The Oscar Nominated Short Films Live Action 2017


2017年アカデミー賞短編作品賞ノミネート作品  (2017年3月)

「シング (Sing (Mindenki))」クリストフ・ディーク監督 (ハンガリー) 25 min 


歌の好きな女の子が新しい学校に転校してきて、さっそくコーラスに参加する。その学校はコーラスが強く、毎年コンクールで入賞しているため、女の子も張り切って参加した。最初の練習の後、女の子は指導の教師に呼ばれ、少し発声させた後、舞台では口パクをして、実際には歌うんじゃないと念を押される。



「サイレント・ナイツ (Silent Nights)」アスケ・バン監督 (デンマーク) 30 min 


ガーナからデンマークに出稼ぎに来た男は、結局厳しい現実に直面し、空き缶を拾って換金し、夜はシェルターで寝ることでなんとか糊口を凌いでいた。男はシェルターでヴォランティアで働く女性と懇意になるが、実は故郷には妻と子供たちがいて、彼からの送金を心待ちにしていた。 



「タイムコード (Timecode)」ファンホ・ヒムネス監督 (スペイン) 15 min 


ビルの駐車場を管理している女性に、上司から電話がかかってくる。駐車していたクルマに傷がついていたという苦情があったというのだ。監視カメラをチェックした女性は、深夜勤務の男性が勤務中に巡回しながらダンスのような動きをしたため、クルマを傷つけたことを発見する。 



「エネミース・ウィズイン (Enemies Within (Ennemis intérieurs))」セリム・アザジ監督 (フランス) 28 min 


モロッコ出身のある男性がフランスの移民局に呼ばれ、尋問を受けている。テロ関係に敏感になっている当局は、テロの脅威を払拭するため、テロリストになんらかの関係がありそうな者を呼び寄せて、協力か、さもなければ市民権剥奪かの選択かを迫る。 



「ザ・レイディ・オン・ザ・トレイン (The Lady on the Train (La femme et le TGV))」ティモ・フォン・ガンテン監督 (スイス) 30 min 


スイスでチョコレート屋を営む初老の女性は、TGVが走る線路沿いの一軒家に一人で住んでいた。彼女のたった一つとも言える趣味は、毎朝夕、家のそばを走るTGVに向かって旗を振って歓迎の意を表すことで、もう何年も欠かさず旗を振り続けていた。ある日、彼女は庭先に手紙が落ちているのを発見する。それはTGVの乗務員からだった。  


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外国語映画を見るのは楽しい。2時間のフィーチャー作品も当然面白いが、そのエッセンスだけを楽しめるのが、短編だ。特にこういう短編だけを集めたアンソロジーは、世界各地が見れて聞き慣れない言葉を聞いて、手軽に世界旅行している気分にさせる。もっとも、描かれているのはだいたいなんらかの問題や戦争だったりするのだが。 

 

マンハッタンを歩いていたりサブウェイに乗っていたりすると、前後左右にいる人々がそれぞれまったく知らない言葉を話しているということがよくある。私だって英語じゃない言語が母国語であるわけだし、たった2m四方の空間に三つも四つも異なる言語が飛び交うシーンにいるのは、意味もなく楽しい。何言ってるのかまったくわからねえよと思いながら、その言葉の響きだけを楽しむ。 

 

今回のアンソロジーはハンガリー、デンマーク、スペイン、そしてフランスから2本という構成。フランスの2本は、一本が社会派、もう一本がファンタジー系と丸っきり傾向の違う作品で、そういう幅の広さもまたアカデミー賞ならではの楽しみだ。 

 

「シング」は歌うことの大好きな女の子が、新しく入った学校のコーラスで、コンクールで入賞するために、あんたは実際には歌わなくて口パクだけでいいと女性教師から指導される。みんなで一緒に歌う振りだけでもしたい彼女は、渋々ながらその要求に従う。しかし女の子と親しくなっていた友だちは、彼女が実は歌ってないことに気づく。先生に直訴するが、しかし実はその女の子だけでなく、先生に言われて口パクだけで実際に歌ってない子が他に何人もいることが判明する。 

 

まだ小学生でこんな仕打ちを受けたら、結構大人になっても立ち直れないと思う。そこで子供たちがとった行動とは‥‥という話。指導の女性教師がすこぶる美人なのが実に効果的。この作品が見事オスカーでも短編賞を受賞したのだが、主役の女の子より美人の先生の方をよく覚えてて、授賞式で彼女も一緒に壇上に登っていたのを見て思わずにんまり。実物は本当は性格がよさ気で安心する。 

 

「サイレント・ナイツ」はデンマーク映画だが、主人公の二人はデンマーク人とガーナ人であるため、コミュニケイションを図る時は英語を喋る。中東からの難民問題で揺れるヨーロッパだが、それだけでなくアフリカからヨーロッパに来る出稼ぎも多く、そのことも問題を複雑にしている。 

 

ヨーロッパ出身の者は意外にドナルド・トランプに好意的な白人が多いので驚かされるのだが、移民難民出稼ぎで悩まされると、どうしてもシニカルな目を持ってしまうようだ。とはいえ「サイレント・ナイツ」自体はとても人道的な話だ。一方第4話の「エネミース・ウィズイン」は、最初パリで通常の移民に対する面談と思われて始まったものが、段々きな臭い話になってくる。主人公に対し、もしテロリストと見做されたくないなら、仲間を売れと迫られるのだ。 

 

第3話の「タイムコード」は、ストーリーがあってないようなもので、24時間体制のガレージで昼夜交代で勤める従業員が、お互いに、あれはたぶんカポエラなんではと思うが、監視カメラにダンスのような動きを撮り合ってコミュニケイションを図る? という話。一人が勤務に入ればもう一人はオフになるわけだが、交代時には顔を合わすし、ちょっとくらい話したって構わないだろうに、わざわざ監視カメラ上での無言のダンス会話が続く。私的にはこの話が最も面白かった。 

 

最終話の「ザ・レイディ・オン・ザ・トレイン」はフランス語圏スイスが舞台で、ジェイン・バーキンという有名女優が出ていることが、他の話と違う。TGVの線路沿いの家に住む老女性は、一日2回、目の前を走るTGVに向かって旗を振り続けることを生き甲斐にしていた。ある時、その女性の家の庭に手紙が投げ込まれていた。それはTGVの乗務員からのものだった。彼女はなんとかして返事を書こうとする。 

 

かなりファンタジーだが、作品の終わりには、これが実話を元にしているというテロップと記事、写真が入る。とはいえこれが実際に起こったことだとは俄かには信じ難い。かつての列車時代ならともかく、時速300kmのTGVは、まず運転席からだって走行中に窓を開けることができるかは疑問だ。万一それが可能だとしても、高速で走っているTGVから投げられた手紙が無事目的地の家の庭に着地するとは到底思えない。実話を元にしていると騙った寓話だと思うが、実際はどうなんだろう。むろん話としては面白い。もしかしたらTGVではなく、昔あったことをTGVを舞台に移し替えたとか。それなら考えられないことではない。芥川龍之介の「蜜柑」を思い出した。等々、今回も楽しませてくれた短編アンソロジーであった。 

 









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