The Oscar Nominated Short Films Live Action 2018


2018年アカデミー賞実写短編作品賞ノミネート作品  (2018年2月)

今回のアンソロジーは、アメリカから2本、英国、オーストラリア、ドイツ/ケニアから1本ずつ選ばれている。冒頭の「デカルブ・エレメンタリー」は、小学校にライフルを持った精神的に不安定な男が現れるという筋書きで、男がバッグの中からライフルを取り出した瞬間、映画を見ていた場内の観客の何人かから、はっという短い悲鳴のようなものが起こった。思わず私も息を呑んだ。数日前に、フロリダの高校で乱射事件が起きたばかりなのだ。タイミング合い過ぎて他人事のように思えない。こんな事件ばかりが起きるってのは、やはりなんかどこか間違っている。銃を持つ自由ってのはあってもいいが、自由と歯止めの利かない放縦ってのは別ものだ。 

  

「ザ・サイレント・チャイルド」は、健常者の一家に生まれた発話障害を持つ女の子の話。この子の世話をする女性は、女の子をちゃんとした設備のある施設で教育を受けさせるべきと主張するが、家族は人と違う場所で特別なことをさせるのはむしろ有害としてとり合わない。結果として少女は学校で友達ができず、浮いてしまう。 

  

これまた同時期に発話障害を持つ女性が主人公の「ザ・シェイプ・オブ・ウォーター (The Shape of Water)」を見たばかりだ。とはいえ発話障害は肉体的には健常者とほとんど変わるところはないから、パラリンピックには出られないんだろうなと、平昌冬季五輪を見ながら思ったりもする。この話がアカデミー賞を受賞した。 

  

「マイ・ネヒュウ・エメット」は、それほど遠くない昔のアメリカ南部の人種差別問題を扱う。いまだに差別というものはあるとはいえ、こうも歴然と人種差別があったのかという暗然とした気分は拭い難い。 

 

「ジ・イレヴン・オクロック」は唯一のユーモアもの。毎年ノミネートされている作品の中に一本はこういうコメディ系の作品がある。確かに全部超シリアスだったり時事的な問題を扱っていたりすると、暗澹たる気分に陥りやすい。意図的にコメディを最低1本は入れるというようなことはあるかもしれない。 

 

ラストの「ワフ・ヲト/オール・オブ・アス」は、個人的には最も興味深かった。まず、ドイツとケニアの共同製作という点からして興味を惹く。舞台はケニアだが、なぜそこにドイツが加わる? 想像するに、ケニア出身の映像作家がドイツで勉強しながら撮りあげたのでは、だからドイツの人間も参加して共同製作という形になっているのではと推測する。 

 

また、映像的にはあまり見る機会のないアフリカ大陸が’舞台でもある。ケニアに限らず、アフリカ大陸では、というかアフリカでもイスラム教とキリスト教の対立は根深く、殺し合いに発展する場合も多いという。作品の主人公の女性もクリスチャンで、家族をイスラム教徒に殺されたという過去を持つ。 

 

彼女は病気の母を見舞いに田舎に帰るため、長距離バスに乗る。乗客にはイスラム教徒も多かった。そのバスをイスラム系の集団が襲う。クリスチャンの彼女は最も標的になりやすいが、イスラム系乗客のとっさの機転でヒジャブを頭から被せられ、イスラムの振りをしてその場を切り抜けさせようとする。しかし敵も執拗に彼女の身分を明らかにしようと迫る。 

 

という、こういうまったく知らない世界を見せてくれるのが、外国語映画賞と並んで世界中から作品が集まるアカデミー賞の実写短編賞の醍醐味だ。特にこの作品は、今回の他のシリアスなドラマと異なり、最後は心暖まる終わり方になっているのもよかった。個人的にはこの作品に今回の実写短編賞を進呈する。 

 

 









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「デカルブ・エレメンタリー (DeKalb Elementary)」リード・ヴァン・ダイク監督 (USA) 20 min


デカルブ小学校に現れた若い男が、受け付けでライフルを取り出し、これは冗談ではないと宣告する。男は警察に通報することを要求、受け付けは警察に電話すると共に男を説得しようと試みる。 


  

「ザ・サイレント・チャイルド (The Silent Child)」クリス・オヴァートン監督 (英国) 20 min  

  

健常者の一家の中で一人だけ発話障害を持つ者として生まれた女の子に、ある通いの女性が手話を教えつつベイビーシットしている。女性は女の子を手話も使う特別な学校に行かせたいと思うが、家族は普通の学校でないと困ると、耳を貸さない。

 

  

「マイ・ネヒュウ・エメット (My Nephew Emmett)」ケヴィン・ウィルソンJr.監督 (USA) 20 min  

  

1950年代、南部で夫婦二人だけで住む黒人家庭の家に、若い甥の子が同居することになる。男の子はすぐに馴染み、やがて若い白人の女の子とデートするようになるが、それを快く思っていない町の白人も多かった。  


  

「ジ・イレヴン・オクロック (The Eleven O'Clock)」デリン・シール、ジョシュ・ロウソン監督 (オーストラリア) 13 min  

  

ある精神科医の元に新しい患者が通ってくることになる。その患者は、自分が精神科医と思っているのだった。  


  

「ワフ・ヲト/オール・オブ・アス (Watu Wote/All of Us)」カッチャ・ベンラス監督 (ドイツ/ケニア) 23 min  

  

クリスチャンとイスラムが対立するケニア。ある黒人女性は年老いた母の住む故郷を訪れるために、長距離バスに乗る。バスには多くのイスラム教徒が乗っていたが、クリスチャンの女性は、かつてイスラム教徒に夫を殺されていた。 


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