放送局: NBC

プレミア放送日: 3/24/2005 (Thu) 21:30-22:00

製作: ルヴィール、NBCユニヴァーサルTV

製作総指揮: ベン・シルヴァーマン、グレッグ・ダニエルズ、リッキー・ジャーヴィス、スティーヴン・マーチャント、ハワード・クライン、ケン・クワピス

製作: ケント・ズボルナク

オリジナル版クリエイター: リッキー・ジャーヴィス、スティーヴン・マーチャント

監督: ケン・クワピス

脚本: リッキー・ジャーヴィス、スティーヴン・マーチャント、グレッグ・ダニエルズ

美術: ドナルド・リー・ハリス

出演: スティーヴ・キャレル (マイケル・スコット)、ジェナ・フィッシャー (パム・ビーズリー)、ジョン・クラシンスキ (ジム・ハーパート)、ライン・ウィルソン (ドワイト・シュルテ)、B. J. ノヴァク (ライアン・ハワード)、メロラ・ハーディン (ジャン)、デイヴィッド・デンマン (ロイ)


物語: ダンダー・ミフリン・ペイパー・サプライの地域統括マネージャー、マイケル・スコットは、自分では部下から慕われている有能な上司だと錯覚しているが、もちろんそんなことはない。部下は皆、スコットのことを横暴で無能な奴としか思っていない。今日もスコットは、本社からの重要なFAXを紛失したのを受付のパムのせいにしてしまう。その上本社代表が言うことには、支社は規模を縮小する必要があると言う。情報はすぐに漏れてしまい、よりにもよってスコットはパムを相手におまえがクビだと冗談にならない冗談を言ってまたもや顰蹙を買ってしまう‥‥


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時々、NBCが何を考えているのかさっぱりわからなくなる。たぶんこの数年間で圧倒的人気を博していた「サインフェルド」、「フレンズ」、「フレイジャー」といった人気シットコムが次々と最終回を迎え、さらには一時は無敵だった「ER」までもが人気凋落傾向に陥ったことと無関係ではあるまい。つまりNBCは焦っているのだ。


しかし、それでも、一昨年、そして今年とNBCがとったこのまるで不可解な行動は、解せないとしか言いようがなかった。要するにNBCが何をしたかというと、ヒット番組、特にヒット・シットコムの手駒が少なくなったために、自分たちで新しい番組を開発するということをせずに、できあいの番組、しかも同じ英語圏の英国の人気シットコムのリメイクに手を出したのだ。


これがどれほど不可解で間が抜けていて安直であるかは、今さら言うまでもない。英語で製作されているシットコムのリメイクである。もちろんクイーンズ・イングリッシュとアメリカン・イングリッシュの違いというものはあるが、だからといって何を言っているかわからないなんてことはもちろんない。その上その2本のシットコム、「カップリング (Coupling)」と「ジ・オフィス」は、英BBC番組であり、2本とも既にアメリカでもBBCアメリカにて放送済み、あるいは放送中であった。その両番組をわざわざまたアメリカでリメイクしたのだ。


これがリアリティ・ショウのリメイクなら、わからないではない。なぜならばリアリティ・ショウというものは、参加者が変わればまったく別ものになるからであり、それはオリジナルが英語圏の番組であろうが日本製の番組であろうが関係ない。だから英国でヒットした「ポップ・アイドル」をアメリカで「アメリカン・アイドル」としてリメイクしても人気番組になるし面白い。「カトちゃんケンちゃん」の素人ヴィデオ応募コーナーがアメリカで「アメリカズ・ファニイスト・ホーム・ヴィデオス」としてリメイクされても、もちろんやっぱり面白いのだ。


一方、当然のことながら、それが脚本に則って俳優が演技するドラマやシットコムとなると、話はまったく変わってくる。たぶんそれが英語圏の番組じゃなければ、リメイクにだって意味があるだろう。そうやって「リング」もヒットしたし、特にアジアのホラーは今、ハリウッドが先を争ってリメイク権を手に入れている。しかし、それほど文化圏が異なるわけでもない英国の番組、しかもオリジナルが今現在アメリカで放送中の番組を、わざわざまたアメリカで作り直すことの意義がどこにあるかははなはだ疑わしい。しかも、リメイクに際して特にネイム・ヴァリュウの高いスターを起用しているというわけでもないのだ。私じゃなくたってNBCがいったい何を考えているのか頭を捻るだろう。


