今年のアカデミー賞実写短編部門のノミネート作品は、アメリカから2本、ベルギー1本、フランス/チュニジア1本、チュニジア/カナダ/カタール/スウェーデン1本という編成。一方共にアメリカ資本といえども、ニューヨークのブルックリンを舞台としているいかにもアメリカという感じの「ネイバーズ・ウィンドウ」と、グアテマラの孤児院を舞台としている「サリア」は、まったく別世界の話と言っていい。
地中海に面したアフリカの小国であるチュニジアから、「ブラザーフッド」と「ネフタ・フットボール・クラブ」の2本ノミネートされているのも興味深い。これまた同じチュニジアを舞台としているといえども、一方は山間の寒村の一軒家、もう一本はコンクリート製の家が建ち並ぶわりと開けた町が舞台であり、これまた肌触りはかなり違う。
冒頭の「ア・シスター」は、ほとんどクルマの内部と警察のオペレーター・ルームだけが舞台のサスペンス・ドラマで、昨年、同様に限られた状態でのサスペンスを醸成した「マザー (Mother)」を思い出す。あちらは「マザー」で、こちらは「シスター」だ。
「ブラザーフッド」は、ISISに加わった息子が、お腹の大きくなった嫁を連れて実家に帰ってくるという話。父はまだ息子が許せないが、母はやはり自分の子は可愛い。一方ほぼ全身を黒装束で覆ったイスラムの嫁は、実はお腹の子の父は別にいることを告白する‥‥
「ザ・ネイバーズ・ウィンドウ」は、毎日の生活に疲れた家庭の主婦が、窓越しの向かいのアパートの若いカップルに、ある種羨望の念を抱く。一見ヒッチコックの「裏窓 (Rear Window)」、しかしこちらはサスペンス・ドラマではなく、最後はヒューマンなオチになっている。この作品が今年の短編賞を受賞した。
「サリア」は、グアテマラで起こった、何十人もの子供たちが犠牲になった現実の孤児院の火災事件を基にしている。ただし、厳しい看守のような見張り番や悲しい最後の結末を除けば、子供たちが掃除する光景は、むしろアルフォンソ・キュアロンの「ローマ (Roma)」を思い起こさせもする。
「ネフタ・フットボール・クラブ」は、ロバを仕込んで単独で国境を越えさせて麻薬を密輸している者たちがいた。そのロバにまだ幼い二人の兄弟が遭遇したことから、思わぬ展開を迎える。兄はロバの積み荷が何かを理解し、それを横流しすることを考えるが、弟には別の考えがあった。ほとんどロバの積み荷を見た瞬間から、冒頭の光景を思い出せばどう展開するか読めるが、後味のよさで私のイチ押しはこれ。今年も楽しませてもらった。