今年のアカデミー賞実写短編部門は、カナダから2本、スペイン、アイルランド、アメリカからそれぞれ1本ずつがノミネートされた。 

 

過去数年間はその中に1本はコメディ系の作品が入っていたが、今回は5作品ともすべてシリアスで、しかもどれもそこそこテンションが高い。老境の婦人が主人公の「マルグリット」が、この中では最も静謐というかアクションが少ないと言えるが、それとて内面の葛藤は他の作品と較べて小さいというわけではない。 

 

そして「マルグリット」以外の4作品は、すべて少年が主人公、もしくは少年が話の重要な位置を占める。「マザー」ではタイトル通り「母」が主人公なのだが、スマートフォンで話す相手である幼い息子に危険が迫る。それを冒頭とエンディングをその息子がいると思える浜辺でサンドイッチした本編は、母のアパート内を1シーン1ショットで撮って緊迫感を高める。初っ端からテンション・マックスだ。 

 

「フォーヴ」はほぼ少年二人の舞台劇のような展開。少年らしく他愛もない意地の張り合いばか仕合いが、思わぬ結末を迎える。余韻の残るこの作品が、私的には今回のベスト。 

 

「マルグリット」は、老境を迎えた女性が、レズビアンのケアティカーの世話を受けているうちに、自分の過去を思い出すというもの。「デテインメント」は、10歳の二人の少年が、まだ幼い子供を殺害したという現実に起こった事件を再構成する。痛ましいとしか言いようがない話だ。 

 

同様に痛ましいというか、それ以上にショッキングなのが最後の「スキン」で、白人至上主義の男が乱暴した黒人の仲間に拉致され拘束され‥‥という展開。あっと驚く結末のインパクトは今回の作品の中では最も強烈。この作品が今年のオスカー短編部門を受賞した。今じゃないと撮れない作品。 

 

思うに短編は、近年の世界情勢、正確に言えば世界情勢の不安定さを、最も早く、敏感に反映しているような気がする。そして今回、少年と老婦が話の中心だったのは、彼彼女らが最も影響を受けやすい立場にいるからではないだろうか。この時期を超え、世界はよくなっていくのかそれとももっと住みにくくなっていくのか。 

 











< previous                                      HOME

「マザー (マードレ) (Mother (Madre))」ロドリゴ・ソロゴエン監督 (スペイン) 19 min 

  

スペインの母の元にまだ幼い息子から電話がかかってくる。フランス旅行中の息子は父親と一緒だと思っていたがそうではなく、人のいない海岸で一人ぽっちで、しかも見知らぬ男が近づいてくるという。母は息子にその場から逃げるよう告げ、警察に電話するが‥‥ 

  

「フォーヴ (Fauve)」ジェレミー・コンテ監督 (カナダ) 16 min   

  

人の姿のほとんど見えない鉱山の村で、男の子が二人、遊びに興じている。どちらがどちらを引っかけるかという遊びがどんどんエスカレートしていく。 

   

「マルグリット (Marguerite)」マリアン・ファーリー監督 (カナダ) 19 min   

 

老境の女性マルグリットをまだ若いケアテイカーの女性が世話をしている。その女性にはレズビアンのパートナーがいた。実はマルグリットも若い時に同性の女性に恋したことがあったが、しかし当時は、女性同士の恋愛が認められる時代ではなかった。 

  

「デテインメント (Deteinment)」ヴィンセント・ラム監督 (アイルランド) 30 min 

 

1993年リヴァプール。10歳の二人の少年が、2歳の子供を殺害したという痛ましい事件を再構成する。   

 

「スキン (Skin)」ガイ・ナティフ監督 (USA) 20 min   

  

白人至上主義の男が、スーパーマーケットで会った黒人が気に入らず、ぼこぼこにする。男はしばらくして黒人の仲間たちに拉致される‥‥ 


___________________________________________________________

The Oscar Nominated Short Films Live Action 2019


2019年アカデミー賞実写短編作品賞ノミネート作品  (2019年2月)

 
inserted by FC2 system