そしてさらに理解に苦しんだのが、このリメイクが、本当にオリジナルのまったくそのままのリメイクだったことにある。つまりNBCは、オリジナルの脚本をそのまま利用してアメリカ版を作ってしまったのだ。もちろん、これがシェイクスピア戯曲の映像化とかであれば、話はわからないではない。古典は様々な解釈を許すし、演出家、俳優によるその解釈の違いこそが面白いからだ。とはいえ、これは昨年、一昨年のTVのヒット番組であり、はっきり言ってオリジナルが見れたらそれで充分だ。その翌年にまた別の俳優が同じ脚本に則って作った別番組を見ようという気になんか、さらさらなれない。興味本位でどうなるか見てみたいという気も少しくらいならないではないが、それを毎週見ようという気になんかなれないのはもちろんだ。


しかも、NBCは一昨年、「カップリング」で一度痛い目に遇っているのだ。「カップリング」は、現代の若い英国人のセックス・ライフを赤裸々に描いたシットコムということで地元でヒットしており、それに目をつけたNBCは、わりと鳴り物入りで、本気でそのリメイクを製作した。それなりに話題性がないこともなかったから、最初の方だけは注目されたことは事実である。最初の方だけは。


そしてもちろん、批評家からも視聴者からも見捨てられるのは早かった。放送が始まって2か月も経たないうちに話題は下火になり、これは失敗したと思ったNBCは、最初、11月のスイープ月間だけ番組を棚上げすると発表した後、なし崩し的に番組をキャンセルした。いずれにしても、誰も見てないから話題にすらならなかった。番組がキャンセルされたことにすら気づかなかった視聴者は多かったに違いない。それなのに、その傷もまだ癒えてないと思えるのに、今度は「オフィス」だ。懲りてない。なんにも学んでない。誰がどこからどう見ても、また「カップリング」の二の舞いになるだけなのがオチなのに。


「カップリング」も「オフィス」もNBCがリメイクを製作する前に、既にオリジナルがアメリカでもBBCアメリカで放送されていた。評判は聞いていたので、私も何回かは見ていた。とはいえ、私は仕事の都合上アメリカ産の番組を優先して見ていたので、それほど念入りに追っかけて見ていたわけではなく、共にプレミア・エピソードは見逃していた。NBCがオリジナル脚本をそのまま用いてリメイクを製作するということをその時点で知っていたら、見はしなくとも少なくとも録画はしておいて後で見較べるということもできたんだが、まあ、しょうがない。


実は「カップリング」でも「オフィス」でも、そのリメイクにはオリジナルのクリエイターが関わっている。彼らにとってはアメリカで露出度が増えることは、益になりこそすれ損にはならないだろうから、金を積まれてリメイクしたいんだがと言われれば、拒否する理由なんかまるでない。とはいえ、それでも、本気でアメリカ版も成功するとは思ってなかったのではないか。特に「オフィス」の場合、クリエイター兼主演のリッキー・ジャーヴィスにとっては、製作だけに関わり出演はしていないアメリカ版の方がオリジナルよりヒットしたりするのは、正直に言って避けたい事態に違いない。それでも自身の出演しないリメイクをOKしたのは、それが成功するとは本心では思ってないからという気がする。


両番組のアメリカ版においては、オリジナル・プロデューサーたちに混じって、アメリカ側からベン・シルヴァーマンが両番組に製作総指揮で参加している。基本的にこの人、この両番組以外で製作している番組はすべてリアリティ・ショウであり、同じくNBCで、一昨年の「ザ・レストラン」、昨年の「ザ・ビギスト・ルーザー (The Biggest Loser)」等、それなりの話題作を製作している。NBCの子飼いのプロデューサーと見た。その上NBC版「オフィス」なんて、製作はもろNBCユニヴァーサルであり、番組の権利は当然NBCが所有している。要するに、結局、手軽にヒット番組を手中にしたかったということなんだろう。


ところで「カップリング」のリメイクの完璧な失敗があまりにも印象的で、大々的に喧伝されてしまった嫌いがあるため忘れ去られがちだが、よく考えると、ドラマでもシットコムでも、昔から英国番組のアメリカでのリメイクというのは、実はなくもなかった。しかもそれなりに成功を収めていたりした。私が渡米したのは91年からであるので、実地に見聞したのではっきりと覚えているのはシットコムの「メン・ビヘイヴィング・バッドリー (Men Behaving Badly)」くらいしかないが、探せばまだまだあるはずだ。ついでに言うとこの「メン・ビヘイヴィング・バッドリー」も放送はNBCだった。NBCってのは、どうもこういう外国産番組のリメイクに飛びつきやすい傾向があるらしい。


