにもひ弱そうなニコラスに扮するベントリーも悪くない。キッドマンの夫のチャールズに扮するのは、「60セカンズ」のクリストファー・エックルストン。


監督のアレハンドロ・アメナバールはチリ出身で、「ミツバチのささやき」のアナ・トレントが主演したスリラー「テシス/次に私が殺される」で一躍注目された。次の「オープン・ユア・アイズ」も、同様のホラー系で怖いらしいんだが、残念ながら両方とも未見。因みに「アザーズ」は、「オープン・ユア・アイズ」を見てリメイク権を買い取った、まだキッドマンと別れる前のトム・クルーズがプロデュースしている。アメナバールは脚本/演出だけじゃなく、音楽も担当しており、多才なところを見せている。配給のミラマックスは、今、慌てて彼の次回作を交渉しているに違いない。


この作品で最も気になるのが、作品の中頃で現れる、出兵中のキッドマンの夫チャールズと、エンディングである。チャールズの方は、結局、あれに何の意味があったのかよくわからなかった。自分なりに作品を見終わってから解釈してみたのだが、それを言っちゃうと完全にネタバレになってしまうので、ここでは止す。もう一つのエンディングは、実はこれは私ではなく、一緒に見た女房が言ったことなのだが、最後に謎が登場人物の口から明かされるが、あれは言葉じゃなくて、映像でフラッシュ・バックの形で見せればよかったのにと言っていたのだが、まさにその通りと思った。確かに、あそこは説明くさい言葉に乗せるより、そのシーンを映像にして見せてくれれば、一目瞭然の上、効果的でもあったろう。 うちの女房もいいこと言うじゃん。


この映画を見た時、すぐ後ろにまだ小さい男の子と女の子の姉弟が、お母さんと一緒に座っていた。彼らがまたびびりまくって、ちょっとしたことでも悲鳴を上げる。最初はうるさいなと思ってちらちらと後ろを振り返ってさり気なく注意していたのだが、本当に怖いらしく、女の子はいつの間にやら自分の椅子からお母さんの膝の上に移って、それでも見てる。まあ、映画に入り込んで楽しんでいるならしょうがないかと思って、後はほっといたのだが、特にクライマックスはキッドマンの声をかき消すくらいのステレオ・サラウンドの大声で絶叫するので、その声の大きさでこちらまで椅子から飛び上がるくらいびっくりした。後で場内から失笑が起こったが、それなりに臨場感溢れて面白かったぞ。







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