しかし、その当時は、アメリカは今のような500チャンネル時代を迎えておらず、BBCアメリカもなく、つまり、いくら同じ英語圏の番組とはいえ、オリジナル番組をアメリカで見る機会はなかった。だからこそアメリカでのリメイクがそれなりに成功を収めたのだ。しかし今では、なんの労もなくオリジナルがアメリカでも見れてしまう。たとえアメリカで放送されなくても、ヴィデオやDVDが簡単に手に入るだろう。そういう時に、何か大きな付加価値をつけることができるのでもない限り、リメイクを製作する意味はどこにもないということをNBCの幹部はなぜ理解できない?


とまあ、マイナスの面ばかり目についたり強調されたりしていたアメリカ版「オフィス」であるが、これが実は、番組自体のできとしてはそれほど悪くない。明らかにオリジナルに比して質が落ちたと思えた「カップリング」のリメイクに較べれば、非常によくできているとさえ言える。別に出演する俳優のレヴェルが低いということもなく、これがリメイクではなくてオリジナルだったら、大いに誉めそやしたいところだ。大元の番組、脚本がよくできている証拠だろう。かなりオフ・ビートが利いていて、いかにも英国的な嗜虐的な笑いのテイストが満載なのだが、こういうのをアメリカでも作れるというのは新しい驚きでもある。考えたらアメリカでも、最近、「アレステッド・デヴェロップメント」みたいなオフ・ビート系の秀作が出てきている。この手の番組が出現する素地は充分に育っているのだ。


オリジナルでジャーヴィスが演じていた横暴ワンマン・マネージャーを今回演じているのは、「ザ・デイリー・ショウ」で知られるスティーヴ・キャレルで、その部下ドワイトをライン・ウィルソン、ジムをジョン・クラシンスキ、受付のパムをジェナ・フィッシャーが演じている。キャレルはいかにも一人よがりで自惚れた横暴マネージャーという役柄を好演しているのだが、しかし、ジャーヴィスが演じていたデイヴィッド・ブレントのひねくれ方に較べると、まだまだストレートなアメリカ人という感じがする。


実は私は、ウィルソン、クラシンスキ、フィッシャーという部下の微妙なひねくれ方の方により感心した。キャレルみたいに尊大になる必要がない分、肩肘張らずに演じられるのがいいのかもしれない。ウィルソンなんて、フィリップ・シーモア・ホフマン的な嫌らしさがよく出ているし、そのウィルソンとクラシンスキが、隣り合った机の上で書類がこちら側にはみ出してこないように境界線の攻防を演じるところなんてかなりにやりとさせてくれる。フィッシャーのあまり仕事ができなさそうな感じの出し方もうまい。しらばっくれた顔してステイプラーやボスのマグ・カップをジェリーの中に固めてしまうプラクティカル・ジョークにも笑わされた。日本の企業であそこまでやる勇気ある奴なんていないだろう。あるいは単にバカなだけか。


とまあそれなりに面白さを提供してくれる「オフィス」であるが、しかし、とはいえ、だから、では今後も見るつもりがあるかと訊かれると、答えは「ノー」としか言いようがない。まったく同じ時期にオリジナルが放送されているのに、やはりどんなにできのいいリメイクであろうと、二番煎じのアメリカ版を毎週見る気になんか到底ならないのだ。どう考えてもそれが普通の視聴者の反応だろう。このくらい、考えるまでもないこととしか私には思えない。実際、プレミア・エピソードだけは興味本位の視聴者がチャンネルを合わせたからそれなりの数字を上げた「オフィス」であるが、2回目からは視聴率は急降下した。当然だろう。


「オフィス」は2004-05年シーズンも終わりに向かって、6回だけ放送された。最後の方は誰も話題にしていなかったので、たぶん番組はこれで終わりだろうと私は思っていた。そしたらNBCは、今秋の9月の新シーズンに、「オフィス」をレギュラー番組として編成すると発表した。うわあ自殺行為。とち狂ったとしか思えない。6回放送しただけで既にもう誰も見なくなっているのに。たぶん高い金出してリメイク権を買い、社内製作であるためにもしヒットしたら利益丸儲けであるため、すぐにキャンセルするのが惜しくなったのだろうと推測するが、やめた方がいいのにとしか思えない。落ち目になったNBCが復活するのにはまだまだ時間がかかりそうだ。






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The Office

ジ・オフィス   ★★1/2

 
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